# 相続した家は長期譲渡?短期譲渡?親の取得日と1月1日で判定する
相続した実家や土地を売却するとき、納める税金の額を大きく左右するのが「長期譲渡所得」と「短期譲渡所得」の区分です。
所有期間を数え始める日(起算日)は、親が亡くなった日(相続開始日)や名義変更をした日(登記日)ではありません。亡くなった親(被相続人)がその不動産を買い入れたり新築したりした時期をそのまま引き継ぎます。
さらに、所有期間が5年を超えるかどうかの判定は、売却した日そのものではなく「売却した年の1月1日時点」で測ります。この2つの基準を正しく組み合わせることで、相続した不動産がどちらに当てはまるかを正確に整理できます。
長期譲渡所得と短期譲渡所得の区分と税率の違い
土地や建物を売却して生じた利益(譲渡所得)にかかる税金は、他の所得と分けて計算する分離課税方式をとります。所有期間によって次の2つに区分されます。
- 長期譲渡所得:売却した年の1月1日において、所有期間が5年を超える土地や建物を売却したときの所得
- 短期譲渡所得:売却した年の1月1日において、所有期間が5年以下の土地や建物を売却したときの所得
基準の詳細は、国税庁「長期譲渡所得と短期譲渡所得の区分」(新しいタブで開きます)および国税庁 No.3270「相続や贈与によって取得した土地・建物の取得費と取得の時期」(新しいタブで開きます)で示されています。
それぞれの適用税率は以下のとおりです(所得税には復興特別所得税として基準所得税額の2.1パーセントが加算されています)。
- 長期譲渡所得の税率:合計20.315パーセント(所得税15パーセント、復興特別所得税0.315パーセント、住民税5パーセント)
- 短期譲渡所得の税率:合計39.63パーセント(所得税30パーセント、復興特別所得税0.63パーセント、住民税9パーセント)
税率の根拠は、国税庁 パンフレット「土地や建物を売ったとき」(新しいタブで開きます)にまとめられています。
短期譲渡所得の税率は、長期譲渡所得の約2倍です。ただし、税額は売却した価格そのものにかかるわけではありません。売却代金から取得費や譲渡費用、各種の特別控除を差し引いた「課税譲渡所得金額」に税率を掛けて算出します。利用できる特例や費用の金額によって納める額は変わるため、税率の違いだけで税額の全体を判断してしまわないよう注意が必要です。
「売却年の1月1日」で数える仕組みを日付例で確認する
所有期間の判定で最も見落としやすいのは、「売却した日時点で過去へ丸5年をさかのぼるわけではない」という点です。税法上、所有期間は常に「売却した年の1月1日時点」で5年を超えているかどうかを判定します。
具体的な日付の組み合わせで確認してみましょう。
ケース1:親の取得から売却年1月1日までで5年を超える場合(長期譲渡)
- 被相続人の取得日:2018年5月10日
- 相続が発生した日:2024年2月15日
- 不動産の引渡日(売却日):2024年10月20日
- 判定基準日:2024年1月1日
- 判定基準日時点の所有期間:2018年5月10日から2024年1月1日まで(5年7か月)
- 結果:5年を超えているため「長期譲渡所得」
親が取得してから売却年の1月1日までの期間がすでに5年を超えているため、相続から売却までが数か月しか経っていなくても長期譲渡所得として扱われます。
ケース2:売却日には5年を過ぎているが1月1日時点では超えていない場合(短期譲渡)
- 被相続人の取得日:2019年6月1日
- 相続が発生した日:2024年1月20日
- 不動産の引渡日(売却日):2024年8月15日
- 判定基準日:2024年1月1日
- 判定基準日時点の所有期間:2019年6月1日から2024年1月1日まで(4年7か月)
- 結果:2024年1月1日時点では5年以下のため「短期譲渡所得」
売却日である2024年8月15日の時点では、親の取得から5年2か月が経過しています。しかし、判定基準日である「2024年1月1日」の段階では4年7か月しか経っていません。そのため、2024年中に行った売却は短期譲渡所得に区分されます。翌年の2025年1月1日を迎えてから売却すれば、判定基準日の時点での所有期間が5年7か月となり、長期譲渡所得の条件を満たすことになります。
