相続した実家を「賃貸に出して家賃収入を得るか、それとも売却するか」で迷ったときは、毎月入る家賃の額面だけで決めてはいけません。貸主としての権利関係や建物の修繕義務、最初にかかるリフォーム費用を確かめる必要があります。さらに、空室が出た場合を想定した年間の手残りや、将来売却するときに使える税金の特例も並べて比べなければなりません。
特に注意が必要なのは、第三者へ貸した事実があると、将来売却する際の空き家特例に影響する点です。賃貸の準備を始める前に、国税庁の相続空き家特例(新しいタブで開きます)で「貸付けの用に供されていないこと」という要件を確認し、売却する場合と比較しましょう。
1. 貸主の権利関係と住宅ローン・保険を確認する
家を他人に貸すと、貸主として法的な責任を継続して負うことになります。まずは物件の権利関係と、残っている借入金(債務)、保険の内容を詳しく確認しましょう。
相続登記と共有名義の合意要件
遺産分割が終わっていない共有不動産を賃貸に出すときは、契約期間や契約形態によって必要な合意が変わります。相続登記についても、法務省の義務化案内(新しいタブで開きます)を確認し、賃貸契約とは別に進めてください。
民法上の「管理行為」(民法第252条第4項)として持分価格の過半数で決められるのは、建物の賃貸借であれば「契約期間が3年を超えない短期の契約」などに限られます。ここでいう過半数の基準は、相続人の人数ではなく、持分価格の過半数です。
一方、借りる側の権利が強く守られる普通借家契約や長期の賃貸借契約は、管理行為の範囲を超えます。これらは共有物の「処分や変更」(民法第251条)に近い行為とみなされるため、共有者全員の合意が必要と解釈されるのが一般的です。このように契約の種類や期間によって必要な同意が異なるため、条件を決める前に弁護士や司法書士といった法律の専門家へ相談してください。
また、仮に持分価格の過半数で契約を結べたとしても、注意すべき点があります。家賃収入をどう分けるか、将来の修繕費を誰が負担するか、解約や売却をどう判断するかなどを巡って、相続人の間でトラブルになるおそれがあるためです。さらに、名義や権限がはっきり決まっていない物件は、不動産の仲介会社や管理会社から入居者募集を断られる事例もあります。
そのため、原則として遺産分割協議をきちんとまとめ、実際の分割内容に沿って正しく相続登記を終えてから、賃貸の手続きを進めるのが安全です。手続きを急ぐあまり、特定の代表者だけに都合よく名義を登記することは避けてください。実態に合った登記を行ったうえで、必要に応じて連絡窓口や契約の代理人を決める形で対応しましょう。
住宅ローン残債と融資約款の確認
亡くなった方(被相続人)が住宅ローンを返済中だった場合は、まず残りの借入金(残債)があるかを確認します。団体信用生命保険(団信)が適用されて残債が完済・消滅しているか、それとも相続人がローンを引き継いでいるかを確かめてください。
返済中の住宅ローンが残っている物件は、もともと契約者本人が住むことを前提にお金を借りています。そのため、金融機関に黙って賃貸に出すと契約違反(金銭消費貸借契約の約款違反)になり、残りのローン全額を一括で返すよう請求されるリスクがあります。
相続や転勤といったやむを得ない事情で貸し出すときは、必ず事前に借入先の金融機関へ相談してください。一時的な賃貸として認めてもらうか、賃貸事業向けの投資用アパートローンへ借り換える手続きが必要です。
建物所有者向け保険と入居者向け補償の整理
空き家を賃貸住宅にする際は、建物の実際の使い方に合わせた保険の契約変更と、入居者に加入してもらう補償の指定が必要です。
亡くなった方が加入していた住居用の火災保険や地震保険は、用途の変更手続き(自分で住む家から賃貸住宅へ変更すること)が必要になります。住む人が変わったからといって、すぐにすべての保険契約が無効になるとは限りません。しかし、使い方が変わったことを保険会社に伝えないまま放置すると、万が一の事故のときに補償を受けられなかったり、保険金が支払われなかったりするおそれがあります。契約者や保険の対象者を変更するとともに、賃貸物件として補償を続けられるかを保険会社へ確認してください。
