老後の住まいを検討するときは、物件価格や家賃の安さだけで判断しないことが大切です。毎月の固定費や段差・建物の管理負担、通院・買物の利便性、家族との距離、契約や保証の要件、将来の再移動までを同じ期間で並べて比べましょう。
「高齢になると賃貸は借りられない」「持ち家に住み続けるのが必ず得」といった極端な前提にとらわれる必要はありません。年齢のみを理由に可否を決めつけず、現在の身体状況や生活スタイルに合わせた条件を整理し、客観的に選択肢を比較しましょう。
先に住まいの条件を決める
住み替え先を探し始める前に、まずは日常生活で何を優先したいのか、条件の優先順位をつけます。心身の状態や生活リズムは人によって異なるため、年齢だけで一括りにせず、ご自身やご家族の状況に合わせて整理することが重要です。
- 移動・交通:最寄り駅やバス停までの距離、歩道や坂道の状態
- 医療・買物:かかりつけ医への通いやすさ、日用品や食材を買える場所の有無
- 段差・広さ:室内の段差の少なさ、手すりの有無、広すぎて持て余さない間取り
- 管理・見守り:庭の手入れや建物の修繕負担、緊急時の対応や見守り体制
- 予算:一時的な初期費用だけでなく、無理なく継続して支払える月々の支出
希望のすべてを満たす物件を見つけるのは難しいため、「日常生活を送るうえで外せない条件」と「工夫次第で補える条件」を分けておくと、住まい選びがスムーズになります。
4つの選択肢を同条件で比較する
老後の住まいの主な選択肢には、「今の家に住み続ける(現居継続)」「賃貸住宅への住み替え」「住宅の購入」「支援付き住宅等」の4つがあります。
ここでいう「支援付き住宅等」は高齢者向けの住まいの総称です。代表例であるサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)では、登録基準として少なくとも状況把握(安否確認)と生活相談サービスの提供が求められます。一方で、食事の提供や介護サービス、医療連携、夜間対応といった支援は住宅ごとに範囲や料金体系が異なり、生活支援や居室管理が一式すべて含まれる制度ではありません。また、住宅セーフティネット法に基づく「居住サポート住宅」とは制度が異なります。
それぞれの特徴を、初期費用や月々の支出、年払い・更新時の支出、臨時修繕、管理、契約、退出・再移動といった観点から比較したのが以下の確認表です。
| 比較項目 | 今の家に住み続ける | 賃貸住宅への住み替え | 新たに住宅を購入 | 支援付き住宅等(サ高住など) |
|---|---|---|---|---|
| 初期費用 | 原則なし(必要に応じたバリアフリー改修や修繕の費用) | 敷金、礼金、仲介手数料、引越し代など | 物件購入代金、登記等の諸費用、引越し代など | 入居一時金や敷金、引越し代など |
| 月々の支出 | ローン残債がある場合の返済額、管理費・修繕積立金(マンションの場合)、光熱費など | 家賃、共益費・管理費など | ローン利用時の返済額、管理費・修繕積立金(マンションの場合)、光熱費など | 家賃、共益費、状況把握・生活相談等の基本サービス費、契約に応じた生活支援・介護・食事等の追加費用 |
| 年払い・更新時の支出 | 固定資産税・都市計画税、火災保険・地震保険料など | 賃貸借契約の更新料、火災保険料、保証会社の更新料など | 固定資産税・都市計画税、火災保険・地震保険料など | 火災保険料、契約更新時の費用(契約形態による)など |
| 臨時修繕・将来費用 | 給湯器・外壁・屋根などの故障・修繕費、将来の介護用改修費 | 原則は貸主負担(故意・過失による汚損・破損の修繕費は自己負担) | 専有部分の設備修理・交換費用、将来の専有部改修費(戸建ては外装・屋根も自己負担) | 居室内設備の自己過失修繕、身体状態の変化に伴う追加サービス利用料など |
