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相続放棄を検討中の実家は片付けていい?捨てる前の確認順

相続放棄を検討しているなら、実家の家財を売る、捨てる、譲る、形見として持ち帰る前に止まります。危険回避や保存の行為と財産の処分は同じではありませんが、線引きは個別事情で変わるため、原則3か月の期限を確認し、予定作業を家庭裁判所・弁護士へ相談します。

まだしないこと

家財の価値を自分で判断して、売却・廃棄・形見分け・費用精算をしない

まずすべきこと
  1. 自分が相続人になったことを知った日を書く
  2. 借金・財産の資料と、すでに動かした物・払った費用を記録する
  3. 具体的な予定作業を家庭裁判所または弁護士へ確認する

このページで決めること相続放棄を検討中に止める行為、期限、保存する記録、相談時に伝える内容を整理できます。

相続放棄を検討する親族が空き家の設備と安全な管理方法を確認する様子
公開日 2026年9月4日法令・制度確認日 2026年9月4日執筆・編集 住まいのよりみち編集部読了目安 8

親が亡くなり実家の相続放棄を考えている場合、本格的な片付けや家財の処分をすぐに始めてはいけません。

安易に家財を捨てたり売ったりすると、「遺産を自分の財産として引き継ぐ意思がある」とみなされてしまいます。その結果、相続を全面的に認めた扱いになる「法定単純承認(民法第921条第1号)」が成立するおそれがあります。一度単純承認と判断されると、後から家庭裁判所へ相続放棄を申し立てることや、債権者に対して放棄の効力を主張することが難しくなります。

ただし、片付けに関わるすべての行為が直ちに単純承認になるわけではありません。建物の損壊を防ぐ応急処置や衛生環境を保つための「保存行為」は、法律上認められています。自分だけの判断で処分を急がず、まずは放棄の申述期限と実家の占有状況を確認してください。そのうえで室内の現状を記録に残し、専門家や家庭裁判所へ確認する手順を踏みましょう。

手を付ける前に知っておくべき期限と処分制限

実家の片付けを始める前に、民法が定める「申述期限」と「処分行為の制限」を確認します。

1. 相続放棄の申述期限は「自己のために相続開始を知った時から3か月」

相続放棄は、「自己のために相続の開始があったことを知った時」から3か月以内に申し立てなければなりません(民法第915条第1項)。申述先は、被相続人(亡くなった親)の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。

この起算点は、被相続人の死亡を知った日だけでなく、先順位の親族が全員放棄した通知を受けて自分が新たに相続人になった事実を知った日などが該当します。

実家の財産や借金の調査に時間がかかり、3か月以内に判断がつかない場合は、家庭裁判所へ「相続の承認又は放棄の期間の伸長」を申し立てられます。ただし、調査中や相談中であっても期限のカウントは止まりませんし、自動的に期間が延長されるわけでもありません。伸長を認めてもらうには期限内に申立てを行って裁判所の審判を受ける必要があるため、期限が迫っているときは早急な検討が求められます。

出典:e-Gov法令検索「民法」第915条(新しいタブで開きます)裁判所「相続の放棄の申述」(新しいタブで開きます)

2. 現状維持を超える家財処分は「法定単純承認」とみなされるおそれがある

民法第921条第1号では、相続人が相続財産の全部または一部を「処分」したときは単純承認をしたものとみなすと定めています。一方、財産の価値を現状のまま維持する「保存行為」は例外として認められています。

  • 保存行為の考え方:建物の雨漏りを防ぐ応急処置、腐った生ごみの撤去、害虫の発生防止など、財産の現状を維持して損害の拡大を防ぐための行為です。
  • 処分行為の考え方:家財を売る、捨てる、親族の間で形見分けとして分ける、亡くなった親名義の預貯金を解約したり使ったりする行為です。

何が保存行為で何が処分行為にあたるかは、法令で物品ごとに一律に定められているわけではありません。その物の財産的な価値や行為の動機、個別具体的な事情によって判断が分かれます。自己判断で「これは保存行為だから捨てても大丈夫」と思い込まず、迷う物は動かさずに現場でそのまま保全するのが確実です。

出典:e-Gov法令検索「民法」第921条(新しいタブで開きます)

