亡くなった方(被相続人)の法定相続人全員が相続放棄をしても、残された家や土地が自動的かつすぐに国や特定のだれかのものになるわけではありません。相続人がだれもいなくなった不動産を法律にのっとって正しく管理したり、売却して整理(清算)したりするには、家庭裁判所に「相続財産清算人(そうぞくざいさんせいさんにん)」を選んでもらう選任申立ての手続きが必要です。
ただし、相続放棄をした親族であればだれでも当然に申立人になれるわけではありません。また、清算人を自由に選べる制度でもありません。まずはご自身に申し立てを行う法律上の利害関係(申立適格)があるかを確かめます。そのうえで、亡くなった方の最後の住所地を管轄する家庭裁判所へ、申し立てが必要かどうかや必要な書類、あらかじめ納める予納金の一般的な取り扱いを事前に問い合わせることから始めます。
最初に確認する:相続財産清算人が必要になり得る場面
相続財産清算人とは、相続人がいるかどうかわからないとき(法定相続人全員が相続放棄をして引き継ぐ人がいなくなった場合を含みます)に、家庭裁判所から選ばれて遺産の管理や清算を行う代表者です(e-Gov法令検索「民法」第951条・第952条(新しいタブで開きます))。民法の上では、相続人のいない遺産全体をひとつの「法人(組織)」として扱います。清算人はその法人の代表として財産を調査してお金に換え(換価)、お金を貸していた人(債権者)への返済や、生前にお世話をした人(特別縁故者)への分配(分与)を行います。そのうえで、最終的に残った財産を国(国庫)へ引き継ぎます(裁判所「相続財産清算人の選任」(新しいタブで開きます))。
裁判所「相続財産清算人の選任」(新しいタブで開きます)が示す申立人や手続きの枠組みに沿って、選任の申し立てが必要となる主な場面と、それぞれの立場における目的や注意点を整理します。
| 申立を検討する立場 | 具体的な状況 | 申立ての主な目的 | 事前に留意すべき判断基準 |
|---|---|---|---|
| 不動産の担保権者(金融機関等) | 不動産に抵当権を設定しているが、お金を借りていた所有者が亡くなり全員が相続放棄した | 抵当権を実行して競売にかけるため、その相手方として清算人を選任してもらう | 清算人が選ばれる審判や予納金の納付を済ませたうえで、清算人を相手方として競売手続きを進める |
| 一般債権者(貸金・売掛金等) | 亡くなった方に対して無担保の貸金や売掛金などの金銭債権がある | 清算人に遺産の不動産を任意売却などでお金に換えてもらい、返済(弁済)を受ける | 担保権者などへの返済後に遺産が不足する場合は、債権額に応じた割合での返済(按分弁済)となり、全額を回収できない可能性がある |
| 土地の賃貸人(地主) | 土地を借りていた借地人が亡くなり全員が放棄して、土地の上の建物が放置されている | 借地契約を解除し、建物の解体撤去(収去)や土地の明け渡しを求める | 建物の解体撤去費用や残された荷物の処分費用を、遺産から回収できないリスクがある |
| 特別縁故者(内縁配偶者等) | 相続権はないが、生前に同居して生計を共にしていたり、療養看護(身の回りの世話や介護)に尽くしたりした | 清算が終わったあとに残った財産(残余財産)から、不動産の分与を受ける | 借金が多く(債務超過)、清算後に財産が残らなければ分与を受けられない |
| 現に建物を管理している親族等 | 放棄した時点で現に建物を占有(実際に管理)しており、保存義務や立て替えた管理費用がある | 清算人へ法律にのっとって現物を引き渡して保存義務を終え、立て替えた費用の清算を求める | 単なる親族関係だけでは申し立ての資格(申立適格)が認められず、民法第940条に基づく保存義務や管理費用の立替金債権などの客観的な利害関係が必要となる |
相続放棄と相続人不存在の手続を混同しない
「相続放棄」と「相続財産清算人の選任」は、民法第938条以下と第951条以下(新しいタブで開きます)に定められた、目的も手続きも異なる制度です。両者を混同して放置すると、責任の所在が曖昧になり、倒壊事故や損害賠償請求などのリスクを招きます。
