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親が亡くなったあと、古い実家を解体するかどうかで、兄弟姉妹の話し合いが止まってしまうことがあります。迷いやすいのは、誰が業者と契約し、実家の解体費用を誰が払うのかという点でしょう。答えは、今の名義、相続人の顔ぶれ、相続放棄を考えている人がいるかどうかで変わります。順に確かめていけば、家族で何を決め、何を書面に残せばよいかが見えてきます。
解体を決めるのは誰?まず名義と相続人を確かめる
建物を取り壊すかどうかを決めるのは、その建物の持ち主です。親が亡くなると、親の財産は相続人が受け継ぎます。相続人が何人かいるときは、遺産分割(誰が何を受け継ぐかの話し合い)が済むまで、遺産は相続人全員の共有になります(出典:東京家庭裁判所。参照資料の一覧へ移ります)。つまり、名義が親のままの実家は、相続人みんなの持ち物として考えるのが出発点です。
ただし、遺言があるときや、遺産分割で家を受け継ぐ人が決まっているときは別です。その内容によって、誰の持ち物かが変わるからです。
名義は、法務局で取れる登記事項証明書(土地や建物の持ち主が書かれた書類)で確かめます。一方で、相続登記(亡くなった人から相続人へ名義を移す登記)をしていない家では、登記と今の状況が違うことがあります(出典:横須賀市 空き家FAQ。参照資料の一覧へ移ります)。登記に親の名前が残っていても、権利が親に残っているとは限りません。
| 今の状況 | 解体を決める人の考え方 |
|---|---|
| 遺言や遺産分割で、家を受け継ぐ人が決まっている | その人。遺言や分割の中身を確かめる |
| 遺産分割の前で、名義が親のまま | 相続人全員 |
| 名義が祖父母など、前の代のまま | 前の代からの相続人全員。人数が増えることがある |
| 相続人が共有で登記している | 共有者全員 |
これは一般的な考え方で、遺言の読み方や相続人の範囲は、家ごとに確認が必要です。
兄弟の一人だけで実家を解体できる?
共有の家を一人の判断で解体することは、避けてください。遺産分割の前なら、家を受け継ぐ予定の人や、家に住んでいた人でも同じです。
下関市は、親族5人で共有する空き家を解体したいが、1人と連絡が取れないという設問を公開しています。市の回答は、共有の空き家の解体には、原則として共有者全員の同意が要るというものです(出典:下関市 空き家FAQ。参照資料の一覧へ移ります)。5人のうち4人が賛成していても、人数の多数決で決まるわけではありません。
解体の補助金でも、同じ考え方が出てきます。神戸市の制度では、相続人が何人かいるとき、全員から解体の同意を得ることを求めています(出典:神戸市 解体補助Q&A。参照資料の一覧へ移ります)。
連絡が取れない人がいても、その人を除いて解体してよいことにはなりません。所在が分からない共有者がいる場合は、地方裁判所に申し立て、その決定を得て、残りの共有者全員の同意で進める制度があります(出典:法務省パンフレット。参照資料の一覧へ移ります)。ただし、連絡に応じないことと、どこにいるか分からないことは同じではありません。どの手続きが使えるかは、弁護士に相談してください。
詳しく:全員の同意・持分の過半数・一人でできることの違い
詳しい説明を開く
2023年(令和5年)4月1日に施行された改正で、共有の物の決め方が整理されました(出典:法務省パンフレット。参照資料の一覧へ移ります)。決め方の違いは、次のとおりです(出典:大阪市掲載 共有物の管理。参照資料の一覧へ移ります)。
- 形や働きを大きく変えない軽い変更:持分の価格の過半数で決める
- それ以外の変更:共有者全員の同意が要る
- 保存行為(今の状態を保つための行為):共有者がそれぞれ一人でできる
過半数は、人数ではなく持分の価格で数えます。建物の解体は、自治体の案内では全員の同意が要るものとして扱われています。
