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相続した実家を解体するとき、施主(工事を頼む人)が遠くに住んでいることは珍しくありません。近所の人とは、親を通じた付き合いしかなかったという人もいるでしょう。解体工事の近隣挨拶には、業者の訪問のほかに、自治体が求める説明や現場の掲示も関わってきます。似たものが重なって見えるので、分けて考えると自分の役目がはっきりします。
近隣挨拶は業者任せでよい?施主が関わる場面
あいさつを誰がするかを全国一律に定めた決まりは、今回確認した公的な資料では見つかりませんでした。業者が近所を回るかどうか、どこまで対応するかは、依頼する業者に確かめます。
自治体の中には、施主や業者の説明に注文をつけているところがあります。日野市は、解体業者のあいさつに合わせて、工期や作業時間、車の通り道を説明するよう求めています(出典:日野市。参照資料の一覧へ移ります)。広島市は建築工事の案内で、近所への説明を代理の人任せにしないよう建築主に求めています(出典:広島市。参照資料の一覧へ移ります)。ただし、これらはその市の案内で、ほかの地域にも同じ決まりがあるとは限りません。
業者に確かめることは、次の5つです。
- 近所を回るか。回るなら、どの家までか
- 工事の何日前に回るか
- 配る案内文の中身と、載せる連絡先
- 施主が一緒に行くことや、施主の手紙を添えることができるか
- 自治体への届出や近隣説明の報告を、誰がするか
施主が一緒に行くか、手紙だけにするかは、事情に合わせて決めてかまいません。親が近所と長く付き合っていた場合や、工事後も土地を持ち続ける場合は、施主の顔や連絡先が分かると話がしやすくなります。遠方で行けないときは、業者の案内文に施主の一言と連絡先を添える方法があります。
業者を選ぶときや契約書で確かめる点は、解体業者の選び方と契約書の記事にまとめています。費用の目安は、空き家の解体費用の記事で確かめられます。解体の費用を家族でどう分けるかは、実家の解体費用を誰が払うかの記事で扱っています。
解体工事の近隣挨拶は何日前に、どこまで回る?
あいさつに回る時期や範囲も、全国一律に定めた決まりは今回の資料では確認できませんでした。業者の工事の予定に合わせて、日を決めるのが現実的です。一方で、自治体によっては要綱(自治体が定めた指導の決まり)で、説明の時期や範囲を決めています。
東京都江東区と墨田区の例
江東区の要綱は、次のような内容です(出典:江東区。参照資料の一覧へ移ります)。
| 項目 | 江東区の要綱 |
|---|---|
| 対象の工事 | 解体する床面積の合計が80㎡以上 |
| 近所への説明 | 工事開始の7日前まで |
| 標識を立てる期間 | 木造は7日前、木造以外は14日前から完了日まで |
| 説明する範囲 | 敷地の境から、建物の高さと同じ水平距離まで(10m未満なら10m) |
| 区への報告 | 標識は着手7日前まで、説明は着手前日まで |
範囲は、たとえば高さ8mの家なら敷地の境から10mまで、高さ12mの建物なら12mまでです。住んでいる人だけでなく、事業所や公共施設の管理者も説明の相手に入ります。区への説明の報告は着手前日まででも、近所への説明は7日前までに済ませます。住民への説明と区への報告は、期限が別だからです。
墨田区も、床面積の合計が80㎡以上の解体工事を対象にしています(出典:墨田区。参照資料の一覧へ移ります)。標識の掲示と近所への説明を済ませてから、着工の7日前までに区へ報告書を出す流れです。工事の予定が変わったときは、変わった内容を近所に知らせます。必要に応じて標識も直し、変更の届けを出します。
これらは2つの区の例です。対象の広さや期限、説明する範囲は、自治体によって違う場合があります。家のある市区町村の建築や環境の担当課で、決まりがあるかを確かめてください。
