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遺言執行者は相続不動産を売却できる?遺言書で確認する範囲

遺言執行者がいても、すべての相続不動産を自由に売れるとは限りません。遺言書が売却・取得・遺贈のどれを定めているかを確認し、登記、媒介・売買契約、代金受領、費用、分配の権限を項目ごとに整理します。

まだしないこと

遺言執行者という肩書だけで売却権限を決めず、相続人だけで遺言と異なる媒介・売買契約を進めない

まずすべきこと
  1. 遺言書の種類・保管先を確認する。封がある場合は自分で開けず、家庭裁判所へ確認する
  2. 対象不動産を登記事項証明書と財産目録で照合する
  3. 売却から代金分配までの権限を弁護士・司法書士へ確認する

このページで決めること遺言の文言を基に、遺言執行者・相続人・受遺者が行う手続と報告範囲を整理できます。

遺言書と不動産、売却代金の流れを確認する遺言執行者
公開日 2026年9月4日最終更新日 2026年9月6日法令・制度確認日 2026年9月4日執筆・編集 住まいのよりみち編集部読了目安 8

結論:遺言執行者が売却できるかは「遺言書の文言と全体の趣旨」で決まる

遺言執行者に指定されたからといって、その肩書だけで相続不動産を自由に売却できるわけではありません。不動産を売ってお金に換えられる(換価できる)かどうかは、遺言書に換価の明確な指示があるか、あるいは遺言全体の趣旨から売却する権限が認められるかによって決まります。たとえば、「不動産を売却して代金を分配する」といった明確な記載があるかどうかが、重要な確認ポイントになります。

もし遺言書に「特定の相続人に不動産を相続させる」と書かれている場合は、その相続人が権利を受け取るため、遺言執行者の独断では売却できません。執行にあたる人の役割は、その権利を受け取った人への名義変更(登記)を行うことであり、不動産を売却するかどうかは受け取った本人が判断します。

売却の手続きを進める前に、まずは遺言書がどの方式で作られたか(公正証書遺言か、法務局で保管された自筆証書遺言か、自宅などで保管されていた自筆証書遺言か)を確かめます。そのうえで、対象となる不動産の特定、換価の指示、代金の配分先、費用負担についての記載を順番に照合していく必要があります。

遺言執行者の法律上の権限と限界

遺言執行者とは、亡くなった方(被相続人)の遺言内容を実現するために指定された人のことです。

e-Gov法令検索「民法」(新しいタブで開きます)第1012条第1項では、「遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する」と定めています。2018年(平成30年)に成立し、2019年(令和元年)7月1日に施行された改正民法によって、遺言執行者は単なる相続人の代理人ではなく、遺言内容を実現する独立した職務権限者であることが明確にされました(法務省「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律(相続法の改正)」(新しいタブで開きます))。ただし、法改正の前に作成された遺言や、法改正の前に始まった相続では経過措置が関わる場合があります。そのため、古い遺言書の場合は専門家に適用されるかどうかを確認してください。

ただし、この権限はあくまで「遺言の内容を実現するため」という範囲に限られます。遺言書から売却や換価の権限が読み取れないときは、自己判断だけで不動産を売却・処分することはできません。遺言の趣旨から外れた処分を行うと、法的に無効と判断されたり、損害賠償を請求されたりする原因になります。

「売却して分ける遺言」と「特定の人へ取得させる遺言」の違い

民法第1012条(新しいタブで開きます)が定める遺言執行者の権限を踏まえると、遺言書における不動産の指定方法は主に次の類型に分かれます。売却権限の有無や進め方は、遺言の文言と類型によって異なります。

表:遺言の記載類型、典型的な文言の例、遺言執行者の売却権限、主な実行手続き
遺言の記載類型典型的な文言の例遺言執行者の売却権限主な実行手続き
換価分割型(遺産をお金に換えて分けることを命じる遺言の典型例)「不動産を売却換価し、諸費用を控除した残額をAとBに均等に配分する」あり(執行者として売却手続きを行う)買主を探す、遺言執行者として売買契約を結ぶ、権利の取得に対応する登記を行う、代金を受け取って分配する
清算型遺贈(不動産をお金に換えた代金を遺贈する典型例)「不動産を換価処分し、得られた代金をCに遺贈する」あり(遺贈の趣旨に沿って売却手続きを行う)買主を探す、遺言執行者として売買契約を結ぶ、権利の取得に対応する登記を行う、受遺者(財産を受け取る人)へ代金を渡す
特定承継型(相続させる旨の遺言・特定遺贈)「不動産を長男Aに相続させる」「友人Bに遺贈する」原則なし(取得者の権利を尊重する)取得者AまたはBへの所有権移転登記(名義変更)の手続き(売却するかどうかは取得した本人が決める)
相続分の指定のみ「全財産の3分の2を長男Aに、3分の1を二男Bに相続させる」なし(遺産分割協議が必要)相続財産目録を渡す。具体的な財産の分け方は、相続人同士の遺産分割協議に委ねられる

