空き家は、家具や家財をすべて片付けてからでなければ売れないとは限りません。
ただし、荷物を残したまま査定を受けることと、残置物を残した状態で買主へ引き渡すことは別です。前者は相談できる会社がありますが、後者には買主の明確な合意と契約上の取り決めが必要です。
最初から「全部捨てる」「全部残す」と決めず、次の3案を比べてください。
- 荷物を残したまま査定し、撤去範囲を後で決める
- 仲介で売り出し、契約で決めた期限までに撤去する
- 残置物を引き受ける買主と、対象・費用・処分条件を書面で決めて引き渡す
「片付けないで売る」には3段階ある
| 段階 | 荷物を残せる可能性 | 確認する相手 | 決めること |
|---|---|---|---|
| 査定時 | 比較的相談しやすい | 査定する不動産会社 | 見えない箇所、再確認、査定の前提 |
| 売出し・内覧時 | 物件と荷物量による | 仲介会社、購入希望者 | 写真撮影・内覧に必要な範囲 |
| 引渡し時 | 買主の明確な合意が必要 | 買主、不動産会社 | 対象物、費用、所有権、処分、期限 |
「荷物が残っていても査定できる」と言われても、「その状態で引き渡してよい」という意味とは限りません。査定を頼むときは、次の二つを分けて質問します。
- 現在の状態で査定・現地確認ができるか
- 売却時に残置物を残せる可能性があるか
先に処分を止めるケース
次のどれかに当てはまる場合は、家財の売却・譲渡・廃棄を進めず、先に処分権限と手続を確認してください。
- 相続放棄を検討している
- 遺言書や相続人を確認していない
- 相続人の意見がそろっていない
- 家族や第三者から借りた物が混在している
- 現金、通帳、印鑑、貴金属、権利関係書類が見つかっていない
- 所有者を判断できない物がある
危険物や腐敗物について必要な安全確保をすることと、財産としての家財を売却・譲渡・廃棄することは分けて考えます。家財の処分が相続財産の「処分」に当たれば、保存行為等を除き、民法921条(新しいタブで開きます)により法定単純承認とみなされることがあります。家財の処分と相続放棄の関係は個別事情で判断が変わるため、処分前に弁護士へ相談してください。相続放棄の申述手続は裁判所の案内(新しいタブで開きます)で確認できます。所有者不明物や共同相続人の処分権限についても、弁護士等へ確認します。
写真記録、重要物、捨てない書類の分け方は、相続した実家を片付ける前に残すもので詳しく整理しています。本記事では売却条件だけを扱います。
片付けより先に査定を検討するケース
次のような状況では、高額な撤去を契約する前に、現在の状態を不動産会社へ伝える方法があります。
- 家財が多く、撤去範囲を決められない
- 遠方に住み、何度も現地へ行けない
- 建物が古く、買主が利用するか解体するか分からない
- 雨漏りや傷みがあり、仲介と買取のどちらになるか分からない
- 片付け費用を負担しても売却条件が改善するか分からない
- 家具や設備の一部を買主が使う可能性がある
先に査定する目的は、片付けを省略すると決めることではありません。誰が、何を、いつまでに、どの費用で撤去する条件になるかを把握することです。
荷物で床・壁・収納・設備が見えない場合は、建物状態を十分に確認できず、査定に条件が付いたり撤去後の再確認が必要になったりします。見えなかった場所と再確認の時期を査定担当者へ聞いてください。
方法1 荷物を残して査定し、撤去範囲を後で決める
売り方が決まっていない段階では、荷物を残したまま査定を依頼し、次の条件を分けて確認します。
- 片付け後に仲介で売る場合
- 内覧に必要な範囲だけ整えて仲介で売る場合
- 残置物を含む条件で買い取ってもらう場合
- 建物を使わず、土地を中心に評価する場合
査定書では、残置物のため確認できなかった場所、撤去費を含むか、撤去後に金額を見直す可能性があるかを確認します。
この方法なら、売却条件を知らないまま片付け費用を確定せずに済みます。一方、最終的な建物状態を確認するため、一部移動や再査定が必要になる可能性があります。
方法2 仲介で売り、引渡しまでに撤去する
仲介では、不動産会社が購入希望者を探します。荷物が残った状態で売り出せるかは物件ごとの判断ですが、内覧では床、壁、水回り、収納、設備が見える方が、購入希望者は状態を判断しやすくなります。
全撤去を最初に終えるのではなく、段階を分けられる場合があります。
- 査定時は荷物を残す
- 写真撮影・内覧に必要な場所を整える
- 売買条件が決まってから最終撤去する
- 契約で合意した状態にして引き渡す
媒介契約の前に、広告写真を撮るために空ける場所、内覧前に動かす物、引渡しまでに撤去する物、買主へ残せる可能性がある物、撤去完了の確認日を聞きます。
不動産会社が片付け業者を紹介することと、不動産会社が廃棄物処理の責任を負うことは同じではありません。処分契約を誰と結ぶのか、許可、作業範囲、追加料金を確認してください。
方法3 残置物を引き受ける買主へ売る
不動産会社等が直接買主になる買取などでは、残置物を含む条件を提示できる場合があります。ただし、「残置物そのまま可」という表示だけで判断してはいけません。
| 確認項目 | 具体的に聞くこと |
|---|---|
| 対象物 | 家具、家電、衣類、屋外物置の中身まで含むか |
| 対象外 | 危険物、液体、医薬品、車両、金庫等の例外 |
| 費用 | 撤去費を別途請求するか、価格へ反映済みか |
| 所有権・処分 | いつ誰へ移り、誰が処分できる状態になるか |
| 引渡し | 鍵、重要書類、持ち出す物をどう区別するか |
