相続した家を売るとき、必要書類を最初から全部集める必要はありません。
売却相談で役立つ資料、買主との契約で確認する書類、決済日に原本が必要な書類、売却後の確定申告まで保管する資料は、それぞれ違います。
すべてを一つの封筒に入れると、重要な原本を不用意に渡したり、有効期間のある印鑑証明書を早く取得しすぎたり、親の購入資料を捨てたりしやすくなります。
この記事では、書類を次の5段階へ分けます。
- 売却相談
- 媒介契約・販売準備
- 売買契約
- 決済・所有権移転登記
- 確定申告
書類ごとに「原則確認する」「条件により必要」「あれば役立つ」も区別します。
最初に、相続登記が終わっているか確認する
相談や価格査定は、相続登記の途中でも始められる場合があります。売買契約を結ぶ時期は権利関係と契約条件によりますが、亡くなった人の名義から買主へ直接、売買による所有権移転登記をすることはできません。買主への所有権移転登記までに、被相続人から相続人への相続登記を行い、その後に相続人から買主への売買による所有権移転登記を行います。東京法務局の相続登記Q&A(新しいタブで開きます)でも、この順序が案内されています。
相続登記の申請義務を簡易に履行する「相続人申告登記」をしていても、それだけでは売却する人の名義になりません。法務省の相続人申告登記Q&A(新しいタブで開きます)も、売却する場合は別途相続登記が必要と案内しています。
まず登記事項証明書または登記情報で、現在の所有者欄を確認します。
| 現在の表示 | 次の対応 |
|---|---|
| 亡くなった人の名義 | 相続登記の方式と必要書類を確認する |
| 自分一人の名義 | 売却書類の仕分けへ進む |
| 兄弟等との共有名義 | 共有者の売却意思と担当者を確認する |
| 知らない名義・古い名義 | 査定より先に司法書士へ確認する |
戸籍、除籍、遺産分割協議書、遺言書等、相続登記そのものに使う資料は、相続登記の必要書類を3ケースで整理した記事で確認してください。本記事は相続登記後の売却実務が中心です。
必要書類は5つのフォルダに分ける
紙のファイルでも、パソコン内のフォルダでも構いません。次の名前を付けると、原本を渡す相手と時期を間違えにくくなります。
| フォルダ | 主な中身 | 基本の扱い |
|---|---|---|
| 01 売却相談 | 課税明細、物件概要、手元の図面 | 原本を保管し、まず写し・画像で相談 |
| 02 媒介・販売 | 登記、測量、建築、管理の資料 | 不動産会社の調査に使用 |
| 03 売買契約 | 売買契約書、告知書、付帯設備表、特約 | 最終版を確認して署名・押印 |
| 04 決済・登記 | 登記識別情報、印鑑証明書、実印、委任状 | 司法書士の指示で原本を準備 |
| 05 税申告 | 新旧の契約書、領収書、特例資料 | 売却後の申告・照会に備えて保管 |
迷った書類は、自己判断で原本を渡さず、「何に使うか」「原本が必要か」「返却されるか」を先に確認します。
1. 売却相談は、書類が全部そろう前に始められる
初回相談で最も大切なのは、家の所在地と現在の状況を説明できることです。
- 物件の住所
- 戸建て、土地、マンションのどれか
- 空き家か、誰かが住んでいるか
- 登記名義人は誰か
- 相続登記が済んでいるか
- 売却について話し合う家族・共有者
- 鍵の所在
- 分かっている雨漏り、破損、越境、残置物
手元にあれば、次の資料も用意します。
| 書類・資料 | 必須度 | 使い方 |
|---|---|---|
| 固定資産税納税通知書の課税明細 | あれば役立つ | 地番、家屋番号、面積等の確認 |
| 登記事項証明書・登記情報 | あれば役立つ | 名義、共有持分、抵当権等の確認 |
| 公図、地積測量図、境界確認書 | あれば役立つ | 土地の形状と境界資料の有無を確認 |
| 建物図面、各階平面図 | あれば役立つ | 建物の概要確認 |
| 建築確認済証、検査済証 | あれば役立つ | 建築時の手続資料として確認 |
| 購入時のパンフレット、間取り図 | あれば役立つ | 建物・設備情報の確認 |
| 修繕・リフォーム記録 | あれば役立つ | 工事時期と内容の確認 |
| 親が購入・建築したときの契約書 | 保管優先 | 査定の参考、後の取得費確認 |
登記事項証明書、公図、地積測量図等を手元に持っていなくても、相談を止める必要はありません。不動産会社や司法書士が最新情報を取得する場合もあるため、誰が取得するかを相談時に決めます。