実家の解体費用は誰が払う?業者への支払いと兄弟の分担は別
「誰が払うか」には、2つの意味があります。1つは、解体業者に代金を払うのは誰か。もう1つは、相続人の間で最終的に誰がいくら持つかです。
業者との関係では、契約した発注者が代金を払う形が基本です。国が示す工事の契約書のひな形も、発注者が代金を払い、払い方を契約書で決める形になっています(出典:国土交通省 標準請負契約約款。参照資料の一覧へ移ります)。
相続人の一人が代表して契約するときは、その人自身が発注者になる場合と、所有者の代理人として契約する場合があります。代理で契約するなら、代理する権限があるかと、契約書の発注者が誰になるかを確かめてください。ただ、発注者として業者に払った人が、最後まで全額を持つと決まったわけではありません。
相続人の間でどう分けるかは、話し合いで決めるのが基本です。長男だから、家に住んでいたから、家を継ぐからといって、全額を払うとは限りません。
民法には、共有の物の管理にかかる費用を、持分に応じて負担するという規定があります(出典:国税庁掲載 判決資料。参照資料の一覧へ移ります)。この規定を、共有の不動産の固定資産税などに当てはめた判決もあります。ただし、解体費用にそのまま当てはまるかは、事情ごとに判断されます。
話し合いでは、次のような分け方が候補になります。どれも法律で自動的に決まるものではなく、相続人が合意して選ぶものです。
| 分け方の候補 | 考えやすい場面の例 | 話し合っておくこと |
|---|---|---|
| 家や土地を受け継ぐ人が払う | 更地を一人が持つ | ほかの遺産との釣り合い |
| 持分に応じて分ける | 土地を共有のまま持つ | 各自が出せる額と時期 |
| 遺産の預貯金から払う | 遺産に預貯金がある | 相続人全員の合意 |
| 売った代金から精算する | 土地を売る予定がある | 立て替える人、売れなかったときの扱い |
計算例として、次の条件で持分に応じて分けると合意した場合を考えます(想定の例)。条件は、解体費用の総額240万円、相続人2人の持分が2分の1ずつ、補助金や追加費用はなしです。240万円×2分の1で、1人120万円ずつ負担します。この金額は相場ではなく、計算のための想定です。
解体費用の相場や見積もりの内訳は、空き家の解体費用の記事で確かめられます。見積もりを取って業者を比べる手順は、解体業者の選び方の記事にまとめています。
遺産や売却代金から払う、立て替えるときは何を書面に残す?
遺産から払う、売った代金で精算する、誰かが立て替えて後で返してもらう。どの方法でも、前提は相続人全員で話し合って決めておくことです。
家庭裁判所の案内では、固定資産税や家の修理費などの遺産管理費用は、原則として遺産分割の対象ではありません(出典:岡山家庭裁判所 Q&A。参照資料の一覧へ移ります)。相続人全員が合意すれば、遺産分割調停の中で話し合える扱いです。解体費用がこの費用に当たるかは、個別に確認が必要です。合意がないまま立て替えると、後で精算を話し合うときにもめるかもしれません。
契約の前に、次の点を書面にしておくと、後で話が食い違いにくくなります。これは編集部の提案で、決まった書式があるわけではありません。
- 解体する建物(所在地と登記の表示)
- 相続人全員が解体に同意したこと
- 業者と契約する代表者と、ほかの相続人がそれを認めたこと
- 費用の分け方(割合か金額)
- 立て替える人、立て替える額、返す時期
- 追加費用が出たときの分け方
- 補助金や、土地を売った代金の扱い
遺産分割の話し合いをするなら、この内容を遺産分割協議書(話し合いの結果を書いた書面)に入れるかも決めます。書き方は、司法書士や弁護士に確認してください。
立て替えた人は、見積書、契約書、領収書をとっておきます。ほかの相続人の同意を書面でもらっておけば、精算の話し合いの材料になります。ただし、書面があるだけで返してもらえると決まるわけではありません。
