相続した実家や土地を引き継ぐ人がいないときは、不動産を売却して現金化する方法があります。その代金を相続人間で分ける手続きを「換価分割(かんかぶんかつ)」と呼びます(e-Gov法令検索「民法」第907条(新しいタブで開きます))。
不動産を現金に換えれば1円単位で公平に分けられるため、一見すると争いが起きにくい方法に思えます。しかし、「売却後に残った代金を法定相続分で割ればよい」と安易に進めると、売却活動の途中で手続きが止まったり、特定の相続人に想定外の税負担が生じたりする恐れがあります。
売却活動を始める前に、次の4点を遺産分割協議書や精算計画として合意しておく必要があります。
- 誰の名義で登記し、誰が売主となって売買契約を結ぶか
- 仲介手数料、解体費、測量費などの諸費用を、売却代金の総額からどのように差し引くか
- 手付金や残りの代金をどの口座で管理し、いつ、どのような記録を残して各相続人へ送金するか
- 売却益(譲渡所得)が出た場合に、誰がどのように確定申告を行うか
換価分割・代償分割・現物分割の違いと判断基準
遺産分割の方法には、換価分割のほかに「現物分割(げんぶつぶんかつ)」と「代償分割(だいしょうぶんかつ)」があります。仕組みと特徴の違いは次の通りです。
| 分割方法 | 仕組み | メリット | 注意点・デメリット |
|---|---|---|---|
| 現物分割 | 土地を分筆したり、不動産そのものを特定の相続人がそのまま取得する | 売却の手間や仲介手数料がかからない | 土地の形状や接道状況によって価値に差が出やすく、公平な配分が難しい |
| 代償分割 | 特定の相続人が不動産を単独で取得し、他の相続人に自己の財産から代償金を支払う | 先祖代々の土地や家をそのまま残せる | 不動産を取得する相続人にまとまった自己資金(現金調達力)が必要 |
| 換価分割 | 不動産を第三者に売却して現金化し、諸費用を差し引いた残代金を分ける | 1円単位で正確に分配でき、相続人間の公平感を保ちやすい | 売却経費や譲渡所得税がかかり、売れるまでに数ヶ月以上の時間がかかる |
代償分割では、不動産を引き継いだ人が自分の資金から他の相続人へお金を支払います。これに合わせて、お金を受け取った側では、相続税の課税価格を計算するときに代償金の分が調整されます(国税庁「No.4173 代償分割が行われた場合の相続税の課税価格の計算」(新しいタブで開きます))。
一方、換価分割は、不動産そのものを市場で売却し、得られた代金から経費を差し引いて分ける方法です。「誰もその家に住まない」「他の相続人に支払う代償金を用意できない」という場合には、換価分割が有力な選択肢になります。
ただし、換価分割は、相続人間のあらゆる意見の対立を解決できる万能な方法ではありません。不動産全体を処分する方針を決めて売却を進めるには、相続人全員の合意が必要です。「売り出し価格をいくらにするか」「買主からの値下げ交渉(指値)にどこまで応じるか」「いつまでに売れなければ募集の条件を見直すか」といった基準をあらかじめ決めておかないと、売却そのものが進まなくなるという限界があります。
登記名義と売主の決め方:共同名義と代表単独名義
亡くなった方(被相続人)の名義のままでは、買主へ所有権を移す登記(所有権移転登記)を完了できません。ただし、不動産会社への査定の依頼や情報収集、販売活動の準備そのものは、相続登記が終わる前であっても始められます。実際の現場では、売買契約を結ぶ段階や、代金を支払って物件を引き渡す(最終決済・引き渡し)段階までに相続登記を終わらせるか、決済の当日に買主への移転登記と一緒に連続して(連件で)申請する形をとります。
売却するときに選ばれる登記名義と売主の決め方には、次の二つの方法があります。
方法1:相続人全員の共有名義にして全員が売主となる
法定相続分や遺産分割協議で決めた持分の割合に合わせて、相続人全員の共有名義として相続登記をする方法です。
- メリット:全員が売主になるため、売却金額や契約の条件が全員に見えるようになり、特定の相続人が自分ひとりの判断で勝手に条件を変えてしまう事態を防ぎやすくなります。