決まりがない地域での範囲の考え方
両隣・向かい・裏の家は、範囲を考え始めるための出発点です。そこで打ち切ってよいという根拠があるわけではありません。次のような家は、範囲に入れるかを業者と相談します。
- 重機やトラックが前を通る家
- 工事車両を止める道路に面した家
- 解体する家の敷地と、境を接している家
- 店や事業所など、人が出入りする建物
近隣挨拶文に書くことと文例
案内文には、近所の人が工事中に困らないための情報を書きます。江東区が説明を求める項目は、書く中身を決める参考になります(出典:江東区。参照資料の一覧へ移ります)。次の項目は、それに編集部が休みの日や連絡先などを加えたものです。
- 工事の場所と、解体する建物の規模・構造
- 工事の方法、工期と作業時間、休みの日
- 騒音・振動・ほこりへの対策
- 工事車両の出入りと通り道
- アスベスト(石綿)の有無と、取り除く方法
- 業者の担当者と、施主の連絡先
習志野市は、工期と工事担当者の連絡先を、配る文書に書くよう求めています(出典:習志野市。参照資料の一覧へ移ります)。連絡先が書いてあれば、気になることがあったときに近所の人が直接伝えられます。施主の連絡先も載せるかどうかは、業者と相談して決めます。
業者と連名で配る案内文の例
〇の所を、工事の予定に合わせて書き換えてください。工事の方法と、騒音・振動・ほこりへの対策は、業者に聞いて書きます。アスベストの有無と、含まれているときに取り除く方法も、業者に確かめて書きます。
解体工事のお知らせ
このたび、下記の家屋を解体することになりました。
工事中は音やほこりでご迷惑をおかけいたします。
ご理解をお願い申し上げます。
工事の場所:〇〇市〇〇町〇丁目〇番〇号
解体する建物:木造2階建て(住宅)
工事の期間:〇年〇月〇日〜〇月〇日(予定)
作業の時間:〇時〜〇時(休み:〇曜日、祝日)
工事の方法:〇〇
騒音・振動・ほこりの対策:〇〇
車両の出入り:〇〇側の道路から
アスベスト:〇〇(含まれている場合の取り除く方法:〇〇)
アスベストの調査結果:現場に掲示します
工事の連絡先:〇〇解体 担当〇〇 電話〇〇
施主の連絡先:〇〇〇〇 電話〇〇
〇年〇月〇日
施主 〇〇〇〇
施工 〇〇解体業者の案内文に添える一言の例
遠方で訪ねられないときは、業者の案内文に短い手紙を添える方法があります。
生前は父が大変お世話になりました。
父の住んでいた家を、このたび解体することにしました。
遠方に住んでいるため、工事は〇〇解体に任せています。
気になることがありましたら、業者か私にご連絡ください。
〇〇〇〇(〇〇の長男) 電話〇〇手土産は必要?
今回確認した公的な案内には、手土産を求める記載はありませんでした。金額や品物の目安を示した公的な資料も見つかっていません。持っていくかどうかは、業者に聞きながら施主が考えます。持っていくなら、業者が品物を用意するかを先に聞くと、同じ家に二重に渡すことを防げます。
留守の家や、付き合いの薄い近所にはどう伝える?
留守の家や、関係がよくない近所への伝え方は、全国一律の手順を確認できませんでした。まず、自治体の説明の手続きや、不在時の扱いの決まりがあるかを確かめます。そのうえで、編集部が考える進め方を挙げます。
- 留守のとき:案内文を郵便受けに入れ、日を変えてもう一度訪ねる
- 何度か訪ねても会えないとき:案内文に業者の担当者の連絡先があるかを確かめる
- 関係がよくない家:業者の担当者と一緒に訪ね、その場で補償などの約束をしない
- 施主が行けないとき:案内文に、誰が窓口かと施主の連絡先を書く
親が亡くなったことを近所に伝えていないなら、手紙に一言添えるかを考えておきます。訪ねた日と、会えたかどうか、渡したものは、業者と施主の両方で控えておくと後で確かめられます。
作業時間やアスベストの掲示はどう決まっている?