| 比較項目 | 相続放棄(民法第938条以下) | 相続財産清算人の選任(民法第951条以下) |
|---|---|---|
| 主な目的 | プラスの財産もマイナスの借金も引き継がず、相続関係から離脱する | 相続人のいない遺産法人について、管理や借金の返済、財産の分配、国への引き継ぎを行う代表者を家庭裁判所に選任してもらう |
| 申立てを行う人 | 各相続人が個別に家庭裁判所へ申し立てる(申述する) | 法律上の利害関係人や検察官が家庭裁判所へ選任を申し立てる |
| 決定される効果 | 初めから相続人とならなかったものとみなされる | 相続人のない遺産法人(民法第951条)を代表し、清算人が管理や換価などの権限を行使する |
| 不動産の帰属 | 次順位の相続人等に移る(全員が放棄しても直ちに国庫には移らない) | 清算手続きを経て、最終的に残った財産があれば国庫に帰属する |
| 放棄後の保存義務 | 放棄した時に「現に占有」している財産に限り、引き渡しまで継続する | 清算人へ現物を引き渡した時点で、それ以後の保存義務が終了する |
ここでいう「全員が相続放棄した」状態とは、配偶者や第1順位の子どもだけでなく、直系尊属(第2順位の親など)、兄弟姉妹やその子どもである代襲相続人(第3順位)を含め、すべての法定相続人が放棄を完了した状況を指します。単に連絡先がわからない相続人がいる状態は「不在者」と呼ばれ、相続人がだれもいない「相続人不存在」とは法的に区別されます。相続人がいるかどうかわからない状態になって初めて、民法第951条の規定によって遺産全体がひとつの法人とみなされます。
民法第940条第1項(新しいタブで開きます)(2023年4月1日施行の改正規定)では、相続放棄をした人の保存義務について次のように定めています。
- 相続の放棄をした人は、その放棄をした時に遺産に属する財産を「現に占有」しているときは、次の相続人や家庭裁判所が選任した相続財産清算人に引き渡すまでの間、自分の財産に対するのと同一の注意をもって、その財産の保存を続けなければなりません。
- 「現に占有」しているかどうかの判断は、鍵を持っていることだけで一律に決まるわけではありません。住まいとして実際に使っていたかや、普段どのように管理していたかなど、具体的な支配・管理の事実関係に基づいて判断されます。放棄した時点でその不動産を現に占有していない場合(遠方に暮らしており、日常の管理を一切行っていない場合など)は、この保存義務は課されません。
したがって、亡くなった方と同居していた元相続人や、普段から建物を管理・支配していた元相続人は、全員が放棄したからといって直ちに管理責任から解放されるわけではありません。第三者に危険を及ぼさないための保存措置を続けるか、法律上正当な管理の引き受け先である相続財産清算人を選任してもらい、実際の建物を引き渡す必要があります。なお、清算人へ引き渡せばそれ以後の保存義務は終了しますが、引き渡す前の管理不足によって第三者に損害を与えていた場合の責任まで消滅するわけではありません。
申立てができる人と利害関係の資料
家庭裁判所に清算人の選任を申し立てられるのは、「法律上の利害関係人」および「検察官」に限られます(裁判所「相続財産清算人の選任」(新しいタブで開きます))。
民法(新しいタブで開きます)と裁判所の申立案内を踏まえると、法律上の利害関係人として検討される主な類型は次のとおりです。申立適格は個別の事情と提出資料により家庭裁判所が判断します。
- 相続債権者(亡くなった方に対する貸金債権者、金融機関、未払い医療費の請求権者など)
- 特定遺贈を受けた者(遺言によって特定の財産の遺贈を受けた受遺者。遺産全体を一定割合で譲り受ける全部包括受遺者を除きます)
- 特別縁故者(内縁の配偶者、事実上の養親子など、民法第958条の2に規定された者)
- 相続放棄後も現に建物を占有・保存している元相続人(民法第940条の保存義務を負う人や、管理費用を立て替えた人など)、成年後見人