- デメリット:不動産会社との仲介契約(媒介契約)、売買契約、代金の決済といった各手続きで、原則として権利を持つ全員の意思確認や書類の提出が求められます。
なお、遠くに住んでいる相続人や高齢の相続人がいる場合でも、すべての手続きで全員が窓口に集まる必要はありません。委任状を交わして、代表者などに手続きを代わりに任せる(代理させる)こともできます。ただし、任せられる権限の範囲や、代理権を確かめる方法、登記を申請するときに必要な実印や印鑑証明書の扱いは、手続きごとに異なります。全員の意思確認をどうやって行い、どの書類をそろえればよいのか、事前に仲介会社や決済を担当する司法書士へ確認しておく必要があります。
方法2:換価手続きのために便宜上、代表者1人の単独名義にする
遺産分割協議書で「売却の手続きをスムーズに進めるため、便宜上、代表者Aの単独名義にして売却する」と決めて登記する方法です。
- メリット:売却の窓口が代表者1人にまとまるため、不動産会社とのやり取りや買主との売買契約、引き渡しの実務手続きを進めやすくなります。
- デメリット:代表者が安値で売却してしまうのではないかという不信感を持たれやすい点や、協議書の書き方や実際のお金の動きに不備があると、税務署から「他の相続人へお金をあげた(贈与した)」とみなされるリスクがあります。
買主が住宅ローンを利用する場合、たとえ手続きのための単独登記であっても、金融機関や決済を担当する司法書士から、実質的な権利者全員の同意書や印鑑証明書の提出を求められることがあります。どちらの名義で進めるかは、仲介を依頼する不動産会社や司法書士にあらかじめ確認したうえで決めます。
遺産分割協議書へ売却と配分方法を書く
便宜上、代表者一人の名義で登記して売却する場合、遺産分割協議書の記載内容と実際の分配実態が重要になります。
もし協議書に「長男Aが本件不動産を取得する」とだけ記載すると、税務上は「長男Aが単独で相続した不動産を売却し、その代金を他の相続人へ分け与えた(贈与した)」と判定される恐れがあります。その結果、受け取った相続人に贈与税が課されるリスクが生じます。
単に文言を一行書き添えれば非課税が法的に保証されるわけではありません。贈与税の課税対象外として扱われるには、次の実態が合意内容と一致している必要があります(国税庁質疑応答「遺産の換価分割のための相続登記と贈与税」(新しいタブで開きます))。
- 便宜上の相続登記であることの合意
- 売却代金の実際の分配
- 各相続人が受け取った送金額の客観的な記録
遺産分割協議書で確認すべき記載事項
実際に協議書を作成するときは、それぞれの状況に合わせて次の項目を盛り込み、事前に司法書士や税理士などの専門家に文面を確認してもらいます。
- 換価処分の目的:不動産を第三者に売却して代金を分けるための手続きであること
- 登記の便宜性:代表者の名義にするのは、売却手続きをスムーズに進めるための便宜上の措置であること
- 差し引く費用の範囲:仲介手数料、登記費用、測量費、解体費などの諸費用を売却代金から差し引くこと
- 配分割合:費用を差し引いた後の残代金を、誰にどのような割合で送金するか
- 物件の正確な表示:登記事項証明書(登記簿謄本)に書かれている通りに、所在・地番・家屋番号などを記載すること
協議書の条項例(確認項目の整理例)
次の条項例は、記載する項目の関係を整理した参考例です。実際に登記の申請や税務申告に使うときは、必ず専門家の確認を受けてから作成してください。
(換価分割)
第○条 相続人一同は、被相続人○○○○の遺産である後記不動産を換価分割することに合意し、その売却手続きを円滑に進めるため、便宜上、相続人○○○○の名義に相続登記を経た上で売却処分を行うものとする。
2 相続人○○○○は、前項の不動産を第三者に売却したときは、その売得金から売却に伴う仲介手数料、登記費用、測量費用、建物解体費用その他売却に要した一切の諸費用を控除した残額を、次の割合により各相続人に分配して送金する。
相続人 ○○○○ : ○分の○
相続人 ○○○○ : ○分の○換価分割の合意内容と実際にお金を送金した実績が一致していれば、代表者の名義で売却した場合でも、贈与税がかからない取引として扱われます。そのうえで、実質的な配分割合に合わせて、それぞれが譲渡所得を申告する準備が整います。