近所の人に聞かれやすいのは、何時から工事をするのか、アスベストは大丈夫か、といった点でしょう。答えられるように、法律の基本を押さえておきます。あいさつをしても、届出や掲示が済んだことにはならない点にも注意が必要です。
作業時間と休みの日
騒音や振動の決まりは、すべての解体工事にかかるわけではありません。対象は、指定された地域で、法令で決まった「特定建設作業」をする場合です(出典:環境省 特定建設作業。参照資料の一覧へ移ります)。特定建設作業は、大きな音や揺れが出る重機などを使う作業のことです。施工する業者は、原則として、その作業を始める7日前までに届け出ます。
この期限は、工事全体の着工日ではなく、その作業を始める日が基準です。通常の特定建設作業の基準は、次のとおりです(出典:横浜市 規制基準。参照資料の一覧へ移ります)。
| 項目 | 基準 |
|---|---|
| 音と揺れの大きさ | 敷地の境で、騒音85デシベル・振動75デシベルを超えない |
| 作業できる時間帯 | 1号区域は7〜19時、2号区域は6〜22時 |
| 1日の作業時間 | 1号区域は10時間まで、2号区域は14時間まで |
| 続けて作業できる日数 | 6日まで |
| 休みの日 | 日曜日やそのほかの休日には作業しない |
1号区域と2号区域は、地域の指定による区分です。時間帯と1日の作業時間は、別の決まりです。1号区域なら、7〜19時の12時間のうち、対象の作業は10時間までです。また、6日の決まりは工事全体を6日で終えるという意味ではありません。
85デシベル以下なら苦情に応じなくてよい、という意味でもない点に注意しましょう。市区町村の条例で、国の基準とは別の時間を決めている場合もあります。家のある地域がどの区域か、どの作業が対象かは、業者と市区町村の環境担当課に確かめてください。
アスベストの調査結果の掲示
建物を解体するときは、元請業者(施主と契約した業者)などが、アスベストを使った建材があるかを前もって調べます(出典:環境省 石綿事前調査。参照資料の一覧へ移ります)。解体する床面積の合計が80㎡以上なら、その結果を役所に報告します。80㎡は報告の基準で、それより小さい建物でも調査は要ります。
調査の結果は、アスベストがあってもなくても、工事の間は現場で見やすく掲示します(出典:兵庫県。参照資料の一覧へ移ります)。大きさは、A3(42.0cm×29.7cm)以上です。
施主は作業が始まる前に、調査の結果について業者から書面で説明を受けます(出典:滋賀県。参照資料の一覧へ移ります)。届出の対象になる工事では、石綿を取り除く作業を始める日の14日前までに説明する場合があります(出典:京都市。参照資料の一覧へ移ります)。今回の工事が対象になるかは、業者に確かめてください。
案内文に「調査の結果は現場に掲示します」と書いておけば、聞かれたときに掲示の場所を伝えられます。ただし、案内文は現場の掲示の代わりにはなりません。
業者の標識
解体工事の現場には、業者の標識を、人から見やすい場所に掲げる決まりがあります(出典:愛知県。参照資料の一覧へ移ります)。解体工事業の登録をした業者は、建設リサイクル法による標識を掲げます。建設業の許可(土木・建築・解体工事業)を持つ業者は、改めて登録をしなくても、建設業法の標識を掲げます(出典:高知県。参照資料の一覧へ移ります)。どちらの標識かは、業者が持っている資格によって違います。
詳しく:作業時間の決まりの例外と、市区町村の上乗せ
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災害のときの緊急の作業や、人の命や体への危険を防ぐ作業は、夜間や休日の決まりの例外です(出典:横浜市 規制基準。参照資料の一覧へ移ります)。対象になる地域の指定は、都道府県や市の案内で確かめられます(出典:大阪府。参照資料の一覧へ移ります)。騒音と振動の両方の決まりが当てはまる作業では、両方の届出が要ります(出典:日野市。参照資料の一覧へ移ります)。
市の条例で、国より短い時間を決めている例もあります。千葉県習志野市の条例の作業は、原則8〜18時、1日8時間までです(出典:習志野市。参照資料の一覧へ移ります)。2026年(令和8年)4月1日からは届出制になり、作業開始の8日前(中7日前)までに届け出ます。
騒音や隣の家の傷で苦情が出たら、誰に伝える?