- 国の行政機関の長または地方公共団体の長(所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法第42条)
注意すべき点として、相続放棄をした親族であればだれでも当然に申立人になれるわけではありません。相続放棄を完了した元相続人は、法律上「初めから相続人とならなかった者」として扱われます。そのため、単に「血縁者である」「固定資産税の通知が届いて困っている」という理由だけでは、申し立てを行う資格(申立適格)は認められません。
ただし、民法第940条に基づいて不動産を現に占有・保存している元相続人は、清算人に建物を引き渡して保存義務を終わらせるという法律上の利害関係を持ちます。そのため、他人の事務を代わりに処理した立場(事務管理者)として構成しなくても、自分自身の保存義務や管理費用の立替金債権などを理由にして申し立てを行うことが可能です。その際は、実際にどのように管理しているかという状況や、実際にかかった費用などの具体的な利害関係を、客観的な資料で疎明(証明)する必要があります。
また、特別縁故者として申し立てる場合にも厳密な要件が定められています。亡くなった方と生計を同じくしていた事実や、療養看護(身の回りの世話や介護)に尽くした客観的な裏付けが欠かせません。単なる親族としての日常的なお付き合いにとどまる場合や、亡くなったあとに法要や葬儀を行っただけ(死後縁故)では、特別縁故者として認められません。さらに、葬儀費用は喪主が主宰する儀式の費用とみなされるのが一般的です。そのため、当然に遺産に対する立替金債権とは扱われない点にも留意してください(名古屋家庭裁判所「相続財産清算人選任申立ての手引(2024年9月24日版)」(新しいタブで開きます))。
申立先は被相続人の最後の住所地で決まる
相続財産清算人の選任申立書を提出する先は、「被相続人の最後の住所地(相続開始地)を管轄する家庭裁判所」です(家事事件手続法第203条第1号)。
- 申立人が現在暮らしている住所地の家庭裁判所ではありません。
- 空き家や農地などの不動産が存在する所在地の家庭裁判所でもありません(不動産の所在地と被相続人の最後の住所地が異なる場合は、最後の住所地を担当する裁判所が管轄になります)。
亡くなった方の最後の住所地は、亡くなった時点における「住民票除票」または「戸籍附票」の記載によって特定します。管轄区域の詳細は、裁判所ウェブサイトの「申立書提出先一覧(家庭裁判所)」で市区町村ごとに確認できます。
戸籍・住所・財産・負債の資料を四つに分けて集める
申立書の作成と添付資料の準備は、裁判所が相続人の不存在と遺産の現況を審査できるように、4つの分類に整理して進めます(裁判所「相続財産清算人の選任」(新しいタブで開きます)、名古屋家庭裁判所「相続財産清算人選任申立ての手引(2024年9月24日版)」(新しいタブで開きます))。裁判所へ提出する公的書類は、個人番号(マイナンバー)の記載がないものを手配してください。
| 資料の分類 | 具体的な必要書類 | 主な確認・収集先 | 準備上の注意点 |
|---|---|---|---|
| 1. 相続人不存在を証明する書類 | 亡くなった方の出生から死亡までのすべての戸籍・除籍・改製原戸籍謄本<br>両親(父母)の出生から死亡までのすべての戸籍謄本<br>死亡した子ども・孫・直系尊属・兄弟姉妹・甥姪の戸籍謄本<br>放棄した相続人の戸籍謄本および相続放棄申述受理証明書 | 本籍地の市区町村役場<br>家庭裁判所(受理証明書) | 法定相続情報一覧図の写しを提出する場合でも、相続放棄の証明には受理証明書が別途必要です。<br>裁判所によっては亡くなった記載のある戸籍謄本の別途提出を求められることもあるため、あとから追加提出(追完)できるかも含めて申立先へ確認します |