査定・媒介・契約の意思決定方法を決める
不動産を売却するときは、売り出し価格をいくらにするか、買主からの値引き交渉(指値)にどう対応するかなど、判断を迫られる場面が何度も出てきます。すべてを代表者に任せきりにすると「勝手に安値で合意してしまった」と不信感を生む原因になります。かといって、細かな連絡まで毎回全員の同意を待っていては、買い手を逃してしまうおそれがあります。
不動産全体の売却方針や契約を正式に決める前に、次のルールを定めておきます。
- 査定書の共有:査定は1社だけでなく複数の不動産会社へ依頼し、提示された査定価格と査定の理由(根拠)を相続人全員で確認します(情報収集として査定を依頼すること自体は、相続人の一部からでも相談できます)。
- 媒介契約の選択:一般媒介契約(複数の会社に並行して依頼する方法)にするか、専任媒介契約(1社に窓口を絞って定期的に活動報告を受ける方法)にするかを話し合って決めます。
- 最低売却価格の合意:売り出し価格とは別に、「この価格以上であれば売ってよい」という最低売却価格(手元に残る金額の下限の目安)を書面やメールで合意しておきます。
- 条件交渉の承諾フロー:最低売却価格を下回る指値が入った場合や、引き渡しの条件(建物を壊して更地で引き渡すか、境界を確定させる必要があるかなど)の変更を求められた場合は、代表者が自分ひとりで即答せず、あらかじめ決めた期日内に全員へ連絡して可否を判断します。
仲介料・測量・解体等の費用負担を定める
不動産を売却するときは、さまざまな経費がかかります。これらの費用について、法律上「当然に法定相続分の割合で差し引く」と決まっているわけではありません。相続人の間で「どの項目を売却代金から共通の経費として差し引くか」を、あらかじめ合意しておく必要があります。
合意があいまいなまま代表者が自分ひとりの判断で解体工事や測量を発注してしまうと、後で清算するときに「勝手に頼んだ費用は払えない」と深刻なトラブルに発展します。
共同精算で売却代金から控除する主な費用一覧
- 不動産仲介手数料:売買契約が成立したときに不動産会社へ支払う手数料(売れた価格に応じた法律上の上限額の範囲内で、契約により取り決めた金額)
- 登記費用:相続登記の費用、住所変更登記の費用、抵当権を消すための登記(抵当権抹消登記)の費用、司法書士への報酬
- 売買契約書の印紙税:売買契約書に貼る収入印紙の代金
- 境界確定測量費:土地の境界をはっきり確定させるために、土地家屋調査士へ支払う測量や図面作成の費用
- 解体・残置物撤去費:建物を壊して更地で引き渡す場合の解体工事代や、建物の中に残された家財道具を処分する費用
- 保有期間中の維持管理費:売却が完了するまでにかかる固定資産税・都市計画税、草刈り代、火災保険料
事前に見積書を取り寄せて、「これらの費用を売却代金の総額から差し引いた残りの金額を分ける」という合意書を作っておくことが大切です。
共同精算費用と税務上の必要経費の違い
相続人の間でやり取りする精算表で差し引く費用と、所得税を計算するときに差し引ける必要経費(取得費・譲渡費用)は一致しません。
例えば、固定資産税や草刈り代などの維持管理費は、親族同士で合意すれば、売却代金から共通の経費として差し引くことができます。しかし、これらは税金上の「譲渡費用」には含まれません(国税庁「No.3255 譲渡費用となるもの」(新しいタブで開きます))。また、相続登記にかかった費用などは譲渡費用とは区別され、購入代金などに相当する「取得費」に含められるかどうかを個別に検討します(国税庁「No.3270 相続や贈与によって取得した土地・建物の取得費と取得の時期」(新しいタブで開きます))。なお、売却額の5%として計算する「概算取得費」を使う場合は、こうした登記にかかった実際の実費を重ねて差し引くことはできません。
精算表で計算する「税金を引く前の分配額」と、それぞれが税金を納めた後の「実際の手取り額」は異なります。税金を支払うためのお金を取り分けて残しておく(留保金を作る)場合は、税金上の必要経費と混同しないようにして、相続人の間の「預かり金」として別途合意しておく必要があります。