不動産適正取引推進機構の2026年度版手引(新しいタブで開きます)も、不動産会社が物件調査を行い、査定根拠を説明する流れを案内しています。
2. 媒介契約・販売準備で使う資料
仲介で売る場合、不動産会社と媒介契約を結びます。媒介契約書は売主が役所で取得するものではなく、不動産会社から説明を受けて締結する書類です。
東日本REINSの売却案内(新しいタブで開きます)も、売却相談、査定、媒介契約、販売活動、売買契約、決済・引渡しの順で整理しています。
本人と所有者を確認する資料
- 運転免許証、マイナンバーカード等の本人確認書類
- 現在の登記情報
- 共有者の連絡先と意向
- 代理人が窓口になる場合の委任関係資料
- 登記上と現在の住所・氏名が違う場合、その経緯が分かる資料
本人確認書類の画像を送るときは、不動産会社の正式な連絡先と送信方法を確認します。
土地・戸建てで確認する資料
- 公図、地積測量図、確定測量図、境界確認書
- 建築確認済証、検査済証
- 建物図面、仕様書
- 増改築・リフォーム資料
- インスペクション、耐震診断の結果
- 給排水、浄化槽、井戸等の資料
- 越境や私道に関する合意書
- 賃貸中なら賃貸借契約書
「境界確認書が見当たらない」「増築時の資料がない」と伝えることも調査の出発点です。書類がないから売れないと即断せず、代わりに何を調査するかを決めます。
マンションで確認する資料
- 管理規約、使用細則
- 長期修繕計画、総会議事録
- 管理費・修繕積立金が分かる資料
- 滞納、一時金、大規模修繕予定の資料
- 駐車場、駐輪場、専用庭等の使用資料
- 購入時のパンフレット、間取り図
- リフォーム履歴
登記識別情報は不用意に送らない
相続登記で新たに所有者となった申請人には、原則として登記識別情報が通知されます。共有相続で所有者になっても申請人とならなかった相続人には通知されないため、各所有者について通知の有無を確認します。登記識別情報は従来の権利証に相当し、登記手続で本人確認に使う重要情報です。法務局の現行記載例(新しいタブで開きます)にも通知対象の注意が示されています。
存在は確認しますが、識別符号を撮影してメールやチャットへ送ったり、目隠しを外した状態で第三者へ見せたりしないでください。決済を担当する司法書士から、使用方法と提出時期の指示を受けます。
3. 売買契約では、今回の取引条件を文書にする
買主と価格・引渡条件で合意したら、売買契約を結びます。この段階で中心になるのは、親の古い書類ではなく、今回の取引について作る書類です。
| 書類 | 作成・準備 | 確認すること |
|---|---|---|
| 売買契約書 | 通常は媒介する不動産会社が作成 | 価格、手付金、引渡日、解除、境界、残置物等 |
| 物件状況報告書・告知書 | 売主が事実を申告し、会社が作成を支援 | 雨漏り、シロアリ、給排水、越境、事故等 |
| 付帯設備表 | 売主が現況を確認 | 残す設備、撤去する設備、故障の有無 |
| 特約条項 | 取引条件に合わせて作成 | 解体、測量、残置物、契約不適合等 |
| 本人確認書類 | 売主が提示 | 本人確認の方法 |
| 印鑑 | 売主 | 使用する印鑑を会社へ確認 |
親の旧売買契約書と、今回の売買契約書を分ける
- 親が家を買ったときの売買契約書・建築請負契約書
主に取得費と取得時期を確認する資料
- 今回、買主と結ぶ売買契約書
売却価額、契約日、引渡条件を確認する資料
親の契約書は税申告で重要になる可能性があります。不動産会社へ見せる場合も原本は保管し、まず写しを使います。
重要事項説明書は、売主が役所で取得する書類ではない
重要事項説明書は、宅地建物取引業者が、契約成立までに宅地建物取引士をして買主へ交付・説明させる書類です。売主は作成に必要な物件資料と、知っている事実を不動産会社へ伝えます。国土交通省の現行「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」(新しいタブで開きます)に沿って、担当者と説明内容を確認します。
完成内容に認識と違う記載がないか確認することは大切ですが、売主が役所を回って「重要事項説明書」を取得するわけではありません。
知っている不具合と未確認を分ける
相続した家では、売主が住んだことがなく、状態を詳しく知らない場合があります。その場合も、推測で「問題なし」とせず、知っていることと未確認を分けます。
