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相続放棄した空き家の管理義務は?現に占有する人の保存と引渡し

相続放棄者全員が空き家を無期限に管理するわけではありません。放棄時にその家を現に占有していた人(実際に住み、家や鍵を管理していた人など)は、相続人または相続財産清算人へ引き渡すまで保存義務を負うため、居住・鍵・利用の事実を確認します。

まだしないこと

放棄したから何もしなくてよいとも、所有者のように家財処分・解体・売却できるとも決めない

まずすべきこと
  1. 家庭裁判所から届いた相続放棄申述受理通知書を確認する
  2. 放棄時の居住・鍵・利用・危険を一枚にする
  3. 保存範囲と引渡先を弁護士へ確認する

このページで決めること現に占有していたか、保存すべき範囲、後順位相続人・清算人への引渡しを分けて確認できます。

相続放棄後の空き家について占有・保存・引渡しの範囲を確認する様子
公開日 2026年9月4日最終更新日 2026年9月14日法令・制度確認日 2026年9月4日執筆・編集 住まいのよりみち編集部読了目安 8

相続放棄の手続きを済ませても、「空き家の管理義務がずっと残り続けるのではないか」と不安を抱える人は少なくありません。

手続きを済ませた人全員に、期限のない管理義務が一律で残るわけではありません。一方で、放棄の手続きを済ませた瞬間に、その物件に関するすべての関わりが直ちに消滅するとも限りません。

判断の分かれ目となるのは、「相続放棄の時点で、その空き家を現に占有(実際に管理や利用)していたかどうか」です。法務省の相続放棄者の管理義務に関する資料(新しいタブで開きます)に示されるとおり、2023年4月1日に施行された改正民法により、責任の対象者、義務の内容、責任が終わる時期(終期)が整理されました。

ご自身が空き家の「保存義務」を負う対象なのかを見極め、次の相続人や家庭裁判所が選任する清算人へ正しく引き渡すまでの具体的な道筋を確認していきましょう。

相続放棄の申述期限と基本的な効力

この手続きは、亡くなった人(被相続人)の財産や借金を一切受け継がないという意思を、家庭裁判所に申し立てるものです。

申述(しんじゅつ:裁判所に申し立てること)には期限が定められています。自分が相続人になったことを知った時(自己のために相続の開始があったことを知った時)から3か月以内(熟慮期間)に、被相続人の最後の住所地を担当する家庭裁判所へ、申述書や戸籍謄本などの必要書類を提出しなければなりません(出典:裁判所「相続の放棄の申述」(新しいタブで開きます)e-Gov法令検索「民法」第915条第1項(新しいタブで開きます))。申述手続きの具体的な進め方や生前の片付けとの兼ね合いについては、関連記事([inheritance-renunciation-and-estate-cleanout])も参考にしてください。

申述が裁判所に受理されると、その人は「初めから相続人とならなかったもの」とみなされます(民法第939条)。これにより、被相続人が所有していた空き家の所有権を受け継ぐことはなく、原則として固定資産税を納める義務も引き継ぎません。

ただし民法では、相続財産が放置されて近隣に危険や損害が及ぶのを防ぐため、特定の条件にあてはまる放棄者に対して、例外的な義務を定めています。

2023年施行の民法改正で整理された「保存義務」のルール

現行の民法において保存義務が課されるのは、相続放棄の時にその財産を「現に占有している」人です。対象となる人は、次の相続人や清算人へ引き渡すまでの間、自分の財産を扱うのと同程度の注意(自己の財産におけるのと同一の注意)をもって現状を保たなければなりません。条文と改正趣旨は、e-Gov法令検索「民法」第940条(新しいタブで開きます)法務省の説明資料(新しいタブで開きます)で確認できます。

かつての民法第940条は「その財産の管理を継続しなければならない」と規定していたため、「放棄しても一生管理を続けなければならないのか」「どこまで費用をかければよいのか」という混乱が生じていました。

こうした混乱を解消するため、2021年に民法改正が行われ、2023年(令和5年)4月1日に施行されました。現行の民法では条文の表現が改められ、義務を負う条件、義務の内容、責任が終了する時期が具体化されています(出典:e-Gov法令検索「民法」第940条第1項(新しいタブで開きます)法務省「民法等一部改正法・相続放棄者の管理義務の見直し」(新しいタブで開きます))。

現行の民法第940条第1項の要点は次の3点です。

  • 対象者:相続放棄の時に、相続財産にあたる財産を「現に占有している」人
  • 義務の内容:「自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない(自分の財産と同じくらいの注意を払って現状を保つこと)」
  • 義務の終わり(終期):「相続人」または家庭裁判所が選任した「相続財産の清算人」に対して当該財産を引き渡すまでの間

