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相続した空き家に家具や生活用品が残っていると、先に片付け費用を払うべきか迷うものです。空き家を片付けないで売る道はありますが、荷物をどこまで残せるかは、売り方と契約で変わります。そのうえ、相続放棄を考えている場合のように、家財に手を付けてはいけない場面もあります。
片付けないで売れる?「査定」と「引渡し」で意味が違う
売る家に残された家具や生活用品を、不動産の取引では「残置物(ざんちぶつ)」と呼びます。残置物がある状態でも、査定や、残置物を含めた条件での買取を相談できる会社があります。
ただし、「片付けないで売る」の中身は、段階によって違います。査定、売出し、引渡しの3つに分けて考えると、何をいつ決めるかが見えてきます。
| 段階 | 残置物があるとどうなるか | 決めること |
|---|---|---|
| 査定時 | 荷物があっても、おおよその査定を受けられる場合がある | 撤去する前提の査定か、残したままの査定か |
| 売出し時 | 内覧に来た人の印象に影響する | 売り出す前に撤去するか、売りながら撤去するか |
| 引渡し時 | 契約で決めた状態で引き渡す | 空にして渡すか、残置物ごと渡すか |
気をつけたいのは、査定を受けられることと、残置物ごと引き渡せることが別だという点です。査定のときに「このままで大丈夫」と言われても、引渡しの条件は売買契約で改めて決めます。残置物を残すかどうかは、最後は買主との約束になるからです。
荷物を残したまま内覧を受けるときの準備は、相続した空き家の内覧前準備の記事にまとめています。
手を付ける前に、処分してよいかを確かめる
片付けないで売る場合でも、途中で何かを捨てたり、業者に引き取ってもらったりする場面は出てきます。その前に、相続放棄の可能性と、家財の持ち主の2つを確かめてください。どちらかがはっきりしないうちは、家財を売ったり、人に譲ったり、捨てたりしないのが安全です。
相続放棄を考えているなら、家財は動かさない
亡くなった方に借金や未払いのお金がありそうなら、相続放棄(遺産を一切引き継がない手続き)を考えることがあります。その間に家財を売ったり捨てたりすると、相続を認めたとみなされる場合があります(出典:民法第921条。参照資料の一覧へ移ります)。これを法定単純承認といいます。そうなると、あとから相続放棄を申し立てても、認められなくなるかもしれません。
相続放棄は、自分が相続人になったことを知った時から、原則3か月以内に申し立てます(出典:裁判所 相続の放棄の申述。参照資料の一覧へ移ります)。申し立て先は、亡くなった方の最後の住所地を受け持つ家庭裁判所です。財産や借金の調べが期間内に終わらないときは、その期間内に、期間を延ばすよう申し立てることもできます。
放棄を考えているときの確認の順番は、相続放棄を検討中の実家を片付けてよいかの記事で確かめられます。
家財の持ち主は、亡くなった方とは限らない
実家の家財には、亡くなった方の物ではない物が混ざっていることがあります。次のような物は、持ち主や契約を確かめてから扱いを決めます。
- 同居していた家族の私物や、独立した子どもが置いていった物
- 介護用ベッドや車いすなど、福祉用具のリース品
- ウォーターサーバーやモデムなど、レンタルの機器
- 近所の人や知人からの預かり物
- 分割払いが残り、払い終わるまで販売元に所有権がある物(所有権留保)
こうした物は、売主や相続人だけの判断で捨てたり、買主に渡したりせず、持ち主に確認してください。また、相続人が何人かいるときは、1人の判断で処分しないでください。形見分けと処分の方針は相続人全員で決め、書面やメールで記録を残しておきます。遺言書があるかどうかを確かめていない段階でも、処分は待つほうが安全です。
図の説明