実家の家財を動かす前の確認手順

実家を訪れた際は、すぐにゴミ袋へ物を詰め込んではいけません。安全確認と証拠の保全を優先し、次の順序で進めます。

建物の倒壊・損壊の危険を確認する

老朽化した空き家や台風・地震などで被災した建物は、床の踏み抜き、天井や梁(はり)の崩落、外壁落下の危険があります。危険を感じる建物へ無理に立ち入ってはいけません。身体の安全確保を最優先にし、危険な兆候がある場合は敷地外からの目視確認にとどめてください。そのうえで、自治体の空き家相談窓口や建築士などの専門家へ相談しましょう。

室内の現状を部屋ごとに撮影する

室内へ安全に入れる場合は、一切の家財を動かさずにスマートフォンやカメラで写真と動画を撮影します。玄関、廊下、各居室、押入れ、物置など、部屋全体の配置と収納の中身が分かるように記録します。これは、後から債権者などから「高価な財産を持ち出したのではないか」と疑われた際、客観的な記録として提示できるようにするためです。

書類や貴重品を一時保全する

現金や通帳、キャッシュカード、不動産の権利証(登記済証・登記識別情報通知)、年金手帳、保険証券、借入金の契約書、納税通知書といった重要書類や貴重品を探します。見つかった書類や貴重品は、相続人自身の所有物として取得したり使ったりしてはいけません。紛失や盗難を防ぐため、専用の箱やケースにまとめて実家内の鍵がかかる場所に一時保管します。やむを得ず保管場所を動かす場合は、「発見場所」「品名」「移動先」「保管目的」をメモに残し、私的な使用や親族間での分配を厳重に避けてください。

明らかな腐敗物と財産価値の疑われる物を分ける

冷蔵庫の中の生鮮食品や異臭を放つ生ごみなど、放置すると害虫や悪臭を招く明らかな汚損物は、衛生環境を保つ最小限の保存行為として片付けの対象になります。一方、衣類や家具、家電製品、美術品、趣味の道具などは、一見古く見えても市場価値が残っている可能性があるため、自己判断で廃棄せずその場に残してください。

家庭裁判所と弁護士へ状況を確認する

集めた情報をもとに、適切な相談窓口へ問い合わせます。家庭裁判所では相続放棄や期間伸長に関する提出書類や手続きの案内を受けられます。一方、個別の家財撤去が処分行為にあたるか、また実家の保存義務をどう負うかといった具体的な法律判断については、弁護士へ相談して助言を求めてください。

片付けで問題になりやすい行為の目安

どのような行為に法定単純承認のリスクが伴うか、相談前の行動目安を整理します。個別の物品の価値や事情によって評価は分かれるため、確定的な判断ではなく事前確認の目安として活用してください。

表:行為の区分、具体的な作業内容、単純承認のリスク傾向、注意点・対応方針
行為の区分具体的な作業内容単純承認のリスク傾向注意点・対応方針
防災・防犯の応急処置戸締まり、割れ窓の目張り、水道の元栓締め、ブレーカー遮断比較的低い(保存行為の性質が強い)作業前後の写真を撮影し、作業理由をメモに残す
衛生維持の処置冷蔵庫内の腐敗した食品や生ごみの廃棄、悪臭・害虫対策比較的低い(保存行為の範囲とみなされやすい)廃棄前の食品の状態やゴミの品目を写真で記録する
一般家財の分別・整理室内で物を動かさず、どこに何があるかをリスト化する作業低い(処分を伴わない現状確認の場合)持ち出しや廃棄を伴わない現状確認にとどめる
家財の持ち帰り・形見分け貴金属、時計、着物、骨董品などを自宅へ持ち帰る高い(処分行為と疑われやすい)経済的価値のある物は持ち帰らず、現場で保全する
不用品回収業者への依頼トラックで家財を一括回収・売却・処分してもらう高い(処分行為とみなされやすい)放棄の受理前後を問わず、引受先が確定する前に独断で一括処分を依頼しない
預貯金の解約・費消被相続人の口座から出金して片付け費用に充てる高い(処分行為にあたる可能性が高い)故人の預貯金には手を付けず、口座を凍結状態にしておく