「現に占有している」とはどのような状態か

「現に占有(せんゆう)している」とは、単に相続権があったという法律上の立場にとどまらず、その物件を実際にコントロール(事実上支配)している状態を指します。

例えば、被相続人と同居していた人や、実家の鍵を持っていて日常的に出入りし荷物を管理していた人は、「現に占有している」とみなされる可能性が高くなります。

もっとも、鍵を持っていることだけで直ちに占有の有無が決まるわけではありません。遠方に住んでいて鍵を預かっただけで出入りや管理の実態がないのか、それとも他の人が自由に入れない形で物件を管理・利用していたのかといった客観的な事実関係をもとに判断されます。法務省の説明資料(新しいタブで開きます)は、放棄時にその財産を現に占有しているかを基準にしています。実家へ出入りしていなかった場合でも、個別の管理実態を整理してから義務の有無を確認してください。

「管理」から「保存」へ:責任範囲の限定

旧法では「管理継続義務」と呼ばれていましたが、現行法では「保存義務」と表現されています。

保存とは、財産の現状を維持し、価値が落ちたり壊れたりするのを防ぐための行為を指します。建物の大規模なリフォームまでは求められず、窓ガラスの破損確認や施錠といった現状維持が想定されます。

なお、e-Gov法令検索「民法」第940条第1項(新しいタブで開きます)が定める注意義務の水準は「自己の財産におけるのと同一の注意」です。ただし、この条文だけで、本人の作為(おこなったこと)や不作為(すべきことをしなかったこと)による損害賠償責任や、物件の占有者として問われうる別の法的責任まで一律に判断できるわけではありません。責任の所在や法的性質は状況によって分かれるため、安易な自己判断は避ける必要があります。

保存義務は所有権や納税義務とは異なる

保存義務はあくまで現状を維持する責任であり、空き家の所有権を持つことや、固定資産税の納税義務を負うこととは法律上はっきりと区別されます。

保存義務を負っているからといって所有者に戻るわけではありません。したがって、空き家の売却や解体工事を自己判断で行う権限はありません。

自身の状況から義務の有無と引渡し先を確認する

放棄前後の状況に応じて、取るべき対応と財産の引渡し先は異なります。次の表で状況ごとの分岐を確認してください。

表:放棄時点の状況、保存義務の有無、主な対応内容、義務が終了する引渡し先
放棄時点の状況保存義務の有無主な対応内容義務が終了する引渡し先
同居していた・日常的に管理していた(現占有あり)あり安全な場所からの現状記録と最低限の保存を行う相続人(引渡しを受ける者)、または家庭裁判所が選任した相続財産清算人
遠方に居住・管理実態なし(現占有なし)原則なし近隣や自治体から連絡があったら放棄受理証明書を示して状況を説明するなし(引渡し義務も原則発生しない)
相続人全員が相続放棄した(現占有あり)あり次の相続人がいないため、家庭裁判所へ清算人選任の申立て等を検討する家庭裁判所が選任した相続財産清算人

次順位の相続人がいる場合の引渡し手順

空き家を現に占有している人が相続放棄をした場合、次の順位の相続人が相続を承認したという事実だけで直ちに保存義務が終わるとは限りません。e-Gov法令検索「民法」第940条第1項(新しいタブで開きます)では、相続人または相続財産清算人へその財産を「引き渡すまでの間」保存しなければならないと定めています。義務を終えるには、相手方と連絡しただけでなく、鍵や重要書類を含めて財産を実際に引き渡した記録を残します。

引き渡す相手となる相続人を確認するにあたっては、民法が定める相続順位に沿って特定を進めます。配偶者は、子・直系尊属・兄弟姉妹という血族相続人の順位とは別に、常に相続人となります。第1順位の子などが全員相続放棄した場合は第2順位の直系尊属(親や祖父母)を確認し、その相続人がいない場合は第3順位の兄弟姉妹などを確認します。なお、甥・姪が代わりに相続する代襲相続人(だいしゅうそうぞくにん)となる条件や、配偶者自身の放棄の有無は個別に確認してください。

トラブルを防ぐため、次の手順で引渡しを進めます。

  1. 次の順位の相続人に相続放棄した事実を客観的に伝える(戸籍調査などで連絡先を確認する)
  2. 相続人となった相手方と連絡を取り、財産の引渡しについて協議する
  3. 現地の鍵や重要書類、物件の状況を実際に引き渡す
  4. 引渡し完了の事実を客観的に証明できるよう、引渡書や受領書などの書面を作成して記録を残す