ケース3:被相続人の取得自体が直近の場合(短期譲渡)
- 被相続人の取得日:2021年4月1日
- 相続が発生した日:2024年3月10日
- 不動産の引渡日(売却日):2024年11月30日
- 判定基準日:2024年1月1日
- 判定基準日時点の所有期間:2021年4月1日から2024年1月1日まで(2年9か月)
- 結果:5年以下のため「短期譲渡所得」
親が購入してからまだ日が浅い物件は、引き継いだ取得時期そのものが新しいため、基準日時点でも5年以下となり短期譲渡所得に該当します。
混同しやすい4つの日付とそれぞれの役割
不動産の相続から売却までの手続きでは、いくつもの日付が登場します。それぞれ税務上の意味が異なるため、混同しないように役割を整理しておく必要があります。
- 被相続人の取得日:亡くなった親(被相続人)が不動産を購入した日、または建物を新築した日です。所有期間を計算する起点(起算日)になります。
- 相続開始の日:被相続人が亡くなった日です。財産が相続人へ移った日ですが、所有期間の起算日にはなりません。
- 相続登記の日:法務局で不動産の名義を相続人へ変更した日です。登記上の手続きを行った日であり、税務上の所有期間の計算には影響しません。
- 資産の譲渡日(引渡日):原則として、買い手へ物件を引き渡した日(実際の引渡日)を指します。税務上は、この引渡日の属する年の1月1日が所有期間の判定基準日になります。代金を支払って決済した日と引き渡した日が同じ日にならない取引もあるため、それぞれの日付を区別して確認することが大切です。なお、所得税法上は売買契約の効力が発生した日(売買契約を結んだ日など)を譲渡の時期として申告することも認められています(国税庁「所得税基本通達36-12」(新しいタブで開きます))。年末に契約を結んで翌年の初めに引き渡すような年をまたぐ取引では、どちらの日付を採用するかで判定基準となる1月1日が変わります。そのため、契約書に定められた効力発生時期や実際の引渡しの事実に即して税理士や税務署へ確認し、都合のよい選択を勝手にしてしまわないよう注意してください。
土地と建物で取得時期が異なる場合の確認手順
実家の不動産を売却する際、「土地と建物は常に同じ時期に手に入れたもの」と思い込んでしまうケースが少なくありません。しかし、土地と建物は別個の不動産であり、次のように取得した時期がずれている例が多く見られます。
- 親が土地を先に購入し、数年後に建物を新築した
- 祖父の代から所有していた土地の上に、親が建て替えを行った
- 親が中古の一戸建てを購入した後、別の時期に増築工事を行った(増築した部分の取得時期の扱いについては、税務上の個別確認が必要です)
土地と建物の取得時期が異なる場合、所有期間の判定は土地と建物のそれぞれで個別に行います。単に大規模な修繕やリフォームを行っただけで建物全体の取得時期がリセットされるわけではありませんが、新築や建て替え、増築などによって取得時期が分かれている場合は注意が必要です。
例えば、土地は30年前に取得していて売却年の1月1日時点で5年を超えていても(長期譲渡)、建物は4年前に新築したため売却年の1月1日時点では5年以下(短期譲渡)という組み合わせが起こり得ます。この場合、売却代金や取得費を土地と建物の割合に合わせて適切に分け(按分し)、土地部分は長期譲渡所得、建物部分は短期譲渡所得として別々に計算しなければなりません。
二次相続・生前贈与・買換え等がある場合の履歴の追い方
所有期間の起算日は、直前の被相続人の取引だけでなく、その前の経緯までさかのぼって調べる必要があります。
- 二次相続の場合:父親が亡くなって実家を相続したものの、その実家がもともと「祖父から父親が相続した物件」であった場合、取得時期は父親が相続した日ではなく、最初の祖父が購入または新築した時期までさかのぼって引き継ぎます。
- 生前贈与で取得していた場合:親から生前贈与を受けた不動産を売却する場合も、相続と同様に贈与した側(親)が取得した時期をそのまま贈与を受けた側(子)が引き継ぎます。根拠は、国税庁「相続や贈与によって取得した資産の取得の時期」(新しいタブで開きます)に定められています。