また、賃貸住宅の保険は「建物の所有者が入る補償」と「入居者に入ってもらう補償」を分けて考えます。
- 所有者側:建物の火災・風水害・地震に備える保険に加えて、建物の欠陥や水漏れで入居者や近隣に損害を与えてしまった場合に備える「施設賠償責任特約」などを検討します。
- 入居者側:入居者自身の家財を守る保険に加えて、借主の失火や水漏れなどで大家さんに対して法律上の損害賠償責任を負った場合に備える「借家人賠償責任保険(特約)」への加入を、賃貸借契約の条件にします。
借家人賠償責任保険は、借りた人が大家さんに対して負う賠償責任をカバーする保険です。所有者自身が加入して、自分の建物の損害を直接補償する仕組みではありません。特約の名前だけで判断せず、保険会社や代理店に詳しい補償範囲を確認して手配を進めましょう。
2. 貸主の修繕義務と初期費用を見積もる
民法第606条(新しいタブで開きます)は、賃貸物を使用・収益するために必要な修繕を貸主の義務として定めています。長年住んでいた実家でも、貸し出す前に建物と設備を点検し、必要な修繕範囲を見積もってください。
賃貸前に確認すべき建物の箇所
入居者の安全性や住み心地を確保するため、募集を始める前に次の箇所を点検します。
- 屋根・外壁:雨漏りがないか、目地(シーリング材)が劣化していないか、外壁にひび割れがないか
- 水回り設備:給湯器が正常に動くか、給排水管の詰まりや水漏れがないか、水回り設備の衛生状態
- 躯体・基礎:シロアリ被害がないか、建物の基礎にひび割れがないか、床や柱が傾いていないか
- 建具・電気設備:窓サッシがスムーズに開閉するか、網戸が破れていないか、ブレーカー(分電盤)の容量が足りているか、漏電がないか
- 室内の残置物:亡くなった方の家財道具、不用品、仏壇のほか、庭木や敷地内の放置車両をきちんと撤去できているか
初期にかかる費用項目と回収年数の試算
家を賃貸に出す準備には、まとまった初期費用がかかります。一般的な木造戸建て(延床面積100平方メートル前後、3LDK〜4LDKを想定)にかかる概算費用の目安は次の通りです。実際の金額は築年数や傷み具合、工事を頼む業者によって変わるため、必ず現地を見てもらった上で実際に見積もりを取って確認してください。
- 残置物処分費:家財道具一式の撤去と処分(戸建ての一例として30万円〜100万円程度、税込)
- ハウスクリーニング・鍵交換費:専門業者による清掃と防犯のための鍵交換(一例として10万円〜20万円程度、税込)
- 内装・設備補修費:壁紙の部分的な張り替え、畳の表替え、給湯器の交換、水回りの補修など(一例として50万円〜200万円以上、税込)
- 外装・構造修繕費:雨漏りの修理、屋根や外壁の塗装、シロアリの駆除や予防など(必要に応じて100万円〜200万円以上、税込)
たとえば、初期費用として合計300万円がかかった場合、年間の純手残り(実際に手元に残るお金)が50万円だとすると、初期費用を取り戻すだけで丸6年かかります。古い戸建てほど入居中にも急な設備の故障や修繕が起こりやすいため、見積もりを取った上で何年で初期投資を回収できるかを冷静に見極めてください。
なお、入居者が退去するときの原状回復(元の状態に戻す費用をどちらが負担するか)を巡るトラブルを防ぐためにも、入居前の状態を写真とチェックシートでしっかり記録しておくことが大切です。内外装や設備がどこまで傷んでいたかを残しておきましょう。詳しい基準は国土交通省「民間賃貸住宅」(新しいタブで開きます)に掲載されている「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」で確認できます。
3. 家賃収入をそのまま利益とせず年間純手残りを試算する