| 追加発見 | 契約後に屋根裏・床下等で物が見つかった場合 |
| 最終確認 | 写真、一覧、現地立会いのどれで状態を確定するか |
「全部引き取る」と口頭で言われても、対象範囲が書面になっていなければ認識違いが起きます。残す物を部屋別に撮影し、「この写真の状態で引き渡す」と確認できるようにします。
買取会社によって、対象物、危険物、処分費、対応地域は異なります。残置物を買主が引き受ける合意と、土地・建物の契約不適合責任の範囲は別の契約事項です。責任範囲は売買契約書・特約で個別に確認してください。
3つの進め方を比較する
| 進め方 | 先に必要な負担 | 状態確認 | 契約で特に確認すること |
|---|---|---|---|
| 全部片付けてから査定 | 撤去作業と費用を先に負担 | 室内を確認しやすい | 処分契約と売却条件を分ける |
| 査定後に撤去範囲を決める | 写真・重要物の仕分け | 見えない箇所は再確認の可能性 | 査定前提、撤去期限、再査定 |
| 残置物ごと引き渡す | 最低限の仕分けと契約確認 | 買主の提示条件による | 対象物、費用、所有権、処分責任 |
どれが最も高く売れるかは、物件、地域、家財量、建物状態、買主によって変わります。売却価格だけでなく、自分が負担する撤去・移動費、現地へ行く回数、引渡し後に残る作業を同じ表にして比べます。
残置物について契約書で決める7項目
残置物を残す場合は、「現況のまま」「残置物あり」とだけ記載せず、少なくとも次を確認します。
- 残す物の種類と場所
- 撤去する物と撤去期限
- 撤去・処分費用の負担者
- 残す物の所有権と処分できる時点
- 買主が処分してよい範囲
- 契約後に追加の物が見つかった場合の扱い
- 引渡し前の写真・現地確認方法
現況有姿、契約不適合に関する取り決め、残置物の所有権・処分は同じ意味ではありません。 それぞれ契約書のどこに書かれているか確認します。
家の不具合は、残置物の陰で確認できなかったことと、売主が知っていたことを分けて伝えます。不動産適正取引推進機構の2026年度版手引(新しいタブで開きます)も、売主が知っている状況や不具合を購入希望者へ伝える流れを案内しています。
家財を処分する場合は、許可と方法を確認する
家庭から出る家具、衣類、日用品等の廃棄物は、原則として一般廃棄物です。家庭ごみの収集・運搬を業者へ依頼する場合は、原則として、空き家所在地の市区町村で一般廃棄物収集運搬業の許可を受けた業者、または市区町村の委託業者を利用します。排出者自身による処理施設への持込みの可否と条件も、空き家所在地の市区町村へ確認してください。環境省の注意事項(新しいタブで開きます)
産業廃棄物処理業、解体工事業、古物商の許可だけでは、家庭ごみを収集・運搬できません。まだ使える物を古物として買い取ることと、不要な物を廃棄物として収集することも別です。
処分する場合は、空き家が所在する市区町村へ次を確認します。
- 粗大ごみの申込み方法と持込施設
- 市区町村が許可・委託している業者
- 家電4品目の処分方法
- 危険物、消火器、ガスボンベ、薬品等の相談先
家電リサイクル法の対象となるのは、家庭用の「エアコン」「テレビ(ブラウン管式・液晶式・有機EL式・プラズマ式)」「電気冷蔵庫・電気冷凍庫」「電気洗濯機・衣類乾燥機」の4品目です。業務用機器や一部の対象外製品があるため、品目・型式を確認してください。購入店が分からない場合を含む処分方法は、経済産業省の家電リサイクル制度FAQ(新しいタブで開きます)と所在地の市区町村で確認します。
「定額パック」「追加料金なし」という広告でも、作業後に高額請求された相談があります。国民生活センターの注意喚起(新しいタブで開きます)を参考に、作業範囲、処分・運搬費、追加料金の条件、キャンセル料、支払時期を作業前に書面で確認してください。
片付けずに売る5段階
- 重要物と所有者不明の物だけ先に分ける — 相続や所有者が曖昧なら処分を止める
- 部屋ごとに荷物量と状態を撮影する — 押入れ、物置、屋根裏、庭も記録する
- 現在の状態で査定できるか相談する — 見えない箇所と再確認の条件を聞く
- 売却条件と片付け条件を分けて比較する — 価格、撤去費、現地へ行く回数、残る作業を比べる
- 残す物と責任を契約書へ記載する — 対象、費用、所有権、処分、期限、最終確認を確定する
よくある質問
荷物で床が見えなくても査定できますか?
相談できる場合はありますが、見えない部分は査定に条件が付き、撤去後に再確認が必要になることがあります。申込み時に荷物量と確認できない部屋を伝えてください。
残置物を残すと、必ず売却価格が下がりますか?
全国一律には判断できません。撤去費だけでなく、物件の利用方法、建物状態、買主の再販・解体計画で変わります。残す場合と撤去する場合の前提を分けて確認します。
買主が「全部そのままでよい」と言えば、口頭合意で十分ですか?
口頭だけにせず、残す物、費用、所有権、処分できる時点、引渡し状態を売買契約書や特約で確認してください。部屋別の写真や一覧も認識合わせに使えます。
不動産会社に片付けをまとめて頼めば、許可確認は不要ですか?
不要にはなりません。不動産の仲介・買取と、家庭ごみの収集・運搬は別の業務です。別業者を手配する場合も、処分契約の相手、空き家所在地における一般廃棄物収集運搬業の許可または市区町村の委託、料金内訳を確認します。
次は、売却全体の現在地を確認する
残置物の扱いを決めても、相続登記、査定、契約、引渡しの順序は別に確認が必要です。相続した家を売却する7段階へ進み、自分が今どの段階にいるかを特定してください。