空き家の維持費に、全国共通の「年間○万円」という答えはありません。
土地・建物の税額、保険契約、管理方法、実家までの距離、庭の広さ、建物の傷み、マンションか戸建てかで支出が変わるためです。
2025年8月に公表された国土交通省の令和6年空き家所有者実態調査(新しいタブで開きます)では、年間の維持管理費が「10万円以上20万円未満」の空き家は16.7%で、単独の回答区分として最も多くなっています。「費用はかかっていない」12.1%、「1万円未満」10.6%、「1万円以上3万円未満」14.1%、「3万円以上5万円未満」11.0%を合計すると、5万円未満は47.8%です。「30万円以上」は8.5%、「不明」は2.9%でした。
この調査は、令和5年住宅・土地統計調査で、現住居以外に居住世帯のない住宅を所有すると回答した世帯から抽出した調査です。法人・団体所有の空き家は含まず、使用目的のない空き家だけでなく、貸家用、売却用、二次的住宅・別荘用も含みます。同じ種類を複数所有する場合は代表的な1戸を回答し、結果は比率を求めるために拡大推計されています。したがって、相続した未利用の一戸建てだけの相場として読む数字ではありません。
調査上の「維持管理に要する費用」は、建物・敷地の年間維持管理費です。管理委託料、契約中の電話・ガス・水道等、空き家までの交通費、税金を含み、共同住宅・長屋では共益費、管理費、修繕積立金等も含みます。
最上位が金額上限のない「30万円以上」で、各区分内の実額も公表されていないため、この表だけから全国平均額は計算できません。この記事では分布を予算額として転用せず、手元の書類から対象物件の実額を集計します。
維持費は「実績・翌年予算・予備費」に分ける
一つの合計だけを作ると、すでに支払った費用と、まだ起きていない修繕費が混ざります。次の3列へ分けます。
| 区分 | 入れるもの | 使い方 |
|---|---|---|
| 年間実績 | 過去12か月に実際に支払った額 | 現在の負担を確認する |
| 翌年予算 | 契約額、支払予定、取得済み見積り | 次の1年に必要な現金を準備する |
| 緊急予備費 | 金額未確定の応急対応に備える額 | 実際の支出とは別に管理する |
修繕のために確保した予備費は、支出していない限り年間実績へ入れません。毎月自動で支払う管理費や保険料は、少額でも年額にします。
空き家の年間維持費を8項目で計算する
| 費目 | 年額の出し方 | 確認する資料 | 年間実績 | 翌年予算 | 緊急予備費 |
|---|---|---|---|---|---|
| 1. 固定資産税・都市計画税 | 最新通知書の年税額 | 納税通知書・課税明細 | |||
| 2. 火災保険・地震保険等 | 過去12か月の支払額/翌年の支払予定額 | 保険証券・更新案内 | |||
| 3. 電気・水道・ガス・通信・警備 | 直近12か月の請求合計 | 請求明細・契約一覧 | |||
| 4. 自主管理の交通・宿泊・資材 | 1回分×年間回数+宿泊・資材 | 交通履歴・領収書 | |||
| 5. 空き家管理サービス委託 | 月額×12+有料オプション | 管理委託契約・見積書 | |||
| 6. 草刈り・剪定・除雪等 | 1回分×予定回数 | 請求書・見積書 | |||
| 7. 点検・補修・修繕 | 支払済み、確定見積り、未確定の予備費を分ける | 点検記録・工事見積 | |||
| 8. マンション等の固有費 | 月額×12+臨時徴収予定 | 管理組合・管理会社の明細 | |||
| 合計 | __円 | __円 | __円 |
翌年に確保する現金の目安は「翌年予算の合計+緊急予備費」です。予備費は支出するまで年間実績へ加えず、実際に使った年に該当費目へ振り替えます。
住宅ローン返済、相続登記、家財の一括処分、解体、売却仲介手数料、売却時の税は、この表へ混ぜません。維持費とは別の「債務・一時費用」として記録します。
1. 固定資産税・都市計画税は納税通知書から転記する
固定資産税を「売れそうな価格×税率」で計算すると、実際の納税額とずれることがあります。課税標準や住宅用地の扱いが関係するため、最新の納税通知書に記載された年税額を使います。
- 土地分と家屋分
- 固定資産税と都市計画税
- 住宅用地に関する記載
- 前年から税額・課税明細が変わった箇所
空き家になっただけで、直ちに住宅用地特例が外れるわけではありません。一方、管理不全空家等または特定空家等について市区町村から指導を受け、それに従わず勧告の対象になると、その敷地は住宅用地特例の対象から除外されます。これは「空き家に指定された時点で税額が一律に何倍になる」という制度ではありません。国土交通省の空家法案内(新しいタブで開きます)で制度の入口を確認し、対象となる土地、課税時期、実際の税額は納税通知書と所在地の市区町村で確認してください。