| 2. 住所関係の書類 | 亡くなった方の住民票除票または戸籍附票<br>申立人の住民票(法人は登記事項証明書)<br>清算人候補者の住民票等(候補者を立てる場合のみ) | 最後の住所地・現住所地の役所<br>法務局(法人資格証明) | 弁護士や司法書士などを候補者とする場合に書類添付が必要かどうかは、申立先の案内に従います |
| 3. 財産を証明する資料 | 不動産登記事項証明書(未登記は固定資産評価証明書)<br>預貯金通帳の写し(表紙・見返し・死亡日を起点とする一定期間の出入金明細・定期預金欄)<br>残高証明書、有価証券残高証明書 | 法務局<br>市区町村の資産税課<br>取引金融機関 | 通帳履歴の提出範囲は申立先の指定に従います(例えば名古屋家庭裁判所の手引では死亡日より前3か月以降の履歴)。死亡後の出金がある場合は、何に使ったかを説明する書類(使途説明書等)の提出を求められることがあります |
| 4. 利害関係・負債の資料 | 金銭消費貸借契約書、借地契約書、担保権設定登記の書類<br>負債に関する資料(借入残高証明書、請求書等の写し)<br>生活や療養看護の記録、保存管理にかかった費用の領収書 | 契約相手方・金融機関<br>申立人の手元資料 | 特別縁故者としての権利を主張する場合は、生前の家計簿・日記・写真等の記録を添付します |
提出した戸籍謄本などの原本還付(原本の返却)を希望する場合の手続きや送付方法(申請書の添付や返送用封筒の様式など)は、申し立てをする家庭裁判所ごとに運用が異なります。事前に最新の指示を確認してください。また、選任審判が下りたあとに清算人へ申立書類一式の写しを交付する必要があるため、あらかじめ手元に全書類の控えを保管しておきます。
申立費用と追加の予納を申立先へ確認する
選任申立てには、法令で定められた定額の手数料、裁判所ごとの通信費、そして事案に応じて必要となる「予納金(よのうきん)」がかかります。
- 収入印紙:800円分(申立書に貼付)。
- 官報公告料:5,582円。申立てと同時に納めるのではなく、家庭裁判所による審理のあと、納付の指示があってから納めます(裁判所「相続財産清算人の選任」(新しいタブで開きます))。
- 連絡用郵便切手:家庭裁判所ごとに必要な総額と金種の内訳が指定されています(保管金としてインターネットバンキング等から電子納付できる裁判所もあります)。
- 予納金:遺産の中に清算手続きの経費や清算人への報酬を支払うに足りる確実な現金・預貯金が存在しない場合に、申立人があらかじめ裁判所へ納付するお金です。
予納金の金額は全国一律の定額制をとっておらず、裁判官が遺産の内容や事案の難易度を審査したうえで、申立てのあとに決定します。そのため、事前の電話照会で個別の確定額を確認することはできません。一般的な運用の目安としては、事案や管轄裁判所により数十万円から100万円程度を要することがあります(例えば名古屋家庭裁判所の手引では「70万円程度(事案により70万円を超える場合もある)」と例示されています)。
遺産の中に預貯金があり清算人が管理口座を確保できた場合や、不動産が高値で売却できた場合でも、当然に予納金の全額が返還されるわけではありません。清算手続きにかかった実費や清算人報酬を遺産から全額まかなえたときに限り、手続き終了後に予納金の全額または残額が返還されます。一方で、買い手のつかない老朽家屋や山林などで売却代金が得られず、手続き費用が遺産を上回った事案では、予納金が返還されず申立人の自己負担となります。申立てによる権利回収や明渡しの実益と、予納金を負担する出費リスクを慎重に対比してください。
選任後の清算・公告・不動産処理の流れを見通す
申立書が提出されたあと、家庭裁判所による要件の審査や審理、予納金の納付を経て選任審判が下ります。申立書に希望する清算人候補者を記載することは可能ですが、裁判所はその推薦に拘束されません。事案の中立性や管理の難易度を踏まえ、裁判所が適任と判断する弁護士や司法書士などを職権で選任します(例えば名古屋家庭裁判所の手引では、地域の弁護士会所属の弁護士が原則として選任される運用例が示されています)。