誰がどの遺産を受け継ぐかが決まらないときは、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てられます(出典:東京家庭裁判所。参照資料の一覧へ移ります)。調停は、裁判官や調停委員を交えて話し合う手続きです。解体費用の分担や立て替えの精算だけがまとまらない場合は、使える手続きを弁護士に確認してください。
相続放棄を考えているなら、解体の前に手を止める
相続放棄は、亡くなった人の財産も借金も、一切受け継がないための手続きです。家庭裁判所に申し立てる必要があり、期限は原則として、自分が相続人になったと知ったときから3か月以内です(出典:裁判所 相続の放棄の申述。参照資料の一覧へ移ります)。亡くなった日から一律に数えるわけではありません。
財産を調べても決められないときは、家庭裁判所にこの期間を延ばすよう申し立てることもできます(出典:裁判所 期間の伸長。参照資料の一覧へ移ります)。申し立ては、この3か月が終わる前に行います。
放棄の前の解体が「処分」に当たるかは、一律には言えない
相続人が相続財産を処分すると、単純承認(財産も借金もそのまま受け継ぐこと)をしたとみなされることがあります(出典:埼玉県 相続人調査マニュアル。参照資料の一覧へ移ります)。そうなると、相続放棄ができなくなるおそれがあります。この決まりは、民法第921条(新しいタブで開きます)に書かれています。
今回確認した公的な資料だけでは、解体がこの「処分」に当たるかは判断できません。どんな事情なら問題にならないかは、ケースによって違います。放棄を考えている人は、解体の契約や着工の前に弁護士に相談してください。
放棄の前後の注意は、相続放棄した空き家の管理義務の記事の「家財の処分や解体をしてもよい?」にあります。
放棄したあとも、家を保存する責任が残ることがある
2023年(令和5年)4月1日の改正法の施行後は、放棄したときに家を現に占有していた人に、保存の義務が残ります(出典:飯塚市 空き家対策。参照資料の一覧へ移ります)。たとえば、その家に住んでいた相続人が放棄した場合です。放棄した人の全員に、同じ義務が残るわけではありません。
この義務は、ほかの相続人や相続財産清算人(家庭裁判所が選ぶ、遺産を整理する人)に家を引き渡すまで続きます(出典:横須賀市 空き家FAQ。参照資料の一覧へ移ります)。ただ、保存の義務と、解体費用を払う義務は同じではありません。放棄した人が解体費用を負担するかは、事情によって変わります。自分で業者と契約していれば、その契約の支払いが別に問題になります。
放棄したあとの管理の範囲は、相続放棄した空き家の管理義務の記事で説明しています。
「家はいらない」という約束は、相続放棄とは違う
兄弟の間で「家はいらない」と決め、遺産分割で自分の取り分をゼロにすることがあります。この合意は、家庭裁判所で行う相続放棄とは別のものです。相続分の放棄という方法でも、相続人の立場は失わず、借金などの負担も残るとされています(出典:京都家庭裁判所。参照資料の一覧へ移ります)。そのため、「家をもらわないから解体には関係ない」とは言い切れません。
祖父名義の実家は、相続人を確かめるところから
名義が祖父母のまま残っている実家もあります。祖父の遺産分割や名義変更が済む前に父が亡くなると、父の相続権は父の相続人に引き継がれます。これを数次相続と呼びます(出典:埼玉県 相続人調査マニュアル。参照資料の一覧へ移ります)。
このとき、解体を決める相続人は、今の兄弟姉妹だけとは限りません。祖父のほかの子(おじ・おば)や、その家族が相続人に入ることがあります。相続人は、通常は戸籍で確かめ、古い戸籍までさかのぼって集める場合もあります(出典:東京家庭裁判所。参照資料の一覧へ移ります)。相続人が全員そろうまでは、解体の同意も費用の分け方も決めきれません。
解体の前に相続登記は要る?