本記事では年税額の転記までとし、住宅用地特例の要件や税額計算は別記事で扱います。
2. 保険料は「空き家になった後も契約が有効か」を確認する
保険証券に年払額が書かれていても、その金額を無条件に翌年予算へ移さないでください。
日本損害保険協会の案内(新しいタブで開きます)は、一般的な通知事項として「建物の構造・用法の変更」等を挙げていますが、空き家になった事実そのものが、すべての契約で一律に通知事項になるという意味ではありません。
ただし、居住状況の変化によって建物の用法区分、引受条件、補償範囲等が変わる可能性があります。保険会社または代理店へ現在の利用状況を正確に伝え、次を確認します。
- 空き家になったことについて手続が必要か
- 現契約を継続できるか
- 建物と家財のどちらが対象か
- 補償内容、免責金額、保険期間
- 次回更新時の保険料
「空き家なら必ず高くなる」「住宅用火災保険は必ず使えない」と全国一律には断定できません。契約と物件条件を伝えた後の回答・見積額を年額表へ入れます。
複数年一括払いの保険料は、年間実績には実際に支払った額、翌年予算には翌年に支払う予定額を入れます。契約期間で割った年換算額を比較に使う場合は、実績・予算とは別にメモします。
3. 光熱・通信・警備費は管理方法と一緒に決める
空き家でも、電気、水道、ガス、固定電話、インターネット、警備、遠隔監視等の契約が残っていれば支払いが続きます。
ただし、すべて解約すればよいとは限りません。点検時に照明や水を使うのか、凍結対策や設備稼働が必要か、管理を委託するのかで判断が変わります。
国土交通省の空き家管理受託ガイドライン(新しいタブで開きます)も、電気・水道・ガスの契約状況を確認し、必要事項を管理契約で定めるよう案内しています。
年額は直近12か月の請求を合計します。契約停止を検討する場合は、基本料金、停止・再開の条件、管理作業への影響を各事業者へ確認してください。
4. 自分で管理する場合は移動費と時間を分ける
自主管理は管理委託料がかからなくても、無料とは限りません。
現金支出は、次の式で計算します。
1回の往復交通費 × 年間訪問回数 + 宿泊費 + 高速・駐車料金 + 清掃用品・消耗品
| 項目 | 1回 | 年間回数 | 年間合計 |
|---|---|---|---|
| 交通・燃料 | |||
| 高速・駐車 | |||
| 宿泊 | |||
| 清掃・管理資材 | |||
| 移動・作業時間 | 時間 | 時間 |
時間は円の合計へ入れませんが、後で「売る・貸す・残す」を比べる際の負担になります。遠方管理の役割分担は、遠方の実家を売却する方法で確認できます。
5. 管理委託料は月額だけで比較しない
空き家管理サービスは、外観確認だけの契約と、室内立入り、通風、通水、郵便物確認、写真報告、災害後確認等を含む契約で内容が違います。
国土交通省の管理受託ガイドライン(新しいタブで開きます)では、作業内容と頻度、報酬、再委託、報告、責任範囲、家財の扱い等を契約で定めることが想定されています。
見積りは次の条件をそろえます。
- 訪問頻度
- 屋外だけか、室内へ入るか
- 写真・報告書の内容
- 草刈り、清掃、災害後確認が別料金か
- 鍵の保管方法
- 出張費と緊急対応費
- 再委託の有無
月額料金は12倍し、有料オプションと予定回数を加えて翌年予算へ入れます。4には自主管理の移動・宿泊と別途購入した資材、5には管理委託契約の基本料金とオプション、6には管理委託に含まれない別発注の草刈り・剪定・除雪、7には別発注の点検・補修・修繕を入れます。
6. 草木・除雪等は敷地と地域に合わせる
戸建てでは、次の費用が発生することがあります。
- 草刈り、庭木剪定、越境枝への対応
- 落ち葉、側溝、屋外ごみの清掃
- 害虫・害獣への対応
- 雪下ろし、除雪、凍結対策
- 浄化槽、井戸、私設設備の点検
- 自治会費や共同施設費
全国共通の単価は置かず、前年の請求額か、作業範囲を明記した見積りを使います。「一式」だけでなく、対象面積、樹木の本数、処分費、車両費、年間回数を確認してください。
7. 修繕費は実績と予備費を混ぜない
国土交通省の空き家管理案内(新しいタブで開きます)は、当面除却・活用できない空き家にも適切な管理が必要で、自己管理が難しい場合は管理業者や修繕業者の利用を検討するよう案内しています。
修繕費は次の3つに分けます。
- すでに支払った補修費