民法第952条以下(新しいタブで開きます)(2023年4月1日施行の改正規定)に基づく、選任審判後の法的手続きの流れは次のとおりです。
flowchart TD
A["選任申立て・審理・予納"] --> B["選任審判"]
B --> C["選任・相続人捜索の公告(6か月以上)"]
B --> D["財産調査・管理の開始(鍵・資料の引継ぎ)"]
D --> E["債権申出の公告(2か月以上・捜索期間内に満了)"]
D --> F["清算人による任意売却(許可制)または担保権者による競売"]
C --> G{"相続人現れず公告期間満了"}
G --> H["特別縁故者の分与申立て(公告満了後3か月以内)"]
E & F & H --> I{"弁済・分与後の残余財産"}
I -->|"残余あり"| J["国庫帰属(手続完了)"]
I -->|"残余なし"| K["清算結了(手続完了)"]- 選任審判と相続人捜索の公告:家庭裁判所が相続財産清算人を選任した旨と、6か月以上の期間を定めて相続人を捜索するための公告を官報で行います(民法第952条第2項)。
- 財産調査の開始と債権申出の公告:清算人は速やかに遺産の調査と管理に着手します。また、すべての債権者・受遺者に対し、2か月以上の期間を定めて請求を申し出るよう官報で公告します(民法第957条)。この申出期間は、上記1の相続人捜索期間内に満了するように設定されます。
- 不動産の換価と弁済:清算人は家庭裁判所の権限外行為許可を得て、不動産の任意売却などを進めます。抵当権などの担保権が設定されている場合は、担保権者が清算人を相手方として競売を申し立てることもあります。売却代金などの遺産から費用や公租公課を控除し、債権者へ弁済を行います。一般債権者の場合は優先弁済権がないため、遺産が不足するときは債権額に応じた按分弁済となります。
- 特別縁故者に対する財産分与:捜索期間内に相続人が現れなかった場合、公告期間が満了したあと3か月以内に限り、特別縁故者が家庭裁判所へ財産分与審判を申し立てることができます(民法第958条の2)。不動産の換価や弁済がすべて完了していなくても申立期限は進行するため、分与を希望する利害関係人は期限に注意が必要です。
- 国庫への帰属:債権者への弁済や特別縁故者への分与を行ってもなお残った財産は、最終的に国庫へ引き継がれます(民法第959条)。
なお、2つの公告期間は並行して進みますが、不動産の換価や弁済には一定の期間がかかるため、手続き全体が6か月で完了するとは限りません。また、担保権の実行(競売)が進まない場合や、老朽化により任意売却も困難で、解体費用や残置物の処分費用を捻出できない事案では、手続きが途中で打ち切られ、選任審判が取り消される場合があります。
空き家の鍵・郵便・危険箇所は処分せず記録する
申立てを検討している期間中、空き家を事実上管理している人は、責任問題や法的トラブルを避けるために適切な保全と現状記録に徹してください。
- 鍵と戸締まりの管理:敷地内への不法侵入や放火を防ぐため、門扉、玄関、勝手口、窓の施錠を徹底します。鍵の保管担当者を一人に決め、保管場所と鍵番号を控えておきます。
- 郵便物の保管:被相続人宛てに届く督促状、固定資産税納税通知書、公共料金の検針票などは絶対に破棄せず、差出人と受取日付ごとに仕分けて保管します。負債の全体像を把握する重要な手がかりになります。
- 現状の写真撮影:建物の外観全体、屋根、室内、残置物、隣地との境界フェンスの現況を写真や動画で記録します。特に雨漏り、外壁のクラック(ひび割れ)、傾いた塀などの危険箇所は日付入りで撮影してください。
- 家財・遺品の処分禁止:室内に残された家電、家具、日用品、衣類などを自己判断で廃棄してはいけません。相続放棄前の処分は、民法第921条第1号(新しいタブで開きます)の法定単純承認に当たるおそれがあります。また、放棄後であっても資産価値のある財産の隠匿や私的消費(同条第3号)と疑われた場合や、保存義務者としての管理責任違反を問われて清算人から損害賠償を請求される要因になります。