換価分割や清算型遺贈のような類型では、遺言執行者は遺言の指示に従い、職務権限に基づく立場で売買契約を結んで手続きを進めます。これは遺言執行者としての立場で行うものであり、不動産が執行者個人の持ち物になるわけではありません。なお、換価分割と清算型遺贈では登記手続きや税金の負担者といった法的な仕組みが異なるため、実務上は区別して扱われます。

一方で特定承継型の場合、不動産の所有権は被相続人が亡くなったと同時に、その不動産を取得する人へ移ります。ここでの遺言執行者の役割は、取得者への所有権移転登記(名義変更)を行うことであり、不動産を勝手に売ってお金に換えることはできません。文言が曖昧でどの類型にあてはまるか判断が難しい場合は、遺言全体の解釈について司法書士などの専門家へ相談してください。

遺言書の方式・保管と検認の要否:手続き上の利用可能性を確認する

不動産の売却活動に入る前に、手元にある遺言書が実際の手続きに使える状態かどうかを確かめます。遺言書がどのように作られ、どこに保管されていたかによって、家庭裁判所の「検認」が必要かどうかが分かれます。

  • 公正証書遺言

公証人と2人以上の証人が立ち会って作成された遺言です。原本は公証役場に厳重に保管されており、偽造や書き換えの恐れがないため、家庭裁判所の検認は不要です。遺言書の「正本」や「謄本」を使ってそのまま手続きを進められます。もし手元に見当たらない場合でも、公証役場の遺言検索システムを利用して照会が可能です(日本公証人連合会「公正証書遺言の検索」(新しいタブで開きます))。

  • 自筆証書遺言(法務局の自筆証書遺言書保管制度を利用した場合)

亡くなった方が自筆で作成し、生前に法務局(遺言書保管所)へ預けていた遺言です。法務局で外見上の決まり(形式的な要件)が確認されたうえで保管されているため、家庭裁判所の検認は不要です。相続が始まった後は、法務局で「遺言書情報証明書」の発行を受けることで、不動産の登記申請などの手続きに使えます(法務省「自筆証書遺言書保管制度」(新しいタブで開きます))。

  • 自筆証書遺言(自宅や貸金庫で保管されていた場合)

自宅の金庫や引き出し、または銀行の貸金庫などで保管されていた自筆証書遺言は、家庭裁判所で「検認」の手続きを受ける必要があります(裁判所「遺言書の検認」(新しいタブで開きます))。検認とは、遺言書の偽造や書き換えを防ぐために、その時点での遺言書の状態を記録して保存する証拠保全の手続きです。封印がある遺言書を家庭裁判所以外の場所で勝手に開封すると過料(過料という制裁金・民法第1005条)の対象になるため、見つけても開けずにそのまま家庭裁判所へ検認を申し立ててください。「検認済証明書」が付いていない自筆証書遺言では、法務局での登記手続きを進められません。

なお、検認はあくまでその時点の状態を記録・保全する手続きであり、遺言の内容が法的に有効であることや、売却権限があることまで保証するものではありません。法務局で保管されていた「遺言書情報証明書」についても同様で、証明書の交付を受けただけで当然に売却権限まで確定するわけではありません。そのため、「手続きの書類としてそのまま使えるかどうか」と、「内容が有効で売却権限があるかどうか」は分けて考える必要があります。