- 必要性が判明し、見積りを取得した予定工事
- 内容も金額も未確定の緊急予備費
雨漏り、外壁、屋根、給排水、窓、塀、擁壁等は、状態と工事範囲で金額が変わります。「建物価格の何%」と一律に置かず、現況確認と個別見積りを優先してください。
売却価値を高めるためのリフォームは、空き家を安全に保つ補修とは別の投資判断です。この年間維持費表には混ぜません。
8. マンションは管理費・修繕積立金を忘れない
分譲マンションの空き室では、戸建てにない項目があります。
- 管理費
- 修繕積立金
- 駐車場、駐輪場、トランクルーム
- 専有部分の水道・給湯・警備契約
- 管理組合から通知された臨時徴収
国土交通省の空き家所有者実態調査でも、共同住宅・長屋の維持管理費には共益費・管理費・修繕積立金等を含めています。
管理会社・管理組合の直近明細を12か月分確認し、改定や臨時徴収予定が通知されていれば、年間実績とは別に翌年予算へ記録します。
全国調査の金額をそのまま予算にしない
国土交通省調査では5万円未満の回答が47.8%ありますが、これは「5万円あれば適切に管理できる」という基準ではありません。
同調査では、腐朽・破損の程度が大きい空き家ほど、維持管理費が5万円未満の割合が高い傾向も示されています。この結果だけで原因と結果は判断できませんが、支出が少ないことだけで管理状態がよいとは言えません。
自分の予算は次の順で作ります。
- 過去12か月の実支出を集計する
- 契約更新後の税・保険・管理費を確認する
- 草木や点検等の予定回数を決める
- 必要な作業だけ個別見積りを取る
- 実績と予備費を分ける
- 次に見直す日を決める
10年保有は「年額×10」だけで決めない
現在の年間額を10倍すると、保有負担の最初の目安になります。ただし、税額、保険料、管理契約、建物状態、修繕時期は変わるため、10年間の確定額ではありません。
| 年 | 毎年の費用 | その年だけの予定 | 見直す条件 |
|---|---|---|---|
| 1年目 | 保険更新、現況確認 | ||
| 2年目 | |||
| 3年目 | 利用予定の再確認 | ||
| 4〜5年目 | 点検・修繕見積り | ||
| 6〜10年目 | 売却・賃貸・利用の再判断 |
国土技術政策総合研究所は、一定の条件と管理シナリオに基づき、今後10年間のコストを大まかに推計する空き家管理・対策の効果・コスト推計ツール(新しいタブで開きます)を公開しています。この推計には、毎年確実に支払う費用だけでなく、周辺住民への対応費や、管理不全化による事故等の損害期待額が含まれます。参考欄には解体費等も表示されます。
そのため、ツールの結果を本記事の「年間実績×10」と同じ意味の現金支出額として足し合わせないでください。1年表は手元資金の予算、国総研ツールは条件付きの長期リスク比較として、目的を分けて使います。結果は物件ごとの確定費用ではありません。詳しい前提は所有者向け利用ガイド(新しいタブで開きます)で確認できます。
よくある質問
空き家の年間維持費の平均はいくらですか?
最新の国土交通省調査では費用帯別の分布が示されていますが、最上位が「30万円以上」の開放区分なので、公表表だけから全国平均額は計算できません。最も多い単独区分は10万円以上20万円未満ですが、税額、距離、管理方法、建物状態で変わります。
光熱費はすべて止めたほうが安くなりますか?
支払いだけなら減る可能性がありますが、照明、通水、凍結対策、警備、管理作業に必要な契約もあります。管理方法を決めた後、各事業者へ基本料金と停止・再開の条件を確認してください。
共有名義なら、自分の持分だけ計算すればよいですか?
まず空き家全体にかかる年間費用を作ります。その後、誰がどの費用をどの割合で負担するかを共有者間で確認し、支払記録を残してください。
「費用はかかっていない」という回答もあります。0円で保有できますか?
調査には「費用はかかっていない」という区分がありますが、税の状況、費用負担者、管理状態等の個別事情までは、その数字だけでは分かりません。自分の納税通知書と契約を確認せず、0円を前提にしないでください。
次に決めるのは「いつまで保有するか」
- 過去12か月の実支出を集計した
- 税金と保険の翌年額を確認した
- 自主管理の移動費と時間を記録した
- 管理委託と個別作業を二重計上していない
- 修繕実績と緊急予備費を分けた
- 次に方針を見直す日を決めた
年間合計と見直し日が決まったら、家を売る・貸す・残す比較軸へ進みます。ここで出した年間維持費を「残す場合の負担」へ入れ、家族の希望、管理の手間、期限と並べて判断してください。