- 緊急時の応急措置:台風や大雪で屋根瓦が落下しそうなど、近隣や通行人に危険が差し迫っている場合は、人身事故を防ぐための応急補修を優先します。着手する前に自治体の担当課や専門家へ相談し、施工前の写真、業者見積書、工事写真、領収書をすべて保管してください。
家庭裁判所から選任審判書が届いたあとは、申立書一式の控え、預かっている鍵、郵便物、現場写真を速やかに清算人へ引き継ぎます。清算人へ現物を引き渡すことでそれ以後の保存義務は終了しますが、引き渡す前の管理不備による責任まで免除されるわけではありません。そのため、引継ぎが完了するまで記録を大切に保管してください。
申立前に家庭裁判所へ伝える質問メモ
家庭裁判所の家事受付係や書記官へ事前に問い合わせる際は、要点を簡潔にまとめて照会します。個別の予納金額は申立てのあとの審理で決定されるため事前の照会では確定できませんが、手続きの要件や必要資料、納付手順などを手元メモに沿って確認します。
【相続財産清算人選任に関する事前照会メモ】
1. 管轄の確認
「被相続人の氏名は[氏名]、死亡日は[年月日]、住民票上の最後の住所地は[〇〇県〇〇市〇〇町〇番地]です。
貴庁が選任申立ての管轄家庭裁判所で相違ないでしょうか」
2. 申立適格と疎明資料の確認
「法定相続人全員が相続放棄を完了しています。
申立人は[現に建物を保存している元相続人/金銭債権者/土地の賃貸人/特別縁故者希望者]ですが、
本件において申立適格を認めるための利害関係疎明資料として、どのような書類が求められますか」
3. 郵便切手・納付方法の確認
「申立時に納付すべき連絡用郵便切手の合計金額と、必要な金種(各切手の枚数内訳)を教えてください。
また、郵便料について保管金の電子納付(インターネットバンキング等)は可能でしょうか」
4. 予納金に関する一般的な運用の確認
「遺産として不動産(空き家)はあるものの預貯金が乏しい事案です。
個別の金額が申立後に決定されることは承知しておりますが、貴庁における予納金の一般的な納付手順や納付時期について教えていただけますでしょうか」
5. 戸籍謄本等の追完や法定相続情報の扱い
「被相続人の出生から死亡までの戸籍類のうち、役所の改製原戸籍等の廃棄・保存期間経過により申立時までに一部が揃わない場合、申立書提出後に追加提出(追完)する扱いは可能でしょうか。また、法定相続情報一覧図を提出する場合に別途必要となる戸籍等の範囲を教えてください」弁護士・司法書士・自治体へ相談を分ける
相続財産清算人の申立ては、手続きの難易度が高く予納金の経済的負担も伴うため、抱えている課題に応じて適切な窓口へ相談することが重要です。
- 弁護士へ相談すべき状況:担保権の実行(競売)や建物収去・土地明渡しなどの権利回収を目的とする場合、申立人適格が認められるか法的な判断が難しい場合、予納金の持ち出しリスクと回収見込みの妥当性を検証したい場合。家庭裁判所に対する申立ての代理人を依頼できます。
- 司法書士へ相談すべき状況:全国の役所からの戸籍謄本類の取り寄せや法定相続情報一覧図の作成が自力では困難な場合、不動産の登記記録の精査や、家庭裁判所へ提出する申立書・財産目録の書類作成代行を依頼したい場合。
- 自治体の窓口へ相談すべき状況:空き家の傾きや屋根の崩落など近隣への危険が生じており行政的な安全指導を受けている場合(空き家対策担当課・建築指導課)、相続放棄完了後の固定資産税の通知先照会や対応方法を確認したい場合(資産税課)。
専門家や役所に相談する際は、次の3点をまとめた資料を持参すると状況の把握が迅速になります。
- 被相続人の情報:氏名、死亡年月日、最後の住所地、相続放棄をした親族の一覧。
- 不動産と遺産の情報:登記事項証明書または固定資産税課税明細書、判明している預貯金残高や債務額のメモ。
- 自身の立場と要望:現在の占有・管理状況(鍵の所持、見回り頻度)、申立てにより達成したい具体的な解決内容。
よくある質問
質問と回答を開く(4件)
相続人全員が相続放棄した場合、空き家の固定資産税は誰が払うのですか?