相続放棄を考えているなら、家財を売る・譲る・捨てるのを止め、戸締まりや換気の管理だけにする。重要な物でも持ち出す前に弁護士に相談する。考えていなければ、次に持ち主が分からない物や他人の物があるかを見る。ある場合は、その物について、リース品、レンタル機器、預かり物、家族の私物などの持ち主や契約を確かめてから扱いを決め、相続人1人の判断で処分しない。次に安全に入れるかを見る。入れなければその部屋には入らず、見るのは安全な範囲だけにして、確認は専門業者に頼める。入れるなら、安全に入れる範囲で重要な物を取り出し、残りは写真で記録する。浸水の跡、焦げ跡、配線の傷みがあれば、電気を通す前に電気工事店などへ安全の確認を頼む。相続放棄と持ち主のどちらかがはっきりしないうちは、売る・譲る・捨てるを控える。
詳しく:処分に当たるもの、当たらないもの
詳しい説明を開く
民法第921条第1号は、相続人が相続財産の全部または一部を処分したとき、相続を認めたとみなすと定めています(出典:民法第921条。参照資料の一覧へ移ります)。一方で、建物が傷むのを防ぐ応急処置などの保存行為は、処分に当たらないとされています。換気などの管理を含め、迷う作業は、手を付ける前に弁護士に相談してください。
値打ちのある遺品や家具を売ること、回収業者に引き取らせて捨てることは、処分に当たる可能性が高い行為です。値打ちが低そうに見える物でも、自由に捨ててよいとは限らず、個別の事情で判断が変わります。
危険な家には入らない。重要な物だけ先に取り出す
長く閉め切っていた空き家では、床が抜けたり、電気の設備が傷んでいたりすることがあります。マスクや手袋を着けても、床の崩落や感電までは防げません。安全を確かめられない部屋や屋根裏には入らず、自分で見るのは安全な範囲にとどめてください。
危ない所や、建物の傷みが心配な所は、専門業者に確認を頼む方法があります。その場合は、調べてもらう場所と、頼む作業の範囲を絞って依頼します。
相続放棄を考えている場合は、重要な物でも、持ち出す前に弁護士に相談してください。考えていない場合は、業者が入る前に、安全に入れる範囲で次の物を取り出して保管します。
- 現金(引き出し、衣類のポケット、仏壇の奥など)
- 通帳、キャッシュカード、証券会社からの書類
- 権利証(登記済証)や登記識別情報通知
- 実印、印鑑登録カード、マイナンバーカード
- 遺言書、保険証券、年金や健康保険の書類
- 建物の図面、建築確認の書類、境界確認書
業者に任せたあとでは、誤って捨てられた物を探し出すのは難しくなります。形見分けの品を含め、捨ててはいけない物の見分け方は、相続した実家の片付けの記事にまとめています。
先に取り出す物は、無料の相続した実家の「捨てない物」チェックリストで一つずつ確かめられます。
荷物の量を写真と一覧で残す
重要な物を取り出したら、残った荷物の様子を記録します。写真をまとめた「写真台帳」と、部屋ごとの「残置物一覧」の2つです。どちらも、不動産会社に査定を頼むときや、片付けの見積りを取るときの材料になります。
撮影は、安全に入れる範囲で次の順に進めます。
- 部屋ごとに、全体が分かるよう複数の角度から撮る
- 押入れ、クローゼット、床下収納、下駄箱の扉を開けて中を撮る
- 庭、物置、車庫、ベランダに残っている物を撮る
- 運び出しの経路として、前の道路の幅、敷地の入口、トラックを止める場所、階段を撮る
写真をもとに、部屋ごとの一覧を作ります。記入例は次のとおりです。
| 場所 | 品目と量の目安 | 扱い(残す・形見分け・処分) | メモ |
|---|---|---|---|
| 和室(1階) | 婚礼タンス2竿、座卓、座布団5枚 | 買主に引き継ぐか、業者が処分 | タンスの中は確認済み |
| 台所 | 冷蔵庫1台、食器棚、調理器具 | 冷蔵庫は家電リサイクル、棚は処分 | 割れ物がある |
| 居間 | エアコン1台、テレビ、ソファー | エアコンは残すか相談、ほかは処分 | レンタル品か確認 |
| 屋外の物置 | タイヤ4本、農具、塗料の缶 | すべて処分 | 塗料の処分先を確認 |
一覧があれば、契約のときに「何を引き渡し、何を運び出したか」を示せます。引渡しのあとで、買主との食い違いを防ぐ手がかりにもなるでしょう。
片付けないで売る3つの方法は、残置物の撤去費用まで見込んだ手取りと期間で比べる
残置物がある空き家の売り方は、大きく分けて3つです。不動産会社が自ら買い取る「買取」が1つ、不動産会社が買主を探す「仲介」が2つあります。違いは、誰がいつ残置物を片付けるかです。