相続人全員が放棄した場合は「相続財産清算人」の選任を検討する

すべての相続人が相続放棄し、引き渡す相手となる相続人が一人もいなくなった場合、現に占有している人の保存義務は自動的には消滅しません。

この場合、義務を法的に終了させる手段として「相続財産清算人(そうぞくざいさんせいさんにん)」の選任を申し立てる方法があります。家庭裁判所に対して申立てを行うことで、正当な引渡先を確保できます(出典:e-Gov法令検索「民法」第952条第1項(新しいタブで開きます)裁判所「家事事件Q&A」(新しいタブで開きます))。清算人選任の詳しい流れや手続きについては、関連記事([estate-liquidator-for-inherited-property])でも解説しています。

相続財産清算人とは、相続人の存在が明らかでないときや相続人全員が放棄したときに、家庭裁判所が利害関係人や検察官の請求によって選任する人です。清算人は被相続人の財産を調査・管理し、債権者(お金を貸している人など)への弁済や財産の換価(お金に換えること)を行い、最終的に残った財産を国庫へ帰属させる(国のものにする)手続きを行います。選任される清算人は事案に応じて家庭裁判所が決定します。なお、相続人不存在の清算手続きのほか、個別の財産保存を目的とする「相続財産管理命令による管理人」などの制度も存在し、目的や手続によって区別されます。

選任された相続財産清算人に空き家の鍵と現況を引き渡し、その記録を残すことで、現に占有していた放棄者の保存義務は終了します。

予納金の負担に注意が必要

相続財産清算人の選任申立てを行うにあたって注意が必要なのが「予納金(よのうきん)」です。

予納金とは、清算人の報酬や管理費用に充てるため、申立人があらかじめ裁判所に納める金銭です。予納金の金額や要否は、対象物件の財産状況やお客に換える見込み、担当する家庭裁判所の判断によって異なります。空き家の換価が難しく清算費用を賄えない見込みの場合にはまとまった予納金を求められることがありますが、金額が一律に決まっているわけではありません。

また、民法第940条第2項で準用される費用償還の規定(民法第650条等)に基づいて費用償還を請求できる法的な根拠があることと、実際に財産から費用を回収できるかは別の問題です。相続財産が不足していれば全額を回収できないリスクがあります。そのため、現に占有している放棄者自身が費用を工面して申し立てるべきか、それとも債権者の動きを待つ余地があるかなどは、司法書士や弁護士と慎重に協議してください。

放棄前後にやってはいけない「処分行為」と法定単純承認のリスク

空き家の管理や片付けを急ぐあまり、自己判断で家財を処分したり建物を解体したりしてはいけません。片付けや遺品整理の着手時期については、事前に注意点([inherited-house-before-clearing])を確認しておくことが大切です。

民法では、相続放棄の前と後でそれぞれ単純承認(相続することを認めたとみなされること)に関する規定を設けています(出典:e-Gov法令検索「民法」第921条(新しいタブで開きます))。

  • 放棄前:相続人が相続財産の全部または一部を処分したときは、原則として法定単純承認(法律上、相続を認めたこと)とみなされ、以後の相続放棄ができなくなります(民法第921条第1号)。
  • 放棄後:相続放棄の申述が受理された後であっても、相続財産を隠匿(隠すこと)したり、私的に消費(勝手に使ってしまうこと)したりしたときは、法定単純承認とみなされる規定があります(民法第921条第3号)。

家庭裁判所で申述が受理された後であっても、自由に家財を処分できるわけではありません。一方で、どのような処分であっても当然に放棄の効力が取り消されると一律に断定できるわけでもありません。財産の性質や処分の内容によって法的な評価が分かれます。

また、自身で保存作業を行う際も、屋根に登ってシートを掛けたり危険な破損箇所を直接補修したりすることは転落や事故の恐れがあり危険です。安全な点検や確認のポイントは点検リスト([vacant-house-maintenance-checklist])も活用してください。

  • 行うべき保存・記録:安全な場所からの写真撮影による現状記録、施錠の確認、郵便物の回収と保管、自治体や専門業者への緊急相談
  • リスクが高い処分行為:空き家の解体撤去、敷地や建物の売却・賃貸借契約の締結、資産価値がある動産の売却・私的消費、無断での大規模な家財破棄

近隣からの苦情や行政からの連絡への対応方法

現に占有していない場合であっても、近隣住民や自治体の空き家担当窓口から連絡が入ることがあります。役所は登記簿や住民票をもとに連絡してくるため、家庭裁判所での放棄の事実を事前に把握していない場合が多いからです。