精算表で税引前の分配額を計算する
売買契約が成立して代金の決済が終わったら、代表者は速やかに「精算表」を作って他の相続人へ見せます。
事前に代表者が自分の資金から解体費用などを立て替えて払っていた場合は、立て替えたお金の返還と、遺産として受け取る権利のある金額(分配権利額)が混ざらないよう、分けて計算します。
精算表の作成例(売買代金3,000万円、相続人2名で2分の1ずつ分ける場合)
ここでは、支出の総額300万円のうち「建物の解体費用120万円は代表者Aが自分の資金で立替払い済み」で、「残りの諸費用180万円は決済のときに売却代金から支払う」という前提で計算します。仲介手数料は、国土交通省「不動産取引に関するお知らせ・仲介手数料」(新しいタブで開きます)(確認日:2026年9月4日)に示された上限額で試算しています。実際の請求額は、上限の範囲内で媒介契約により決まります。
- 売却総額(収入)
- 不動産売買代金:30,000,000円
- 固定資産税清算金(買主から日割りで受け取った分):100,000円
- 収入合計:30,100,000円
- 売却諸費用(支出)
- 決済時に売却代金から支払う費用(計1,800,000円)
- 仲介手数料(成約価格3,000万円に対する上限の計算式・税込):1,056,000円
- 境界確定測量費用:500,000円
- 相続登記・決済関係司法書士報酬等:244,000円
- 事前に代表者Aが自己資金で支払い済みの費用(計1,200,000円)
- 建物解体費用(A立替分):1,200,000円
- 支出合計:3,000,000円
- 差引純売却代金(分ける対象となる金額)
- 30,100,000円 − 3,000,000円 = 27,100,000円
- 各相続人の分配権利額(持分2分の1ずつ)
- 相続人Aの分配権利額:27,100,000円 × 1/2 = 13,550,000円
- 相続人Bの分配権利額:27,100,000円 × 1/2 = 13,550,000円
- 決済後の実際の受取額・送金額
- 相続人Bへの送金額:13,550,000円(本来の分配権利額)
- 相続人A(代表者)の受取額:14,750,000円(分配権利額13,550,000円 + 立替金の返還1,200,000円)
決済後の売却総額3,010万円の内訳は、「A受取額1,475万円 + B受取額1,355万円 + 決済時に支払った費用180万円 = 3,010万円」となり、過不足なくぴったり一致します。Aの受取額が多く見えるのは立て替えたお金の精算が含まれているからで、2人の本来の遺産分配権利額はどちらも1,355万円であり、公平さが保たれています。
精算表には各費用の領収書や請求書のコピーを必ず添えて、全員が確認した記録(署名や受け取り確認のメールなど)を残します。
手付金・残代金の受領口座と送金記録
不動産の売買代金は、売買契約を結ぶときに手付金を受け取り、物件を引き渡すときに残りの代金を受け取る取引が多く見られます。ただし、具体的な金額や支払う期日は、それぞれの売買契約の条件によって決まります。
代表者1人が売主となって代金を受け取る場合、生活費の口座に入金してしまうと、個人的なお金の出し入れと混ざり合って使い道が分かりにくくなりがちです。可能であれば売却専用の口座を作るか、通帳のコピーを見せることで、売却に関係する入出金の明細をそのまま提示できるように管理します。
贈与と誤解されないための客観的な証拠保管
親族の間でまとまった金額のお金を動かすと、税務調査などの際に「贈与したのではないか」と疑われるリスクがあります。換価分割による法的に正しい精算金であることを税務署などにきちんと説明できるよう、次の資料をそろえて保管しておきます。
- 換価分割の合意内容がはっきりと書かれた「遺産分割協議書」
- 差し引いた費用の内訳と領収書を添えた「精算表」
- 金融機関を通した「振込の記録」(送金した日、送金した人の名前、受け取った人の名前、振込金額が正確に記録された通帳のコピーや振込受取書)