- 雨漏りしたと家族から聞いている
- 修理した形跡はあるが、時期は不明
- シロアリ点検記録が見つからない
- 境界について口頭の話しか残っていない
- 給湯器は動作未確認
不動産適正取引推進機構の手引(新しいタブで開きます)は、売主が知っている欠陥・不具合を告知書で伝え、修補して渡すか、そのまま渡すかを契約内容にすることがトラブル回避に重要と説明しています。
4. 決済・所有権移転登記で使う原本
決済日には、残代金を受け取り、家を引き渡し、所有権移転登記を申請します。司法書士が登記書類を確認し、不足があれば決済日程へ影響する場合があります。
決済用書類は、不動産会社の一般リストだけでなく、担当司法書士の最終リストで確認します。
| 書類・物 | 基本の扱い | 注意点 |
|---|---|---|
| 登記識別情報または登記済証 | 原則、登記で使用 | 司法書士の指示まで識別符号を送らない |
| 印鑑登録証明書 | 原則、登記で使用 | 登記申請時に作成後3か月以内 |
| 実印 | 委任状等に使用 | 印鑑証明書と一致するもの |
| 本人確認書類 | 本人・意思確認で使用 | 指定された有効な証明書 |
| 登記原因証明情報 | 原則必要 | 通常、契約内容を基に作成 |
| 登記申請委任状 | 司法書士へ依頼する場合 | 内容を確認して署名・押印 |
| 振込先口座が分かるもの | 残代金受取に使用 | 名義と振込条件を確認 |
| 鍵、取扱説明書等 | 引渡しで使用 | 種類と本数を一覧化 |
法務局の現行「所有権移転登記申請書(売買)」記載例(新しいタブで開きます)では、原則として登記原因証明情報、売主の作成後3か月以内の印鑑証明書、登記識別情報または登記済証等が示されています。
条件により追加で確認するもの
| 状況 | 追加で確認する資料・手続 |
|---|---|
| 抵当権が残る | 金融機関の残高・抹消関係書類 |
| 登記住所と現在住所が違う | 住所変更登記と住所のつながりを示す資料 |
| 登記氏名と現在氏名が違う | 氏名変更登記と変更を示す資料 |
| 共有名義 | 各共有者の本人確認、実印、印鑑証明、登記識別情報等 |
| 代理人が出席 | 委任状、本人確認、代理権確認資料 |
| 土地の分筆・地積更正 | 土地家屋調査士が案内する測量・登記資料 |
| 賃貸中 | 賃貸借契約、敷金・保証金、賃料等の承継資料 |
| 未登記建物がある | 表題登記等の要否を土地家屋調査士へ確認 |
| 農地・借地 | 許可、届出、承諾等を専門家へ確認 |
固定資産評価証明書、固定資産税納税通知書、課税明細書のどれを使うかは、登記や精算の方法、自治体、担当司法書士により異なります。自己判断で全部取得せず、必要な年度と種類を確認します。
権利証がなくても、売却不能とは限らない
権利証や登記識別情報は再発行・再通知されません。しかし、紛失しただけで所有権を失うわけではなく、売却が不可能になるわけでもありません。
登記官による事前通知や、司法書士等の資格者代理人が本人確認情報を提供する方法等があります。準備と費用が変わるため、買主が決まる前に司法書士へ相談します。
相続登記前に見つからない「親の古い権利証」と、相続登記後に相続人へ通知された「新しい登記識別情報」では、確認する手続が違います。登記完了証と登記識別情報も別の書類です。見分けがつかなければ、封筒ごと司法書士へ確認してください。
登記上と現在の住所・氏名が違う場合
2026年4月1日から、不動産所有者の住所・氏名変更登記が義務化されました。同日以後の変更は、変更日から2年以内に申請するのが原則です。同日より前の変更が未登記の場合も対象ですが、申請期限は2028年3月31日です。
個人は検索用情報を申し出ると、法務局が住基ネット情報に基づいて職権で変更登記する「スマート変更登記」を利用できます。ただし、職権登記は定期照会後に行われるため、売買予定があり速やかに登記情報を合わせる必要がある場合は、自ら申請する場面があります。住民票だけで住所の移転経緯がつながらない場合もあるため、決済直前ではなく司法書士へ確認します。
5. 確定申告は「提出」と「計算・保管」を分ける
売却後も、書類整理は終わりではありません。
国税庁の不動産売却案内(新しいタブで開きます)は、売却価額から取得費と譲渡費用を差し引いて譲渡所得を計算し、利益がある場合は原則として確定申告が必要と案内しています。損失の特例等を使う場合も申告が必要になることがあるため、申告要否は個別に確認します。