賃貸経営の収支を考える際、想定した家賃の全額が手元に残るわけではありません。空室の発生やさまざまな経費、納税額、そして借入がある場合の返済額を差し引いた「年間純手残り(手元に残る現金収支・キャッシュフロー)」を計算します。
年間純手残りの計算構造
年間純手残りは次の式で計算します。
- 年間純手残り = 年間満室想定家賃 - 空室・滞納損失 - 運営経費 - 納税額(所得税・住民税の増加額) - ローン元利返済額(借入がある場合)
住宅ローンが残っている場合、元本の返済分は税金上の必要経費になりませんが、手元の現金を減らす支出です。そのため、帳簿上の利益と、実際に銀行口座に残る現金収支(キャッシュフロー)をきちんと区別して計算する必要があります。
発生する運営経費の内訳と募集費用
賃貸を運営する上でかかる主な経費は次のとおりです。税務上の経費は国税庁「必要経費」(新しいタブで開きます)、募集時の報酬上限は国土交通省の不動産取引案内(新しいタブで開きます)と契約書で確認してください。
- 管理委託手数料:管理会社に見回りや家賃の集金を任せる費用です(満室時の家賃の5%前後が目安ですが、定額制の場合や業務範囲によって異なります)。
- 固定資産税・都市計画税:毎年かかる税金です(他人に貸している間も所有者が負担します)。
- 火災保険料・地震保険料:賃貸物件用の年間保険料です。
- 維持修繕積立金:急な設備の故障や水漏れに備えて、自分で積み立てておくお金です(手元にお金を残しておくだけなので、実際に修理代を支払うまでは税務上の経費になりません)。
- 媒介報酬(仲介手数料):不動産会社に支払う仲介手数料です。宅地建物取引業法に基づき、住居用賃貸の仲介手数料の上限は貸主と借主の合計で「家賃1か月分+消費税等」と定められています。また、依頼する側の承諾がない限り、貸主の片方だけから受け取れる額は「家賃0.5か月分+消費税等」以内と決められています。
- 広告料(AD等):法律や国の通達により、貸主が特別に依頼した広告の実費でなければ請求できません。通常の入居者募集にかかる費用を、仲介手数料とは別に二重で請求することは認められていません(長期間空き家になっている物件などを対象とした特例の例外であっても、貸主の合意が必要であり、借主が負担する上限が広がるわけではありません)。
空室リスクの織り込み方と複数シナリオ
「一括借り上げ(サブリース)を利用すれば空室の心配がない」と思い込むのは危険です。サブリース契約であっても、契約の当初や退去したあとに家賃が支払われない「免責期間」が設けられていたり、定期的に家賃の減額を求められたりするリスクがあります。
戸建ての賃貸は、ファミリー層が入居すると長く住んでもらいやすい反面、退去したあとの募集期間が長引きやすい特徴を持ちます。そのため、「年間1〜2か月空室になる程度だろう」と甘く見積もっていると、次の入居者が見つかるまでに半年以上かかったり、急な修繕が重なったりしたときに、資金計画が行き詰まってしまうおそれがあります。
ですから、すぐに次の入居者が決まる短い空室のパターンだけでなく、「退去後に半年ほど空室が続いて設備の交換も重なる」といった厳しいパターンなど、複数の条件を想定して年間の手残りや回収にかかる年数を比べておくことが大切です。
想定賃料と実質収支のシミュレーション例
次の表は比較方法を示す仮定の試算です。実際の収入・必要経費は、国税庁「不動産収入を受け取ったとき」(新しいタブで開きます)を確認し、物件ごとの見積額へ置き換えてください。
| 項目 | 金額(年間) | 試算の前提・備考 |
|---|---|---|
| 想定家賃収入 | 1,200,000円 | 月額10万円×12か月(満室想定) |
| 空室・滞納損失 | ▲100,000円 | 年間1か月相当の空室を仮定 |
| 管理委託手数料 | ▲60,000円 | 満室想定賃料の5%(月額5,000円定額)として計算 |
| 固定資産税・都市計画税 | ▲120,000円 | 自治体の課税明細書に基づく概算額 |