葬儀費用・公共料金・形見分けの個別判断

実家の管理や故人の身辺整理で発生する費用や物品の取り扱いには、慎重な対応が求められます。

  • 葬儀費用の取り扱い:葬儀費用を誰がどのように支払うかは慎重な判断が必要です。故人の預貯金から支払う場合、金額の多さや社会的妥当性、支払ったお金の使いみちについて、後から債権者と争いになるリスクが残ります。「領収書を保管しているから当然に適法になる」わけではありません。支払う前に預貯金の残高や債務(借金)の状況を整理し、弁護士へ確認してください。
  • 公共料金や滞納金の支払い:実家の電気代や固定資産税などの請求が届いた際、被相続人の預貯金から支払うと「債務の弁済」として処分行為を疑われる恐れがあります。一方、ライフラインの停止を防ぐために相続人自身の固有財産(自分のお金)から立て替えて支払う選択肢もありますが、立て替えた金銭が後から回収できる保証はありません。自己資金であっても独断で支払わず、弁護士に対応方針を相談してください。
  • 形見分けの範囲:アルバムや手紙、身分証明書、着古した衣類など、経済的価値が客観的に認められない身の回り品であっても、独断での持ち帰りは避けてください。少しでも貴金属や美術的価値、リセールバリュー(再販売できる価値)がある物が混ざっていると、遺産を自分の物として取得したと疑われる原因になります。形見分けの可否や範囲についても、専門家へ相談した上で判断するのが安全です。

相続放棄が受理されても実家の管理問題は直ちに消えない

「家庭裁判所で相続放棄が受理されれば、実家の管理から完全に解放されて家財も捨てられる」と考えるのは誤りです。相続を放棄した人は初めから相続人とならなかったものとみなされますが、実家の処分権限を得られるわけではありません。受理後であっても、権限のない者が家財を独断で売却・廃棄することはできません。

民法第940条が定める「現に占有している者」の保存義務

e-Gov法令検索「民法」第940条(新しいタブで開きます)(確認日: 2026-09-19)では、相続放棄時に相続財産を現に占有している人の保存義務を次のように定めています。

「相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第952条第1項の規定により選任された相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。」

ここでいう「現に占有している」状態とは、単に実家の鍵を所持していることだけで一律に決まるものではありません。実家に同居していたか、日常的に出入りして事実上建物を支配していたかなど、実際の管理状況に応じて個別具体的に判断されます。

もし占有者と評価される状況にある場合、放棄が受理された後であっても義務が残ります。次の順位の相続人や裁判所が選任した相続財産清算人に実家を引き渡すまでの間、建物を適切に保存しなければなりません。適切な保存を怠り、屋根瓦の崩落などで近隣に被害を与えた場合は損害賠償責任を問われるリスクがあります。

出典:e-Gov法令検索「民法」第940条(新しいタブで開きます)国民生活センター「相続放棄した後の実家の管理は誰がする?」(新しいタブで開きます)

次の相続人への引渡しと相続財産清算人の位置づけ

同順位の相続人が全員放棄した場合、相続権は次順位の親族(親、兄弟姉妹、甥姪など)へ移ります。占有がある場合は、それらの次順位の相続人へ実家を引き渡す必要があります。

親族全員が相続放棄し、引き渡す相手がいなくなった場合、管理責任から法的に離れる手段として家庭裁判所への「相続財産清算人」の選任申立てが検討されます。ただし、放棄者全員に選任申立ての一律の義務があるわけではありません。自身の占有の有無や、近隣への危険性、相続財産の状況を踏まえて申立ての要否を判断します。

清算人の選任には、裁判所へ納付する予納金(清算人の報酬や管理費用に充てられる費用)が必要となるケースがあります。国民生活センターの相談事例などでは数十万円から100万円程度が例示されることもありますが、金額は遺産から管理費用を賄えるかなどに応じて裁判所が個別に決定します。全国共通の固定額ではないため、具体的な費用の見通しや申立ての必要性は弁護士や管轄の家庭裁判所に確認してください。

出典:国民生活センター「相続放棄した後の実家の管理は誰がする?」(新しいタブで開きます)

相談窓口の役割分担と事前に準備する資料

相談を円滑に進めるためには、家庭裁判所と弁護士の役割分担を理解し、手元にある資料を整理して臨むことが重要です。すべての書類が揃うのを待って申述期限を過ぎてしまわないよう、手元にある資料から持参して早めに相談してください。