お金を渡すときは現金での手渡しを避け、必ず銀行などの金融機関の口座振込を利用します。だれがだれに送金したかを客観的にたどれるように、振込依頼人名には本人の名前を正しく書きます。通帳の摘要欄や振込のメモに「換価分割精算金」と補足して書いておくと、後から整理しやすくなります。なお、形式的に書類があるかどうかだけでなく、実際の合意や権利の実態と一致していることが税務上の前提になります。
各相続人の譲渡所得を確認する
不動産を売却して利益(譲渡益)が出た場合は、所得税と住民税がかかります。
代表者一人の名義で売却したからといって、代表者が全員分の所得をまとめて申告するわけではありません。所得の帰属は名義だけで決めず、換価分割の合意と実際の配分を照合します(出典:国税庁「未分割遺産を換価したことによる譲渡所得の申告」(新しいタブで開きます)、確認日:2026年9月4日)。
所得の帰属と確定申告の要否
売却する前に遺産分割協議書で換価分割がまとまっている場合、手続きのために代表者の名義で登記して売却したとしても、税金上は「それぞれの相続人が、実際の配分割合(実質的な持分)に合わせて不動産を売却した」として扱われます。
一方、遺産分割が決まらないまま売却した場合は、原則として法定相続分の割合に合わせてそれぞれの所得になります(帰属します)。ただし、確定申告の期限までに遺産分割の話し合いがまとまったときは、その決まった配分割合で申告することが認められています(国税庁質疑応答「未分割遺産を換価したことによる譲渡所得の申告」(新しいタブで開きます))。なお、一度申告した後に遺産分割をやり直したとしても、当然に税金を払いすぎたからと税額の訂正を請求(更正の請求)できる仕組みにはなっていません。そのため、申告期限の時点での権利関係を正確に把握しておく必要があります。
確定申告は、代金を受け取った相続人全員が一律に行うわけではありません。各自に売却益が出たかどうかや、それぞれの所得の状況、各種の控除を使えるかどうかによって、申告が必要かどうかが分かれます。ただし、「空き家の3000万円特別控除」などの特例を使って納める税金が0円になる場合でも、特例の適用を受けるためには、各自の住所地を管轄する税務署へ確定申告書を提出しなければなりません。申告の期間は、原則として売却した翌年の2月16日から3月15日まで(土日祝日の場合は翌平日)です。提出方法は、e-Taxや郵送、税務署の窓口での提出に対応しています。
譲渡所得の計算式と取得費の注意点
譲渡所得の基本的な計算式は次の通りです。
譲渡所得 = 譲渡価額(売却金額) − 必要経費(取得費 + 譲渡費用)
取得費を計算するときは、土地と建物を明確に分けます。
- 土地:買ったときの代金や、手に入れたときにかかった諸経費(土地は年数が経っても価値が減らないため、減価償却は行いません)
- 建物:建てたときの代金や買ったときの代金から、手に入れてから売るまでの期間に応じた建物の目減り分(減価償却費相当額)を差し引いた金額(国税庁「No.3261 建物の取得費の計算」(新しいタブで開きます))
購入した当時の売買契約書が見当たらない場合でも、すぐに「売却額の5%」として計算する概算取得費を当てはめる必要はありません。当時の領収書や通帳の出金記録、住宅ローンの借入書類、登記簿謄本に載っている抵当権の設定額などを探すことで、実際の取得費を証明できるケースがあります。何も調べずに概算取得費を選んでしまうと、実際の取得費より大幅に金額が小さくなって税金の負担が重くなるおそれがあります。まずは関係する資料を探したうえで、計算方法について税理士へ確認します。
空き家特例を適用する場合の確認事項
「被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例」を利用する場合、昭和56年5月31日以前に建築された建物であることや、売却代金の総額が1億円以下であることなど、法令上の要件を満たす必要があります(国税庁「No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」(新しいタブで開きます))。