| 管理の負担 | 戸建ては建物修繕や庭木の手入れをすべて自己手配。マンションは共用部を管理組合が管理 | 室外や共用部の維持管理は管理会社やオーナーが対応。室内設備の不具合は貸主側へ連絡して対応 | 戸建ては建物・外構修繕を自己手配。マンションは共用部を管理組合が管理 | 居室・共用部の維持管理や生活支援の範囲は契約ごとに異なる(すべて自己手配不要とは限らない) |
| 契約・入居要件 | 所有権があるため再契約は不要 | 入居審査、家賃債務保証会社の利用や連帯保証人の要件など | 住宅ローン利用時は融資審査、売買契約の締結(現金購入時は融資審査なし) | 入居基準(年齢、要介護度、健康状態、身元引受人の要否など)の確認 |
| 退出・再移動 | 将来施設へ移る際は空き家管理や売却・賃貸の手続きが必要 | 解約予告期間や原状回復費用が発生。再移動先が見つかれば移転しやすいが、退去手続きが必要 | 住み替える際は売却や賃貸に出す手続きと相応の期間が必要 | 身体状態の変化(重度介護や常時医療が必要になった場合など)により再移転が必要になる場合あり |
※支援付き住宅等の具体的なサービス内容や費用は住宅ごとに異なるため、個別の確認が必要です。また、いずれの選択肢も将来の費用や身体状態の変化を保証するものではありません。
出典:国土交通省「サービス付き高齢者向け住宅」(新しいタブで開きます)
今の家の扱いを分離して考える
住み替えを考える際、現在住んでいる持ち家を「売る」「貸す」「残す(そのまま持っておく)」という判断を、次の住まいの契約と同時に急いで決めすぎないように注意しましょう。
自宅の売却を急ぐと、希望する価格や引き渡しの時期に妥協が生じやすくなります。持ち家の扱いに迷う場合は、まず家を売る・貸す・残す場合の選択基準を整理し、現在の収支と将来の手間を比較することが大切です。
また、不動産会社による査定額はあくまで売出価格の目安であり、「査定額=実際の売却額」ではありません。売却時には仲介手数料や税金などの諸経費も発生します。手元に残る実際の金額は、不動産売却の費用と手取りの計算表で条件を分けて試算できます。
売りに出してから契約・引き渡しまでにも時間がかかります。不動産売却の工程と期間を確認し、自分の期限から逆算しておくと、次の住まいの契約を焦らずに進められます。手元に残る手取り額と、持ち続けた場合にかかる維持費(固定資産税や管理費、修繕費など)を別々に整理して比較しましょう。
公的な住み替え支援や住宅資産の活用については、住宅金融支援機構「住みかえ支援・住宅ストック活用」(新しいタブで開きます)などの情報も参考になります。
賃貸契約で確認すること
高齢期に賃貸住宅へ住み替える場合は、一般的な賃貸借契約と異なる確認事項があります。年齢だけを理由に断定されるわけではありませんが、貸主側の懸念事項に配慮した条件設定が求められることがあります。
- 保証人・保証会社:家賃債務保証会社の利用要件や保証料の有無、連帯保証人が必要かどうか
- 緊急連絡先:体調急変時や緊急時の連絡窓口として、親族などの連絡先を指定できるか
- 見守り・安否確認:定期的な電話や訪問、見守り機器等の導入条件が契約に含まれているか
- 残置物の処理:万一入居者が死亡した際の契約解除や家財処分の取り決め。国土交通省の「残置物の処理等に関するモデル契約条項」では、入居者本人の生前の委任に基づき受任者を指定し、解除事務や処分する物・残す物をあらかじめ定めます(死亡時に貸主が任意で自由に処分できる仕組みではありません)
- 契約形態と更新・退去条件:一般的な普通借家契約か、期間満了で終了する定期借家契約か。更新や再契約の手続き、解約予告の期間、中途解約時の違約金、退去時の原状回復や精算ルール
出典:国土交通省「残置物の処理等に関するモデル契約条項」(新しいタブで開きます)
セーフティネット住宅と居住サポート住宅の違い
賃貸住宅を探すなかで、高齢者の入居を拒まない住まいを見つける仕組みとして、国の制度である「セーフティネット住宅」があります。2025年10月1日に改正住宅セーフティネット法が施行され、制度の位置づけが整理されました(2026年9月21日確認時点)。