連絡を受けた際は放置せず、次の手順で落ち着いて対処します。

固定資産税の納税通知書が届いた場合

被相続人宛ての納税通知書が届いた場合、市区町村(東京23区は都税事務所)の課税窓口へ連絡し、自分が相続放棄をした旨を伝えます。

窓口から家庭裁判所が発行した「相続放棄申述受理通知書」または「相続放棄申述受理証明書」のコピーの提出を求められますので、これを提出して納税義務者ではないことを説明します。

危険箇所の修繕や除草を求められた場合

倒壊や部材落下の恐れについて連絡があった場合、まずは安全な場所から現地の写真を撮影して状況を記録します。

自身が現に占有していない場合は、「相続放棄の手続きが完了しており、現に占有しておらず管理権限もないこと」を客観的に伝えます。

自身が現に占有している場合であっても、危険を伴う補修作業を独断で行うことは避けてください。安全な場所から記録を残した上で、自治体窓口や専門業者に緊急相談を行い、対応に必要な権限や費用の扱いを確認します。併せて、次の相続人への引渡しや清算人選任の検討状況を説明してください。

専門家へ相談する前に準備する書類と質問内容

空き家の保存や清算人選任の判断は、自己判断で進めると予期せぬ費用負担やトラブルを招く危険があります。司法書士や弁護士などの専門家に相談する際は、事前に次の資料を揃えておくと相談が円滑に進みます。

揃えておくべき書類

  • 家庭裁判所から届いた「相続放棄申述受理通知書」または「相続放棄申述受理証明書」
  • 空き家の登記事項証明書(登記簿謄本)または固定資産税の納税通知書(課税明細書)
  • 被相続人と自身の関係がわかる戸籍謄本・除籍謄本
  • 現地の写真(安全な場所から撮影した外観の全体像、鍵の保管状況、破損箇所)
  • 近隣や自治体から届いた書面・通知書

専門家への質問例

  • 「私の関わり方(鍵の保管状況や出入り実態)は、民法第940条の『現に占有』に該当しますか」
  • 「後順位の相続人が全員放棄した場合、私が費用を負担して相続財産清算人の選任を申し立てる必要がありますか」
  • 「危険箇所について、単純承認とみなされず、かつ安全を確保するために取れる確認手順は何ですか」

相続放棄後の空き家管理に関するよくある質問

Q. 実家の鍵を1本持っているだけで「現に占有している」ことになりますか?

鍵の所持は占有を推認させる一要素ですが、それだけで直ちに保存義務が決まるわけではありません。遠方に住んでいて鍵を預かっただけで、出入りや利用の実態がなかった場合は、占有にあたらないと判断される余地があります。

注意したいのは、占有の責任を免れようとして自己判断で鍵を処分したり放置したりしないことです。まずは鍵を預かった経緯やこれまでの出入り頻度を整理し、司法書士や弁護士へ実態を正確に伝えて確認してください。

Q. 保存のためにやむを得ず支出した費用は誰かに請求できますか?

民法第940条第2項では委任(人に事務を依頼する契約)に関する規定を準用しています。そのため、現に占有する人がやむを得ず支出した有益な保存費用については、将来選任される相続財産清算人などに対して、相続財産の中から返してもらう(償還を請求する)法的な枠組みが用意されています(民法第650条等)。

ただし、これは請求権の根拠となるルールです。相続財産自体に十分な金銭が残っていなければ、実際には回収できない点に注意が必要です。

Q. 相続放棄した空き家を国に引き取ってもらう「相続土地国庫帰属制度」は使えますか?

この相続土地国庫帰属制度は、相続または遺贈(遺言によって譲り受けること)によって土地を取得した「相続人」が利用できる制度です。家庭裁判所で申述が受理された人は、初めから相続人とならなかったものとみなされるため、本制度の申請権者にはなれません。また、同制度は建物が残っている土地には適用できないため、空き家が建っている状態では利用できません。

占有の有無を確かめ引渡しまでの筋道を立てる

空き家の相続を放棄した場合でも、全員に無期限の管理義務が一律で残り続けるわけではありません。

まずは自分が「現に占有している」状態にあたるかを客観的に確認し、占有がある場合は最低限の保存を行いつつ、次順位の相続人または相続財産清算人への引渡しを目指してください。独断での解体や家財処分は避け、安全な場所からの現状記録と専門家への相談を第一に進めましょう。

参照資料

法務省「民法等一部改正法・相続放棄者の管理義務の見直し」参照日 2026年9月4日e-Gov法令検索「民法」参照日 2026年9月4日裁判所「相続の放棄の申述」参照日 2026年9月4日裁判所「家事事件Q&A」参照日 2026年9月4日