| 売り方 | 片付ける人と時期 | 価格の傾向 | 期間の傾向 | 気をつけること |
|---|---|---|---|---|
| 買取 | 買取会社が残置物ごと引き受ける場合がある | 会社と条件で変わる(仲介より低い場合もある) | 会社と条件で変わる(早い場合もある) | 処分の費用が価格にどう反映されるか |
| 仲介・引渡しまでに撤去 | 売主が、売出し前・売出し中・売買契約後のいずれかに、契約で決めた引渡し期限までに撤去 | 相場に近い価格を狙える | 物件と条件で変わる | 内覧の印象と、撤去の期限 |
| 仲介・買主が引き継ぐ | 買主が引き継いで撤去 | 処分費分の値引きを求められることがある | 長くなる場合がある | 引き継ぐ範囲と責任を契約で決める |
買取では、「片付け不要」「処分費ゼロ」と案内されることがあります。ただし、残置物を引き受ける条件が提示価格にどう反映されているかは、会社によって違います。引き受ける範囲も会社と条件で違い、どんな物でも無条件に引き取るとは限りません。
たとえば、次のような場合です(想定の例)。買取の提示額が、処分費を見込んだ金額だったとします。それなのに契約書に「残置物処分費」が別に書かれていれば、同じ費用を払う形になりかねません。提示額の内訳と、別に請求される費用がないかを、契約の前に書面で確かめてください。
売り方を比べるときは、提示される価格の高さだけでなく、手元に残るお金と売り終えるまでの期間を見ます。手取りは「売却価格-(片付け費用+仲介手数料+登記や測量の費用+売却にかかる税金)」で見積もります。買取価格から処分費がすでに引かれているなら、片付け費用を二重に引かないように計算しましょう。
差し引かれる処分費は、家の広さや場所、荷物の量で変わるため、一律の金額では示せません。残置物の条件をそろえて複数の会社から提示を受け、差し引かれる項目を比べるのが確かです。仲介と買取の違い全体は、空き家の仲介と買取の違いの記事で整理しています。買取会社を選ぶときの比べ方は、空き家の買取業者の選び方の記事で確かめられます。
残置物の撤去を頼むなら、業者の許可と費用の内訳を確かめる
売主が片付けを手配するときや、不動産会社から業者を紹介されたときは、ごみを運ぶ業者の許可を確かめます。家庭から出る家具や不用品を集めて運べる業者は、限られています。市区町村から一般廃棄物処理業(収集運搬)の許可を受けた業者か、委託を受けた業者です(出典:環境省。参照資料の一覧へ移ります)。
古物商の許可や、産業廃棄物の許可だけでは、家庭のごみは運べません。古物商は中古品を売り買いする許可で、産業廃棄物は会社や工場から出るごみを扱う許可だからです。
不用品回収サービスでは、高額な料金を請求されるなどのトラブルが起きています(出典:国民生活センター。参照資料の一覧へ移ります)。頼む前に、次の点を確かめてください。
- 市区町村の許可を自社で持っているか、市区町村の委託を受けているか
- 提携先が運ぶなら、実際に運ぶ会社の名前と、その会社の許可
- 見積書に、人件費・車両費・処分費・家電リサイクル料金の内訳があるか
- 「積み放題」などの定額プランで、追加料金がかかる条件が書面にあるか
家電と、ごみ収集で扱えない物
エアコン、テレビ、冷蔵庫・冷凍庫、洗濯機・衣類乾燥機の4品目は、家電リサイクル法の対象です(出典:環境省 家電リサイクル法の概要。参照資料の一覧へ移ります)。小売店に頼む場合は、リサイクル料金と収集運搬料金を払い、家電リサイクル券の写しを受け取ります(出典:環境省 家電リサイクル法Q&A。参照資料の一覧へ移ります)。引渡し後に処理状況を確かめる手がかりになるので、控えは保管しておくと安心です。
消火器、LPガスのボンベ、耐火金庫、車のバッテリー、農薬や塗料などは、ふつうのごみ収集では扱えないことがあります(出典:環境省 処理困難物調査。参照資料の一覧へ移ります)。扱いは自治体ごとに違うため、全国共通の一覧で判断することはできません。物件の所在地の市区町村や、メーカー、販売店の案内に従って処分先を決めます。見積書の内訳の読み方と費用の目安は、空き家の片付け費用の記事にまとめました。
残置物ごと引き渡すなら、契約で何を決める?