窓口ごとの役割の違い

  • 家庭裁判所:相続放棄の申述や期間伸長申立てに必要な提出書類、費用、手続きの流れについての案内を行う窓口です。個別の家財撤去が処分行為にあたるか、あるいは自分が占有者にあたるかといった具体的な法律判断についての助言は行いません。
  • 弁護士:家財の処分性、債務の整理、民法第940条(新しいタブで開きます)に基づく保存義務の有無など、個別事情に応じた法的な判断と対応方針の助言を行う専門家です。
  • 司法書士:相続放棄申述書などの裁判所提出書類の作成代行や、不動産登記に関する手続きを支援します。

相談時に持参する資料

  • 被相続人の住民票除票または戸籍附票
  • 被相続人の死亡の記載がある戸籍謄本(全部事項証明書)
  • 相談者(申述人)の戸籍謄本
  • 実家の固定資産税納税通知書または登記事項証明書
  • 実家の外観および室内の現状写真
  • 発見した通帳、契約書、請求書などの保管一覧メモ
  • 経過の時系列メモ(自己のために相続開始を知った日、先順位者の放棄を知った日、実家に立ち入った日、行った作業内容)

相談先で確認する具体的質問

  • 申述期限と必要書類は裁判所「相続の放棄の申述」(新しいタブで開きます)、保存義務はe-Gov法令検索「民法」第940条(新しいタブで開きます)(いずれも確認日: 2026-09-19)を参照したうえで、次の質問を整理します。
  • 家庭裁判所への質問:
  • 「相続放棄の申述に必要な添付書類や手続きの流れに不足はありませんか?」
  • 「財産調査が3か月の期限に間に合わない場合、熟慮期間伸長の申立て手続きはどう進めればよいですか?」
  • 弁護士への質問:
  • 「室内の腐敗食品の撤去や窓の目張りは、この状況で保存行為の範囲と判断できますか?」
  • 「私のこれまでの鍵の所持や立ち入り状況は、民法第940条の『現に占有している』状態に該当しますか?」
  • 「他の相続人が全員放棄した場合、実家の引き渡し先や管理責任をどう整理すべきですか?」

よくある疑問

実家に届いた郵便物や請求書は開封して中身を確認してもいいですか?

通常の財産や債務(借金)の状況を調査する目的で郵便物や請求書を開封・確認することは、相続財産の調査行為であり単純承認にはあたりません。ただし、安全とされるのはあくまで内容の確認にとどまる範囲です。督促状を見て被相続人の預貯金から支払ったり、相手方に連絡して独断で契約解除や過払い金の返還請求を行ったりすると、処分行為とみなされる恐れがあります。内容の確認にとどめ、実際の支払いや契約関係の手続きは弁護士に相談してください。

賃貸住宅だった実家の退去手続きや残置物撤去はどうすればいいですか?

賃貸借契約の合意解除や家財の廃棄・撤去は、法的な処分行為にあたる可能性が高い行為です。大家や管理会社から片付けや明け渡しを求められても、自己判断で処分に応じず、「相続放棄を検討している」と伝えてください。その上で、弁護士などの専門家に間に入ってもらい、適切な対応方針を協議する必要があります。

実家の家財を捨てる前に徹底すべき現状記録と権限確認

相続放棄を検討している段階の実家では、「片付けて綺麗にする」ことよりも「処分行為とみなされない状態を保つ」ことが最優先です。

  • 申述期限は自己のために相続の開始があったことを知った時から原則3か月以内です。間に合わない可能性がある場合は、裁判所の手続案内(新しいタブで開きます)(確認日: 2026-09-19)を確認し、期間伸長の申立てを検討します。
  • 危険な建物には無理に立ち入らず、身体の安全を最優先にする
  • 室内の家財を動かす前に、部屋全体の現状を写真や動画で記録する
  • 見つかった貴重品や書類は私的に取得・分配せず、発見場所や目的を記録して一時保管する
  • 害虫や悪臭を防ぐ最小限の保存行為にとどめ、売却や不用品回収業者への一括処分は避ける
  • 放棄の受理後であっても「現に占有している」場合は引渡しまで保存義務が残るため、次の相続人や相続財産清算人などの権限ある引受先を確認する

参照資料

裁判所「相続の放棄の申述」参照日 2026年9月4日e-Gov法令検索「民法」第915条・第921条・第940条参照日 2026年9月4日国民生活センター「相続放棄した後の実家の管理は誰がする?」参照日 2026年9月4日