遺言書で確認すべき5つの文言チェック表

不動産の売却権限や手続きの進め方を確認するときは、民法第1012条・第1021条(新しいタブで開きます)と照らしながら、次の文言を確認します。

表:チェック項目、確認する具体的な文言、判断のポイントと注意点
チェック項目確認する具体的な文言判断のポイントと注意点
1. 対象不動産の特定所在・地番・家屋番号登記事項証明書(登記簿謄本)と照らし合わせ、書かれている不動産が実際の物件と同じものかを確認します。普段使う住所(住居表示)だけで書かれている場合や、過去に土地を分けたりまとめたりした経緯(分筆・合筆)、私道の持ち分、未登記の建物があるかどうかによって、売却の対象範囲を確かめる必要があります。亡くなった後に遺言書の文言を書き直すことはできないため、登記の申請に必要な証明書類をどう揃えるかを司法書士に確認します。
2. 売却・換価の指示「売却して換価し」「売却処分し」など不動産をお金に換える指示がはっきりと読み取れるかを確認します。特定の言葉が使われていなくても、遺言全体の趣旨から権限が認められるケースはあります。しかし、「適宜処分する」「任せる」といった曖昧な表現にとどまっている場合は人によって解釈が分かれるおそれがあるため、専門家に権限の範囲を確認します。
3. 代金の受取人と配分割合「代金をAに○割、Bに○割」「全額をCに」など売却代金を誰に、どのような割合で渡すかがはっきり書かれているかを確認します。「残ったお金を子どもたちで分ける」などと配分の割合が曖昧になっていると、均等に分けるのか法定相続分で分けるのかで争いになる原因になります。
4. 諸費用の控除と精算の指示「売却諸費用を控除した残額」など仲介手数料や建物の解体費、境界を確定するための測量費などの経費を差し引く旨が書かれているかを確認します。遺言書にはっきり書かれていない場合でも、民法第1021条に基づき執行にかかる費用は相続財産の負担とされます。ただし、どの支出が差し引く対象になるかや、実際の契約条件に応じた精算方法はあらかじめ確認が必要です。また、代金を分ける際に差し引ける費用と、税金の計算上で差し引ける譲渡費用とでは基準が異なります。
5. 遺言執行者の権限と指定「遺言執行者に○○を指定する」「本遺言の執行に必要な権限を付与する」など遺言執行者に指定された人の氏名や住所が書かれているかを確認します。もし指定された人が本人より先に亡くなっていたり、就任を辞退したりした場合は、遺言書の中に「予備の指定(代わりに指定する人)」や「指定の委託(次の人を指名してもらうこと)」が書かれていないかを確認します。そうした記載がなければ、家庭裁判所に遺言執行者を選んでもらう申立て(選任申立て)を行います。

登記手続きと売買契約までの実行順序

不動産を売却して買主へ引き渡すには、法務局で登記の手続きを済ませる必要があります。なお、2024年4月1日からは、不動産を取得した相続人に対する相続登記の申請が義務づけられています(法務局「不動産の所有者が亡くなった」(新しいタブで開きます))。

実際に売却を進める場合、登記の実務では次の原則と確認の手順を踏んで進めます。

  • 権利の取得に対応する登記の原則

亡くなった方の不動産を売却する際、地域の裁量や法務局の都合によって途中の登記を勝手に省略できるわけではありません。原則として、遺言に沿って相続や遺贈で権利を取得した名義への登記を行ってから、買主へ所有権を移転します。なお、この手続きの中で遺言執行者個人の名義へ登記することはありません。

  • 遺言の法的な組み立て(法的構成)に応じた中間名義の確認

換価分割なのか清算型遺贈なのかといった遺言の法的な組み立てによって、中間に名義人となる人(相続人全員なのか、特定の受遺者なのかなど)や、登記の原因、申請する人、必要な書類がそれぞれ異なります。

  • 売買契約を結ぶ前の司法書士への相談

法務局で登記が受理されなければ、買主への引き渡しや代金の決済を完了させることができません。売買契約を結ぶ前に、必ず登記を担当する司法書士へ遺言書を見せ、登記原因証明情報(登記の理由を証明する書類)の内容や、具体的な登記の手順を確認します。

  • 必要書類の整理

登記に必要な書類の範囲は、遺言によって誰がどのように権利を引き継ぐかや、相続人をどこまで確定させるかによって変わります。亡くなった方の出生から死亡までの連続した戸籍謄本などが求められる場合もありますが、最初からすべてが揃っていなくても事前の相談は可能です。

価格決定・媒介契約・売却記録の残し方

遺言執行者は、民法第644条・第1020条(新しいタブで開きます)に基づき、相続人や受遺者のために注意を尽くして業務を進める義務を負います。相場よりも不当に安い価格で売却したり、特定の親族だけに有利な条件で売ったりすると、ほかの相続人から「注意義務を果たしていない」として損害賠償を請求されるおそれがあります。

  • 複数の不動産会社から査定をとる

1社だけの査定で安易に売り出し価格を決めず、複数の不動産会社(宅地建物取引業者)から査定書を取り寄せます。査定書は、売却価格を適切に決めたという客観的な証拠として大切に保存しておきます。

  • 媒介契約の締結と活動記録の保存

不動産会社と媒介契約(専任媒介契約、専属専任媒介契約、一般媒介契約)を結び、定期的に販売活動の報告を受け取ります。市場で広く購入希望者を募ったという活動の経緯を残すことが大切です。