相続登記は、2024年(令和6年)4月1日から義務になりました。相続で不動産を取得したと知った日から、原則3年以内に申請します(出典:法務省パンフレット。参照資料の一覧へ移ります)。それより前の相続も対象で、前から取得を知っていた場合の期限は2027年(令和9年)3月31日です(出典:能代市。参照資料の一覧へ移ります)。相続放棄の「3か月」とは、数え始める日も手続きも違います。
解体の前に相続登記が要るかは、場面によって違います。たとえば神戸市の解体補助では、相続登記の前でも、名義人が亡くなったことと申請者との関係が分かる書類を出せば申請できます(出典:神戸市 解体補助Q&A。参照資料の一覧へ移ります)。ほかの自治体や、業者との契約でも同じとは限りません。
相続人申告登記(自分が相続人だと法務局に申し出る手続き)は、相続人の一人だけでもできます。持ち主を示す登記ではないため、土地を売るときは、別に相続登記が要ります。期限の数え方は相続登記の義務化の期限の記事、申告登記との違いは相続人申告登記と相続登記の記事で確かめられます。
祖父名義の土地の登記の進め方は、法務局か司法書士に確認してください。
解体費用は相続税で差し引ける?
相続税の計算で遺産から差し引ける債務は、亡くなったときに実際にあったもので、確実と認められるものです(出典:国税庁 No.4126。参照資料の一覧へ移ります)。亡くなったあとに相続人が頼んだ解体の費用が当てはまるか、この案内は直接答えていません。
相続税で財産を評価するときは、原則として亡くなったときの時価が基準です(出典:税務大学校 相続税法。参照資料の一覧へ移ります)。解体したあとの状態や売れた値段を、そのまま相続のときの評価に置き換えられるわけではありません。
一方で、土地を売るために建物を取り壊した費用は、売ったときの所得税の計算で譲渡費用(売るためにかかった費用)に入ります(出典:国税庁 No.3255。参照資料の一覧へ移ります)。家を保つための維持や管理の費用は、譲渡費用に入りません。
| 税金 | 解体費用の扱い |
|---|---|
| 相続税 | 亡くなったときにあった債務が対象。亡くなったあとの解体費用は個別に確認 |
| 売ったときの所得税 | 土地を売るための取り壊し費用は、譲渡費用に入る |
相続税と、売ったときの所得税は、別の税金です。相続人で分けた解体費用を、それぞれの税金の計算にどう入れるかは、税理士か税務署に確認してください。
払えないとき・決まらないときは、どこに相談する?
手元のお金で解体費用を出せないときは、解体の前に別の道がないかを調べます。横須賀市は、不要な空き家について、まず今のままで売れるかを不動産会社に相談する方法を案内しています(出典:横須賀市 空き家FAQ。参照資料の一覧へ移ります)。もちろん、古家のままで売れると決まるわけではありません。
解体してから売るか、そのまま売るかは、古い家を解体して売るかの判断表の記事で比べられます。
解体の補助金がある自治体もあります。外ヶ浜町の2026年度の制度は、空き家の所有者とその相続人などを対象にしています(出典:外ヶ浜町。参照資料の一覧へ移ります)。申請の受付前に着工した工事は対象外です。
予算の範囲内での先着順です。いまも申請を受け付けているか、予算が残っているかは、町に確認してください。
外ヶ浜町の手続きは、申請、交付の決定、工事、実績報告、金額の確定、請求、支払いの順に進みます。補助が決まっても、工事の代金を先に用意できるかは別に確かめておきましょう。補助金の探し方は、空き家の補助金の調べ方の記事にまとめています。
ここまでの内容は一般的な情報です。制度があるか、誰が申請できるか、相続人全員の同意書が要るかは、所在地の市区町村で違います。
自分の家の場合は、内容に合わせて次の相談先を選んでください。
| 相談したいこと | 相談先 |
|---|---|
| 解体への同意、費用の分担、立て替えの精算 | 弁護士 |
| 相続人の確定、相続登記 | 司法書士、法務局 |
| 相続放棄の申し立て | 家庭裁判所(放棄前の解体は弁護士) |
| 相続税、売ったときの所得税 | 税理士、税務署 |
| 解体の補助金、空き家の制度 | 所在地の市区町村 |