| 火災・地震保険料 | ▲40,000円 | 賃貸用保険の年間換算額 |
| 維持修繕積立金 | ▲120,000円 | 将来の修繕に備える手元留保資金(※税務経費外) |
| 所得税・住民税の増加額 | ▲110,000円 | 一定の課税所得を仮定した税額増加の概算試算 |
| 年間実質純手残り | 約650,000円 | 月額換算で約5.4万円(※借入なしの場合) |
上の表のように、額面で120万円の家賃収入があっても、実際の手残りは年間約65万円(月あたり約5.4万円)ほどに減ってしまいます。これは借入金がなく、すべて試算の前提通りに進んだ場合の計算です。もし借入が残っている場合は、ここからさらに元利返済額が差し引かれます。
最初のリフォームに200万円をかけた場合、上記の年間純手残り(約65万円)が毎年順調に維持されたとしても、初期費用を取り戻すまでに約3年かかります。途中で退去があって空室が出たり、大がかりな修繕が必要になったりすれば回収期間はさらに延びるため、手残り金額を多めに見積もりすぎないことが重要です。
年間の手残りだけで賃貸を決めるのは早計です。国税庁の相続空き家特例(新しいタブで開きます)には貸付けに関する要件があるため、賃貸で得る手残りと、特例を使えない場合の税額差を、税務署または税理士へ確認して比較してください。
4. 普通借家と定期借家の特徴を比較して契約形態を選ぶ
賃貸借契約には、「普通建物賃貸借(普通借家)」と「定期建物賃貸借(定期借家)」の2種類があります。将来その家をどう扱うかという出口戦略(最終的な処分方法)に合わせて選びます。
普通建物賃貸借(普通借家)の特徴と注意点
普通借家契約は、借りる側の住む権利(居住権)が法律で強く保護されている契約方式です。契約期間(通常は2年)が終わっても、借主が更新を希望すれば、原則としてこれまでと同じ条件で契約が更新されます。
大家さん側から契約の更新を断ったり解約を申し入れたりするには、借地借家法第28条に定められた「正当事由(正当な理由)」が必要です。正当事由があるかどうかは、大家さんと借主の双方が建物の使用を必要とする事情や、これまでの契約の経緯、建物の利用状況、提示される立退料の金額などを総合的に考慮して判断されます。「生活に困っている」「立退料を支払う」といった事情があっても当然に認められるわけではなく、大家さん側の一方的な都合だけで退去を求めることは極めて困難です。
そのため、将来「自分や家族が住みたくなった」「建物を解体して更地で売りたくなった」と思っても、借主が住んでいる間はいつ家を明け渡してもらえるかを確約できません。入居者が住んだまま売却する「オーナーチェンジ」の場合、自分が住むために家を探している人は購入を見送ります。その結果、賃貸条件や利回りといった投資採算性に基づいて、価格が評価される傾向があります。
定期建物賃貸借(定期借家)の特徴と厳格な手続き要件
定期借家契約は、借地借家法第38条に基づき、契約期間の満了によって更新なく終了する契約方式です。要件と終了手続きは、国土交通省「定期建物賃貸借」(新しいタブで開きます)と実際の契約書を照合してください。
ただし、定期借家契約を法的に有効なものにするには、法律で定められた以下の要件を厳格に守らなければなりません。
- 書面または電磁的記録による契約締結:要件は国土交通省「定期建物賃貸借」(新しいタブで開きます)と借地借家法の該当条項で確認します。
- 契約締結前の事前説明義務(同条第2項・第3項):契約を結ぶ前に、あらかじめ「契約の更新がなく、期間満了によって賃貸借が終了する」という内容を記載した独立した書面を交付して説明しなければなりません(電磁的方法で行う場合は借主の承諾が必要です)。この事前説明を怠ると「更新がない」という特約が無効になり、普通借家契約とみなされてしまいます。