この章の内容は一般的な情報で、傷の原因や責任は一件ずつ判断が要ります。苦情を受けたときの連絡の順番と、前もって残しておく記録を確かめておきましょう。
連絡の順番
苦情を聞いたら、まず案内文に書いた業者の担当者に伝えます。下請業者は、元請業者から工事の一部などを任された業者です。現場で作業しているのが下請業者でも、元請業者が話を把握しているかを確かめます。業者の対応で収まらない騒音などは、市区町村の公害の担当窓口が相談先になります(出典:環境省 特定建設作業。参照資料の一覧へ移ります)。
自治体が業者に、施工の中で対策を求めている例もあります。習志野市は、防音シートなどで現場を囲うことや、水をまいてほこりを抑えることを求めています(出典:習志野市。参照資料の一覧へ移ります)。苦情が出たときは、こうした対策がとられているかを業者に聞けます。
公費解体の記録にある例
熊本県益城町は、熊本地震のあとの公費解体(自治体が費用を持つ解体)の記録を公表しています(出典:益城町。参照資料の一覧へ移ります)。記録には、養生(シートなどの囲い)が足りず、落ちた物が隣の家の壁を傷つけた例があります。重機の操作ミスで、隣の家の塀を傷めた例もありました。町は現地を確かめ、業者に責任があることが明らかな場合に、補修などを指示しています。
別の例では、所有者と近所の人が下請の業者とだけ話を進めました。元請業者が知らないまま、話がこじれたと記録されています。そのため町は、小さなトラブルでも元請業者などを通じてすぐ報告するよう指示しました。これは災害時の公費解体の記録で、ふつうの解体で自治体が補修を命じるという意味ではありません。
工事の前に隣の家の状態を確かめる
工事の後で「壁にひびが入った」と言われたとき、前の状態が分からないと、工事による傷かどうかを確かめにくくなります。広島市は工事の前と後に、隣の家の傷を確かめるよう案内しています(出典:広島市。参照資料の一覧へ移ります)。習志野市も、事前の家屋調査などを求めています(出典:習志野市。参照資料の一覧へ移ります)。
この家屋調査は隣の家の今の状態を見ておくことで、アスベストの事前調査とは別のものです。調べる範囲や費用を誰が持つかを全国一律に決めた基準は、今回確認した公的資料では確認できませんでした。業者と隣の家の持ち主とで、相談して決めることになります。傷の程度を専門家に見てもらいたいときは、建築士などに相談する方法が考えられます(編集部の案です)。
工事の前・最中・後の状態を写真で残すことは、トラブルを防ぐのに役立つ場合があります(出典:栃木県。参照資料の一覧へ移ります)。これはリフォーム工事の案内ですが、解体でも考え方は使えます。苦情や申し出があったときは、次のことを残しておくよう編集部は勧めます。
- 申し出があった日時と、相手の名前
- 場所と、言われた内容
- 日付が分かる写真
- 業者に伝えた日時と、業者の回答
業者の保険を確かめる
請負業者賠償責任保険は、工事中の事故で業者が法律上の賠償責任を負ったときに備える保険です(出典:日本損害保険協会。参照資料の一覧へ移ります)。補償の中身や支払いの上限は、保険会社や契約によって違います。そのため、加入していると聞いただけでは、隣の家の修理代が全部出るとは限りません。
契約の前に、業者が加入しているか、今回の工事が対象か、上限はいくらかを聞いておきます。傷の原因や補償で話がまとまらないときは、弁護士や自治体の法律相談の窓口に問い合わせてください。
工事が終わった後のあいさつと空き地の管理
工事後のお礼の伝え方は、業者の完了報告に合わせて相談します。業者が終わりの報告に回るなら、施主の名前でお礼の手紙を添える方法が考えられます。工事前に状態を確かめた隣の家は、終わった後にもう一度確かめます(出典:広島市。参照資料の一覧へ移ります)。
建物がなくなった後も、土地の管理は続きます。益城町の記録には、解体後の更地に草木が茂り、近所から苦情が寄せられた例があります(出典:益城町。参照資料の一覧へ移ります)。塩尻市は空き地の持ち主に、草刈りや清掃などの管理を求めています(出典:塩尻市。参照資料の一覧へ移ります)。遠方で自分でできないときは業者に頼むことや、見回りや不法投棄を防ぐ柵の設置も案内しています。
近所の人には、工事後の連絡先も伝えておくとよいでしょう。草が伸びたときや、ごみが捨てられたときに知らせてもらえるからです。空き地の管理で確かめる点は、空き家の管理チェックリストの記事にまとめています。建物がなくなったことの登記は、解体後の滅失登記の記事で確かめられます。