  • 取引書類をすべて保管する

売買契約書や重要事項説明書をはじめ、代金の領収書、振込受領証、かかった費用の領収書などをすべて整理して保管します。相続人から「書類を見せてほしい」と請求されたときに、いつでも提示できる状態を整えておきます。

売却代金の管理と諸費用の精算ルール

不動産の売買代金が振り込まれた後の資金管理は、最もトラブルが起きやすい場面です。預かった財産を自分自身の財産ときちんと区別して管理する義務(分別管理義務)があるため、お金の扱いには厳格さが求められます。

  • 専用の管理口座を作る

売却代金が遺言執行者個人の口座にそのまま振り込まれると、万が一口座が凍結されたり、個人的に使い込んでいるのではないかと疑われたりする原因になります。「被相続人○○ 遺言執行者○○」という名義で専用口座を開設するか、執行専用の独立した口座を用意してそこに着金させます。

  • かかった費用の精算と確認

売却代金から差し引いて精算する費用については、遺言書で指定されている内容、民法第1021条(新しいタブで開きます)で定められた法律上の執行費用、そして売買契約書の精算ルールをそれぞれ照らし合わせます。仲介手数料や境界を確定するための測量費、解体費用などについては、その支出が本当に必要だったのか、誰が負担すべきものなのかを確認したうえで精算します。また、固定資産税や都市計画税の日割り清算金は、売買契約の中で受け取る側になるか支払う側になるかが分かれます。さらに税務上の扱い(売却金額=譲渡価額に含めるなど)も単純に費用を引く場合とは異なるため注意が必要です。代金を分ける際に差し引ける費用と、税金の計算上で引ける取得費・譲渡費用は別の基準で判断します。

  • 譲渡所得と税金の事前確認

不動産を売却して利益(譲渡益)が出た場合、譲渡所得税がかかります。ただし、誰が税金を納める義務を負うのかは、遺言の法的な組み立て(換価分割か清算型遺贈かなど)や登記の手順、代金を受け取る相手が誰か(個人か法人かなど)によって異なります。売却代金を受け取った人がそのまま個人の納税義務者になるとは限らず、遺言執行者個人に税金がかかるとも限りません。また、各種の特別控除が使えるかどうかや、そもそも確定申告が不要になるケースも状況によって分かれます。そのため、代金を相続人などに分配してしまう前に、遺言書、登記の資料、売買契約書を税理士に見せ、誰に税金がかかるのか、どんな申告が必要か、納税用の資金をどう確保するか、費用の負担関係はどうなるかを必ず確認してください。

相続人・受遺者への通知と報告の進め方

遺言執行者が独断で、ほかの人に内緒で手続きを進めることは法律上認められていません。民法第1007条・第1011条・第1020条(新しいタブで開きます)では、相続人に対する通知、財産目録の交付、執行後の報告などが定められています。

  • 就任したときの通知義務(民法第1007条第2項)

遺言執行者に就任したときは、遅れることなく遺言の内容を「相続人」へ通知しなければなりません。実務では行き違いや「届いていない」というトラブルを防ぐため、遺言書のコピーを添え、配達証明付き郵便や特定記録郵便など、相手に届いた記録が残る方法で送ることが推奨されています(必ずしも内容証明郵便を使わなければならないと決められているわけではありません)。

  • 財産目録を作って渡す義務(民法第1011条)

遅れることなく相続財産の目録(一覧表)を作成し、「相続人」に渡さなければなりません。不動産の登記事項証明書や固定資産評価証明書をもとにして、正確な財産目録を作成します。

  • 清算の報告と残った代金の引き渡し(民法第1020条による第645条等の準用)

不動産の引き渡しと代金の決済が終わり、かかった費用の精算が済んだ段階で、「遺言執行完了報告書(計算書)」を作成します。売却代金の合計額、差し引いた費用の内訳、それぞれの人へ配分する金額をはっきりと書いて報告します。遺贈を受けた人(受遺者)への精算連絡も、その人が受け取る権利の内容に合わせて適切に行います。なお、預金通帳のコピーや領収書の控えなどを相続人へ提示する際は、説明に必要な範囲にとどめるなど、個人情報の扱いに配慮して整理します。

手続きを一旦停止すべき危険信号

次のような状況が起きた場合、遺言執行者が自分だけで無理に売却を進めると、重大なトラブルや紛争に発展してしまいます。すぐに売却の活動をストップし、専門家や家庭裁判所に相談してください。