残置物を残したまま引き渡すなら、そのことを売買契約書に特約として書きます。「現況有姿(今の状態のまま)で引き渡す」と書くだけでは足りません。この一文だけでは、残した家財が誰の物になるのかがはっきりしないからです。
建物の契約不適合責任も、この一文で当然になくなるわけではありません(出典:不動産適正取引推進機構。参照資料の一覧へ移ります)。契約不適合責任とは、引き渡した物が契約の内容と違ったときに、売主が負う責任です(出典:民法第562条。参照資料の一覧へ移ります)。次の3つは、それぞれ別のことを決めています。
| 言葉 | 決めていること |
|---|---|
| 現況有姿 | 今の状態のまま引き渡すこと |
| 残置物の所有権 | 残した家財が誰の物になり、誰が処分できるか |
| 契約不適合責任 | 契約と違う点があったとき、売主が責任を負うか |
売買では、大事な約束事を書面に残すのが基本です(出典:不動産売買の手引。参照資料の一覧へ移ります)。残置物ごと渡すなら、次の項目を契約の前に不動産会社と相談してください。
- 引き渡す家財と除く物を分けた一覧(目録)を、別紙として付ける
- 目録に含める家財の持ち主を確かめ、第三者の物は目録から除くこと
- 相続財産である家財を目録のとおり引き渡すことについて、相続人全員の同意を記録すること
- 目録の家財の所有権を買主に移すか、移すならいつか
- 残置物を片付ける人、その期限、追加料金を含む費用の負担
- 残置物そのものの故障や傷みについて、売主が責任を負うか
- 引渡しのあとに現金や書類が見つかったときの返し方
残置物についての責任は、建物の責任とは別の条項に書き分けます。目録には売主と買主の双方が署名し、合意した範囲をはっきりさせます。特約の書き方は物件ごとの事情で変わるため、不動産会社の案文を読み、分からない点は弁護士に確認してください。
不動産会社に何を持って行き、何を聞く?
不動産会社に相談するときは、口で伝えるだけでなく、判断の材料を持って行きます。そろえておきたいのは、次の資料です。
- 登記事項証明書、または固定資産税の納税通知書
- 公図、地積測量図、建物の間取り図(手元にあれば)
- 写真台帳と、部屋ごとの残置物一覧
- 相続人が誰かを書き出したメモ
担当者には、次のことを具体的に尋ねてください。
- 残置物ごとの買取と、片付けてからの仲介で、手取りの見込みと期間はどう違うか
- 買取の契約書に、残置物の所有権と責任についての条項は入るか
- 紹介される片付け業者は、市区町村の許可業者か委託業者か。実際に運ぶのはどの会社か
- この地域では、撤去してから売り出したほうが問い合わせを得やすい物件か
この記事の内容は一般的な情報です。相続放棄は家庭裁判所や弁護士に、ごみの処分は物件のある市区町村に、売り方と契約は不動産会社に確認してください。名義の確認から引渡しまでの全体の流れは、相続した家を売却する流れの記事で確かめられます。