- 期間満了前の終了通知(同条第4項):契約期間が1年以上の契約では、期間満了の1年前から6か月前までの間に、借主へ「期間満了によって契約が終了する」という通知を送る必要があります。通知が遅れてもすぐに普通借家へ転換するわけではありませんが、通知をした日から6か月が過ぎるまでは、借主に対して契約終了を主張(対抗)できません。
また、「契約の終了」と「借主が実際に退去すること」は別の問題です。期間が満了しても借主が退去に応じない場合は、明け渡しの交渉や法的手続きが必要になります。そのため、期間満了の日の直後に、確実に自分が住めたり解体工事に入れたりするとは限りません。なお、定期借家は「いつか退去しなければならない」という期限付きの制約があるため、同じ地域の一般的な普通借家の相場に比べて家賃を割安に設定しないと入居者が集まりにくい傾向があります。
| 比較項目 | 普通建物賃貸借(普通借家) | 定期建物賃貸借(定期借家) |
|---|---|---|
| 契約の更新 | 借主が希望すれば原則として更新される | 更新なし(期間満了により終了) |
| 貸主からの解約・更新拒絶 | 借地借家法第28条の正当事由(諸要素の考慮)が必要 | 期間満了により終了(正当事由は不要) |
| 契約成立の要件 | 書面または口頭(実務上は書面) | 書面等での契約締結と事前説明書面の交付・説明が必須 |
| 終了通知の手続き | 期間満了の1年前から6か月前までに更新拒絶の通知 | 1年以上の契約は満了1年前〜6か月前までに終了通知が必要(遅延時は通知後6か月経過まで終了対抗不可) |
| 想定家賃水準 | 周辺の市場相場に準ずる | 期限付きの制約から相場より割安な設定を求められる傾向 |
| 入居中の売却(オーナーチェンジ) | 実需買主がすぐ住めず利回り評価となる傾向 | 期間満了・退去後は空家として実需層へ売却可能(明渡し完了が前提) |
手続きの詳しい内容は国土交通省「定期建物賃貸借」(新しいタブで開きます)で確認できます。
5. 自主管理と管理委託の負担と役割を整理する
入居者が決まったあとの賃貸管理には、「自主管理」と「管理委託」の2つの方法があります。
自主管理の実態と負担
自主管理は、管理会社へ手数料を支払わずに済むため、手元に残るお金を増やしやすい利点があります。しかし、貸主自身が日常的に次のような仕事を担わなければなりません。
- 毎月の家賃がきちんと入金されているかの確認と、滞納が発生した際の督促連絡
- 夜間や休日の突発的な設備トラブルへの対応(給湯器の故障、水漏れ、鍵の紛失など)
- 近隣住民からの苦情対応(ゴミ出しのルール違反、騒音、庭木の越境など)
- 入居者が退去する際の現地立ち会い、原状回復費用の査定、敷金の精算交渉
物件の近隣に住んでおり、建物の不具合や入居者からの連絡にすぐ駆けつけられる余裕がなければ、自主管理を続けるのは困難です。実家から離れた遠方に住んでいる相続人の場合は、専門の管理会社へ委託するのが現実的です。
管理委託を選ぶ際の確認項目と業者の登録状況
管理委託料は定率制・定額制など会社によって異なります。集金代行、苦情対応、修理手配のどこまでが含まれるかをそろえ、複数社から見積もりを取って比較してください。
管理会社の登録義務や業務ルールは、賃貸住宅管理業法(新しいタブで開きます)と国土交通省の登録情報で確認します。管理戸数によって登録義務の有無が分かれるため、未登録という事実だけで違法と判断せず、委託先へ管理戸数と登録状況を確認してください。
ただし、管理料を払えばすべて任せきりにできるわけではありません。管理会社を選ぶ際は、次の項目を契約書面でしっかり確認してください。
- 委託業務の範囲:集金代行、巡回点検、緊急対応、滞納督促、原状回復の手配などのうち、どこまでが基本料金に含まれるか
- 追加費用の有無:契約更新手続きの手数料、退去の立ち会い費用、広告宣伝費などが別途発生するか
- 修繕発注の承認基準:突発的な設備故障が起きた際、貸主の事前承諾なしで業者が発注できる上限金額がいくらに設定されているか