  • 売却権限が曖昧:遺言書の文言から、売却する権限やその範囲がはっきりしない場合

「自宅の処分は遺言執行者に一任する」とだけ書かれているようなケースです。これがお金に換えて分ける指示なのか、単に管理を任せる意味なのかが文言から判断できません。法務局で登記の手続きが通らなかったり、買主側の司法書士から取引を断られたりするリスクがあるため、遺言全体の趣旨について専門家の判断を仰ぎます。

  • 遺言の有効性に争いがある:相続人の間で遺言が有効かどうかを争っている場合

一部の相続人が「遺言書を書いた当時、本人には判断能力(遺言能力)がなかった」「誰かが偽造した遺言だ」と主張し、裁判所に遺言無効確認の調停や訴訟を起こしているようなケースです。この状態で売却を強行すると、後から損害賠償を請求される危険があります。

  • 利益相反の可能性がある:遺言執行者の権限を超えた同意が必要で、利害の対立が疑われる場合

法律で認められた職務権限の範囲で行う売却であれば、相続人の中に未成年者や高齢の方がいるからといって、それだけで直ちに売却を止めなければならないわけではありません。しかし、遺言の解釈や売却に伴う合意を交わす中で、相続人本人の同意や契約が求められる場面もあります。もし遺言執行者自身が相続人の一人であり、ほかの未成年者と利害が対立するときは、その未成年者のために「特別代理人」を裁判所に選んでもらう必要があります。また、本人が法律行為を行わなければならない場面で判断能力が不十分な相続人がいる場合は、成年後見制度の利用などを検討しなければなりません。相続人本人が行うべき法律行為があるのかどうかや、利害の対立(利益相反)の心配があるときは、事前に弁護士などの専門家へ相談してください。

専門家へ持ち込む資料一覧と相談時の質問文

不動産を売却する権限や登記の手続きに少しでも不安や疑問があるときは、売買契約を結んでしまう前に司法書士や弁護士へ相談してください。相談をスムーズに進めるための持ち物と、その場でそのまま使える質問文です。

相談時に持参する書類一覧

  • 手元にある遺言書(公正証書遺言の正本や謄本、法務局の遺言書情報証明書、自宅で保管されていた自筆証書遺言の原本と検認済証明書など)
  • 不動産の最新の登記事項証明書(登記簿謄本)
  • 不動産の固定資産評価証明書、または最新の固定資産税の納税通知書
  • 手元にある公図、地積測量図、建物図面
  • 相続人の関係が分かるメモや家系図
  • すでに入手できている戸籍謄本類(※亡くなった方の出生から死亡までの戸籍がすべて揃っていなくても、手元にある資料だけで先に相談できます)

相談時にそのまま使える質問文

  • 「この遺言書の文言や全体の趣旨から見て、遺言執行者が売主となって売買契約を結び、買主への名義変更(所有権移転登記)まで行えますか」
  • 「売却を進めるにあたって、どのような登記の手順(中間に挟む名義人や登記の原因)が必要ですか。その場合の申請手続きや、かかる登録免許税は誰が負担することになりますか」
  • 「売却代金から差し引いて精算できる費用の範囲や、代金を分ける前に税理士へ確認しておくべき税金の注意点(譲渡所得税を誰が納めるかなど)はありますか」

まとめ:売却前に権限表と資金管理を固める

相続した不動産を売却できるかどうかは、「遺言執行者」という肩書だけで決まるのではなく、遺言書に書かれた文言と遺言全体の趣旨によって決まります。お金に換える指示があるか、対象の不動産が特定されているか、売却代金を受け取る人が指定されているかを一つずつ確認することが大切な第一歩です。

さらに遺言執行者には、相続人への就任通知や財産目録の交付、売却代金を個人の財産と分けて管理する義務なども定められています。また、売却によって生じた利益(譲渡所得)に誰が税金を納めるかや申告の義務は、遺言の法的な組み立てによって異なるため、代金を分配してしまう前に税理士へ確認することが欠かせません。自分の判断だけで進めずに客観的な証拠を残し、売買契約を結ぶ前に司法書士などの専門家へ相談して、安全に手続きを進めていきましょう。

参照資料

法務省「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律(相続法の改正)」参照日 2026年9月4日法務省「自筆証書遺言書保管制度」参照日 2026年9月4日法務局「不動産の所有者が亡くなった」参照日 2026年9月4日e-Gov法令検索「民法」参照日 2026年9月6日裁判所「遺言書の検認」参照日 2026年9月6日日本公証人連合会「公正証書遺言の検索」参照日 2026年9月6日