2024年(令和6年)1月1日以後の譲渡においては、家屋または敷地を取得した相続人の数が3人以上である場合、特別控除の限度額が1人あたり2,000万円に引き下げられます。この判定は「法定相続人の総数」ではなく、「対象となる家屋や敷地を取得した相続人の数」を基準とします。特例の要件を満たすかどうかは各相続人の取得状況ごとに判定されるため、売買契約を結ぶ前に税理士へ相談して確認します。
売却できない場合の再協議条件を置く
換価分割に合意して売り出したとしても、価格の設定や建物の状態、不動産市場の動きなどによって、予定していた期間内に買い手が見つからない可能性は常に考えられます。売却活動が長引くと、空き家を維持・管理する費用や固定資産税の負担が積み重なり、相続人の関係も悪くなってしまいがちです。
一度まとまって登記や手続きが進んだ遺産分割を、後から取り消して代償分割などに変えようとすると、税金上は「新たな財産の売買や贈与があった」とみなされてしまい、二重に税金がかかるおそれがあります。
そのため、最初の遺産分割協議書を作る段階で、「売却が進まなかったときにどう話し合い直すかという条件(再協議条件)」を決めておくのが賢明です。
- 売却期限の設定:「売り出しを始めてから6か月以内に購入希望者が現れない場合」など、状況を見直す期限を決めておきます。
- 価格を見直すルールの事前合意:「問い合わせや見学の状況に応じて3か月ごとに売り出し価格を見直す」「査定価格の再検討や、不動産買取業者への売却を検討する」といった運用の基準を取り決めておきます。
- 処分方針の変更ルール:一定の期間内に売却できなかった場合に備えて、代償分割へ切り替えることや、法定相続分(国税庁「No.4132 相続人の範囲と法定相続分」(新しいタブで開きます)、e-Gov法令検索「民法」第900条(新しいタブで開きます))をもとに家庭裁判所へ遺産分割調停を申し立てることなど、次の手順を最初の合意の中に盛り込んでおきます。
専門家へ相談する前にそろえる資料と質問
換価分割をスムーズに進めるには、司法書士、不動産会社、税理士の連携が欠かせません。すべての書類がそろうまで相談を後回しにする必要はありません。今手元にある資料を持って早めに相談を始め、追加で集めるべき書類を教えてもらうことが、手続きを早く進める近道です。
手元から準備できる初期相談資料
- 不動産の固定資産税の納税通知書・課税明細書(固定資産税評価額や対象物件を確かめる資料)
- 不動産の登記事項証明書(登記簿謄本)、または権利証(登記識別情報通知)
- 手元にある亡くなった方(被相続人)や相続人の戸籍謄本・住民票(足りない分は相談した後に集められます)
- 公図、地積測量図、建物図面(法務局で取得できます)
- 当時の売買契約書・領収書・通帳など(購入費用などを確かめる手がかりになる資料)
専門家別の確認事項と質問例
- 司法書士へ:「手続きをスムーズにするために代表者の名義で登記する場合、法務局での登記手続きや決済を滞りなく進めるには、遺産分割協議書にどのような条項を盛り込めばよいでしょうか」
- 不動産会社へ:「今の状態のままで売り出すか、境界を確定させる測量や建物の解体を行ってから売り出すかによって、売れるまでの期間や手元に残る金額にどのような違いが出ますか」
- 税理士へ:「購入した当時の資料が少ない場合、それぞれの譲渡所得はどのように計算されますか。また、空き家の特別控除について、相続人の数や引き継ぎの状況によって控除の上限や使えるかどうかがどう変わるか教えてください」
まとめ:売却前に精算と申告まで合意する
相続した不動産の換価分割は、単に「不動産を売ってお金を分ける」だけの手続きではありません。
- 共有名義にして全員が売主になるか、手続きのために代表者の単独名義にするかを決める
- 遺産分割協議書に、換価分割をする目的、差し引く費用の範囲、分ける割合をはっきりと書く
- 最低売却価格や、値引き交渉(指値)にどう対応するかの基準をあらかじめ決めておく
- 売却代金から差し引く経費を確定させ、精算表で立て替えたお金と分配する金額を明確に分けて計算する
- 銀行などの金融機関を通した振込の記録を残して送金し、各自が必要に応じて確定申告を行う
売却活動を始める前に、精算の方法と税金の申告までの全体像を書面でそろえておくことが、親族同士の無用な対立や思いがけない課税を防ぐ最も確実な進め方です。