- 資金管理の方法:預かった敷金や毎月の家賃が適切に分別管理され、送金期日が明確に定められているか
6. 不動産所得の税務処理と必要経費の範囲を把握する
家賃収入を得ると、給与所得や年金収入とは別に「不動産所得」として課税の対象になります。所得の状況に応じて確定申告が必要になるため、あらかじめ税務の基本を押さえましょう。詳しい内容は国税庁「不動産収入を受け取ったとき」(新しいタブで開きます)で確認できます。
不動産所得の計算式と確定申告の判定
不動産所得の金額は、次の計算式で算出します。
- 不動産所得 = 総収入金額 - 必要経費
総収入金額には、毎月の家賃や共益費のほか、礼金、更新料、返還不要の敷金などが含まれます。退去時に返還する敷金は単なる預り金のため、収入には含めません。
確定申告の要否は、本業の収入形態やほかの所得によって分かれます。年末調整を受けた給与所得者の申告要件は、国税庁「給与所得者で確定申告が必要な人」(新しいタブで開きます)で対象年分の条件を確認してください。
所得税の確定申告が不要でも、住民税の申告が必要になる場合があります。また、不動産所得の赤字をほかの所得と損益通算して還付を受ける場合は確定申告が必要です。国税庁の確定申告案内(新しいタブで開きます)と住所地の自治体の両方で確認してください。
算入できる必要経費と支出年度に全額経費としない支出
税務上の必要経費として認められる範囲は、国税庁「必要経費」(新しいタブで開きます)で定められています。
必要経費にできる主な支出項目:
- 固定資産税・都市計画税(賃貸の用に供している建物および敷地部分に対応する税額)
- 損害保険料(賃貸物件にかかる火災保険料・地震保険料)
- 減価償却費(建物本体および付属設備の法定耐用年数に応じた減価償却額)
- 管理委託費・仲介手数料・広告宣伝費(適正に支払われた募集・管理手数料)
- 修繕費(現状を維持し、通常の効用を回復するための原状回復や小規模修理の費用)
- 借入金利子(物件取得や修繕のために借り入れたローンの利息部分)
支出年度に全額を経費算入できない支出・経費にならない項目:
- 借入金の元本返済部分(必要経費になるのは利息のみであり、元本を返済した分は経費になりません)
- 資本的支出(建物の耐久性を増したり価値を高めたりする大規模改修費用は、支出した年度に一括計上できません。固定資産に計上し、耐用年数に応じて減価償却費として順次経費化します)
- 相続税の納税額
- 個人としての生活費や私的な飲食費
7. 売却前に必ず確認する「空き家の3,000万円特別控除」の適用除外リスク
相続した空き家を賃貸に出すか売却するかを判断する上で、最も注意すべき税制上の分岐点が「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例(空き家の3,000万円特別控除)」の存在です。詳しい要件は国税庁「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」(新しいタブで開きます)に規定されています。
空き家の3,000万円特別控除の概要と適用要件
国税庁の相続空き家特例(新しいタブで開きます)では、建築時期、相続人の数、耐震改修や除却、譲渡時期などで控除額と適用可否が分かれます。金額だけで判断せず、売却予定日と相続人数を含めて要件表で確認してください。
税額差は、控除前の課税譲渡所得、所有期間、ほかの特例によって変わります。国税庁の長期譲渡所得の税額計算(新しいタブで開きます)を使い、「最大約いくら」という表現だけで賃貸・売却を決めないでください。
本特例には譲渡期限があります。改正で延長・変更される可能性があるため、国税庁の相続空き家特例(新しいタブで開きます)で対象期間と相続開始日からの期限を確認してください。相続直前の居住状況や区分所有建物でないことなど、ほかの要件も同時に確認します。
一度でも貸付けの実態が生じると特例が使えなくなるリスク