申告時に作成・提出を確認するもの
- 所得税の確定申告書
- 譲渡所得の内訳書(土地・建物用)
- 特例を使う場合の計算明細書・添付書類
- 本人確認・マイナンバー関係資料
様式と添付書類は年分や制度改正で変わります。売却した年分の国税庁案内を申告時に確認してください。
計算・確認のため保管するもの
| 資料 | 確認する金額・事実 |
|---|---|
| 今回の売買契約書 | 売却価額、契約日、対象物件 |
| 売却代金の入金記録 | 実際の受取額 |
| 仲介手数料の領収書 | 譲渡費用の候補 |
| 測量費の領収書 | 譲渡費用の候補 |
| 売買契約書の印紙代 | 譲渡費用の候補 |
| 売却のための取壊し費用等 | 譲渡費用該当性を確認 |
| 親の購入時の売買契約書 | 取得価額、取得時期 |
| 親の建築請負契約書 | 建物の建築代金 |
| 親の購入時の領収書・精算書 | 取得費の確認 |
| 相続税申告書の控え | 取得費加算の特例を検討する場合 |
国税庁の相続した不動産の取得費案内(新しいタブで開きます)では、原則として被相続人が購入したときの購入代金・購入手数料等を基に取得費を計算します。親の契約書と領収書を、今回の契約書と分けて保管する理由です。
国税庁の譲渡所得計算の案内(新しいタブで開きます)では、仲介手数料、測量費、売買契約書の印紙代、売却のために直接必要となった一定の取壊し費用等が譲渡費用の例として示されています。固定資産税や通常の維持・修繕費がそのまま譲渡費用になるとは限らないため、領収書を残して扱いを確認します。
相続空き家の特例を検討する場合
条件に該当する場合は、通常の申告資料に加えて、被相続人居住用家屋等確認書、売買契約書の写し、登記事項を確認する資料、条件に応じた耐震・取壊し関係資料等を確認します。
必要書類は、家屋を残して売ったか、取り壊して売ったか、売却後に買主が耐震改修・取壊しをしたか等で変わります。市区町村の確認書を取得しただけで、税の特例適用が確定するわけではありません。国税庁の特例案内(新しいタブで開きます)で要件と添付書類を確認します。
書類を集める順番
- 登記名義を確認する
- 実家に残る書類を捨てずに仕分ける
- 物件住所、課税明細、手元の図面で相談する
- 不動産会社から、調査・媒介に必要な追加資料を聞く
- 買主が決まる前に、権利証、住所違い、共有、抵当権を司法書士へ確認する
- 決済日が見えたら、有効期間を確認して印鑑証明書を取る
- 今回の契約書と領収書を税申告フォルダへ追加する
- 売却した年分の税務資料を確認する
書類がないことより、ないと分かっているのに直前まで伝えないことのほうが、予定を止めやすくなります。
よくある質問
書類がほとんど見つからなくても相談できますか?
相談できます。物件住所、登記名義、空き家かどうか、鍵の所在等、分かる範囲を伝えてください。相談後に「売主が取る」「会社が調査する」「司法書士が確認する」を分けるほうが、無駄な取得を減らせます。
印鑑証明書は売買契約の日に必要ですか?
売買契約時に不動産会社から求められる場合はありますが、売買契約の有効性に実印・印鑑証明書が全国一律で必須という意味ではありません。一方、売主の印鑑証明書は所有権移転登記で原則必要で、作成後3か月以内という要件があります。契約時と登記時を分けて確認してください。
親の権利証がありません
まだ相続登記をしていない場合と、相続登記後に相続人へ通知された登記識別情報を紛失した場合では、確認する手続が違います。親の権利証も個別事情で確認資料になることがあるため、捜索状況を司法書士へ伝えてください。
戸籍や遺産分割協議書は決済日にもう一度必要ですか?
相続登記が完了し、売主名義になっていれば、戸籍一式や遺産分割協議書を通常の売買決済書類として毎回提出するとは限りません。ただし、共有、数次相続、遺言執行、住所のつながり等の個別事情があれば別です。相続登記用と売買登記用を分けて司法書士へ確認します。
今日作る5つのフォルダ
- `01 売却相談`へ課税明細と物件概要を入れる
- `02 媒介・販売`へ図面、測量、建築、管理資料を分ける
- `03 売買契約`は今回作る契約書類専用にする
- `04 決済・登記`の原本は司法書士の指示まで保管する
- `05 税申告`へ親の購入資料と今回の費用領収書を残す
仕分けができたら、机上査定と訪問査定の違いで現在の段階に合う査定方法を選びます。