- セーフティネット住宅(登録制度):高齢者などの住宅確保要配慮者の入居を拒まない賃貸住宅として登録された物件です。どのような世帯を受け入れるかの登録基準を確認して探します。ただし、登録住宅であっても入居審査があり、申込みをすれば誰でも必ず入居できるわけではありません。
- 居住サポート住宅(認定制度):改正法に基づき、要配慮者の生活を支援する居住支援法人等と連携し、日常の安否確認・見守りや適切な福祉サービスへのつなぎを行う賃貸住宅として都道府県等から認定された住まいです。すべてのセーフティネット登録住宅に見守りが付いているわけではなく、見守り等の支援を必要とする場合は認定を受けた居住サポート住宅かどうかを確認します。
なお、セーフティネット住宅には家賃や改修費用の補助制度が設けられている場合がありますが、オーナー向けの「改修費補助」と入居者向けの「家賃負担軽減(家賃補助)」は異なる仕組みです。特に家賃補助はすべての物件や入居者に一律で適用されるわけではなく、自治体による実施の有無や、入居者の所得条件などの要件が定められています。
出典:
試算と現地確認
住まいを比較検討する際は、比較する期間を「今後5年間」「10年間」など一定の年数にそろえて総費用を試算します。
購入代金と月々の住宅ローン返済額を二重に計上しないよう注意し、期間内の支払総額と、将来手元に残る資産(売却時の手取り想定など)を分けて整理します。なお、将来の医療費や介護費、建物の修繕費、売却価格は確定できないため、試算額は将来の総費用を保証するものではありません。ゆとりを持った資金計画を立てることが重要です。
費用比較の記入シート(例:10年間で試算する場合)
以下の項目に沿って、各選択肢の概算額を書き出して比べます。
| 費用項目 | 計算・記入の目安 | 今の家 | 賃貸住宅 | 住宅購入 | 支援付き住宅等 |
|---|---|---|---|---|---|
| ① 初期費用 | 契約諸費用、敷金・礼金、引越し代、当初改修費など | 円 | 円 | 円 | 円 |
| ② 月々の支出計 | 月額支出(家賃、ローン返済、管理費等)× 120か月(10年) | 円 | 円 | 円 | 円 |
| ③ 年払い・更新費計 | 固定資産税、保険料、契約更新料などの年数分・回数分 | 円 | 円 | 円 | 円 |
| ④ 臨時修繕・予備費 | 専有部や設備の修理交換、将来の追加負担への備え | 円 | 円 | 円 | 円 |
| ⑤ 再移動の準備費 | 将来の退去費用、施設等への移転初期費用の想定 | 円 | 円 | 円 | 円 |
| 期間内の支払総額 | ① + ② + ③ + ④ + ⑤ の合計 | 円 | 円 | 円 | 円 |
| (参考)残る資産・手取り | 10年後の想定売却手取り額、または敷金返還等の想定 | 円 | 円 | 円 | 円 |
※購入時の頭金・現金購入代金とローン元本返済額を合算して二重計上しないように記入します。将来の売却額や修繕額は変動するため、確定値として固定せず、幅を持たせて見込みます。
現地で確認すること
図面や金額の試算だけでなく、実際の現地に足を運んで確認することも欠かせません。
- 移動時間と道のり:地図上の距離だけでなく、実際に歩いて駅やバス停、スーパー、病院までの所要時間や坂道・段差の有無を確かめる
- 室温と住まいの構造:断熱性能やサッシの仕様、暖房設備の有無を確認し、居室と廊下・脱衣所・浴室・トイレなどの間で温度差が生じやすい構造になっていないかを確かめる
- 騒音と時間帯別の環境:昼間だけでなく夕方や夜間の静けさ、街灯の明るさ、近隣の雰囲気
- 日常の生活動線:玄関からトイレ、寝室、浴室までの段差や移動のしやすさ、将来手すりを設置できるスペースがあるか
机上の情報と現地での体感を突き合わせながら、無理のない暮らしが続けられる住まいを一つひとつ選別していきましょう。