この特例の適用要件には、「相続の時から譲渡の時まで、引き続き居住の用、事業の用または『貸付けの用』に供されていないこと」という厳格な定めがあります。
「数年間だけ賃貸に出して家賃収入を得て、借主が退去したら特例を使って売却しよう」と考えて貸し出した場合、その時点で「貸付けの用に供された」と判断されます。その後に入居者が退去して再び空き家に戻したとしても、特例の適用資格は回復できません。
税務上で「貸付けの用に供された」と判定される時点(募集開始、契約締結、引渡し、入居日など)は、個別の経緯によって判断を要する場合があります。勝手な自己判断を避け、賃貸化に向けて動き出す前に税務署や税理士へ確認してください。
旧耐震基準の建物を相続してこの特例の対象になる場合、数年間の賃貸経営で得る純手残りよりも、特例を使えなくなることによる増税額のほうが大きくなるケースも想定されます。貸し出す手続きを始める前に、売却査定と特例適用の可否を並行して試算すべき最大の理由がここにあります。
8. 賃貸と売却の判断フローと専門家への相談手順
賃貸と売却のどちらが適しているかは、物件の状態や立地需要、相続人の意向やライフプランによって分かれます。
賃貸と売却の向き・不向き
賃貸化が向いているケース:
- 駅から近いなど、戸建て賃貸としての実需需要が旺盛な地域にある
- 建物の耐震性や設備状態が良好で、初期費用を数年程度で回収できる見込みがある
- 将来自分や家族が戻って住む計画があり、期限を定めた定期借家契約で運用できる
- 空室期間や突発的な設備修繕といった経営リスクを受け入れられる
売却が向いているケースです。空き家特例に関する項目は、国税庁の要件(新しいタブで開きます)を満たすことが前提です。
- 築年数が古く、安全な賃貸住宅として貸し出すための修繕や残置物撤去に多額の費用がかかる
- 昭和56年5月以前建築で「空き家の3,000万円特別控除」の要件を満たし、節税メリットが大きい
- 相続人が複数おり、共有名義で賃貸経営を続けるよりも現金化して遺産分割を完了させたい
- 物件が遠方にあり、将来にわたる建物管理や修繕判断に関与し続けることが難しい
相談前に揃える書類一覧
不動産会社、税理士、司法書士へ相談する際は、次の資料を揃えておくと正確な査定や試算を円滑に受けられます。
- 登記事項証明書(法務局で取得します。名義、所有権移転の履歴、抵当権の設定状況を確認します)
- 固定資産税・都市計画税の納税通知書および課税明細書(市区町村から送付された書類です。固定資産税評価額と毎年の税額を確認します)
- 建物の図面・建築確認済証・検査済証(建築年月日、増改築の有無、間取りを確認します)
- 過去のリフォーム履歴・点検記録(雨漏り修繕、給湯器交換、シロアリ防除の履歴を確認します)
- 住宅ローンの返済予定表または残高証明書(借入残債が残っている場合に用意します)
専門家への具体的な質問事項
相談先ごとに確認すべき要点を整理して質問します。
不動産仲介・管理会社への質問:
- 現状の建物状態で貸す場合の想定家賃と、安全に貸すために必要な初期修繕の見積額はいくらか
- 普通借家と定期借家のそれぞれにおいて、この地域の需要と想定される募集期間はどの程度か
- 今すぐ現状のまま売却した場合の査定額と、賃貸中のオーナーチェンジで売却する場合の価格差はどれくらいか
税理士への質問です。国税庁の相続空き家特例(新しいタブで開きます)を開き、次を確認します。
- この物件は「空き家の3,000万円特別控除」の適用要件を満たしているか
- 賃貸で数年間運用した場合と、今すぐ売却して特例を適用した場合で手残り額の差はいくらか
- 家賃収入を得た場合、現在の所得状況を踏まえて年間の所得税・住民税はいくら増えるか
司法書士・弁護士への質問:
- 現在の相続関係において、賃貸借契約の締結に必要な共有者の合意条件は何か
- 将来のトラブルを防ぐために、遺産分割協議書や相続登記をどのように進めるべきか