適法に相続放棄の申述が受理された元相続人は、相続が始まった時にさかのぼって相続人の身分を失います。そのため、被相続人の固定資産税の納税義務を承継することはありません。自治体の課税担当窓口が放棄の事実を把握していない場合は、戸籍上の親族へ納税通知書が届くことがあります。その際は、家庭裁判所から発行された「相続放棄申述受理証明書」の写しを役所へ提出し、相続放棄済みであることを伝えてください。相続財産清算人が選任された後は、清算人が管理する相続財産法人の中から税金の清算が行われます。
清算人に特定の親族や知人の弁護士を指定できますか?
申立書に清算人候補者を記載する欄はありますが、申立人の希望どおりに選任される保証はありません。家庭裁判所は、事案の中立性や債権者との利害対立、管理の難易度を踏まえて適任者を選任します。実務上は、事件関係者と利害関係のない地域の弁護士や司法書士などが裁判所の職権で選任される例が多く見られます(例えば名古屋家庭裁判所の手引では管内の弁護士会所属の弁護士が原則と示されています)。なお、申立書が受理されても直ちに選任されるわけではなく、裁判所による審理や予納金の納付を経て選任審判が下ります。
家庭裁判所から求められた予納金が払えない場合はどうなりますか?
家庭裁判所から指示された期限までに必要な予納金を納付できない場合、選任手続きを進められず申立てが却下される恐れがあります。予納金の分割納付や免除について、全国共通で利用できる統一的な運用が確立されているわけではありません。所定の期日までの納付が難しい場合は、必ず指定期限の前に申立先の家庭裁判所へ相談してください。そのうえで、予納金の持ち出しに見合う申立ての実益があるかどうかを、弁護士などの専門家と慎重に再検討することが重要です。
資産価値がなく売れそうにない不動産でも申立てはできますか?
法的に申立てを行うこと自体は可能です。ただし、買い手がつかない過疎地の土地や著しく老朽化した空き家の場合、遺産を売却しても予納金を回収できません。その結果、数十万円以上の予納金が全額申立人の持ち出しで終わるリスクが高くなります。また、任意売却や競売の見込みがまったく立たない場合には、手続きが途中で打ち切られ、選任審判が取り消される事例もあります。申立ての前に、持ち出し費用に見合う実益があるかを十分に見極める必要があります。
まとめ:不動産処分より先に申立資格と管轄を確定する
全員が相続放棄した不動産を巡るトラブルは、「管理から逃れたい」「早く換金したい」と焦って建物を解体したり遺品を処分したりすることから生じます。清算人が選任される前の無断処分は重大な法的責任を招くため、現状維持と適正な保全を徹底しなければなりません。
手続きの第一歩は、被相続人の最後の住所地を確認して管轄の家庭裁判所を特定し、自身に法律上の申立人適格があるかを客観的な資料に基づいて確認することです。そのうえで、予納金の負担に見合う実益があるかを検討し、必要書類を整えて家庭裁判所への事前照会を進めてください。