- 過去に買換えや交換等の特例を受けていた場合:被相続人が生前に「特定の居住用財産の買換えの特例」や「事業用資産の買換えの特例」などを利用して現在の家を取得していた場合、税務上の取得費は前の家から引き継がれます。しかし、長期・短期を分ける所有期間の取得時期まで当然に前の家から引き継ぐわけではありません(国税庁 No.3273「買換え等により取得した資産の取得費と取得の時期」(新しいタブで開きます))。取得時期の引き継ぎが認められるのは、固定資産の交換や収用に伴う代替資産の取得など、法律で明記された特定の制度に限られます。被相続人がどのような特例を利用して物件を取得したかによって取り扱いが異なるため、過去の確定申告書の控えや譲渡所得の内訳書を確認し、専門家に相談して判定します。
取得時期を確かめる資料の探索順
被相続人がいつ不動産を取得したかを特定するには、客観的な証拠資料が必要です。自宅にある書類の探索から公的な証明書の取得まで、次の順序で探すと効率的です。
- 不動産売買契約書・売買代金領収書:親が購入した当時の原本です。契約日や引渡日、購入金額が明確に記載されている最も有力な書類です。
- 建築請負契約書・工事完了引渡証明書:親が建物を新築した場合の書類です。建物の完成日や引渡日を特定できます。
- 登記識別情報通知・登記済証(権利証):不動産を取得した際に法務局から交付された書類です。当時の登記申請日や受付番号を確認できます。
- 登記事項証明書(登記簿謄本):自宅に過去の契約書類が見当たらない場合でも、全国の法務局の窓口やオンライン(登記・供託オンライン申請システム)で取得できます。確認する欄は資産によって異なります。土地や中古建物の売買履歴は「権利部(甲区)」の受付日や原因日付を確認し、建物の新築時期は「表題部」の原因日付(新築日)を確認します。なお、登記記録の日付は取得時期を推測する有力な手掛かりになりますが、登記申請の受付日や原因日付と実際の引渡日との間にはズレが生じる場合もあります。そのため、契約書や引渡しの資料、必要に応じて過去の閉鎖記録(閉鎖登記簿)などと照合して確認します。
- 固定資産税・都市計画税の課税明細書や名寄帳:毎年春頃に市区町村から送付される納税通知書に同封された「課税明細書」では、建物の建築年次や床面積、土地の地目などが確認できます。なお、同一市区町村内の所有不動産一覧が記載された「名寄帳(課税台帳)」は自動で送付されません。必要に応じて自治体の税務窓口へ交付請求を行って取得します。
「取得時期が不明」と「取得費が不明」を切り分けて考える
相続した古い不動産を売却する際には、「当時の売買契約書が見つからない」という事態が頻繁に起こります。このようなときは、「取得時期(いつ買ったか)」と「取得費(いくらで買ったか)」を明確に区別して整理することが大切です。
- 取得時期:売買契約書が手元になくても、登記事項証明書の甲区(売買日など)や表題部(新築日など)の記載、閉鎖記録などを確認することで、客観的に取得時期を裏付けることができます。これによって売却年の1月1日時点で5年を超えていることが確認できれば、長期譲渡所得の税率が適用されます。
- 取得費:当時の領収書や通帳の記録が見当たらない場合でも、すぐに概算取得費を使うと決まるわけではありません。当時の住宅ローンの契約書や返済予定表、分譲時のパンフレットなど、客観的に購入価額を裏付ける資料がないかを探します。それらの資料がなく、実際の購入代金がどうしても分からない場合に、税務上、売却価格の5パーセント相当額を取得費とする「概算取得費」を適用して計算する選択肢があります(国税庁 No.3258「取得費が分からないとき」(新しいタブで開きます))。なお、建物の取得費は購入価額から減価償却費の相当額を差し引いて計算するため、具体的な金額の算出には税理士や税務署への確認が必要です。
「当時の購入金額がわからないから短期譲渡になって税金が高くなる」と思い込んでしまうのは誤りです。金額の証明資料がなく概算取得費を使うことになっても、取得時期が5年を超えていることを登記記録などで示せれば、長期譲渡所得として申告できます。
売却年をずらす判断は税率以外の条件も含めて総合判断する
所有期間を数えた結果、「あと数か月待って翌年の1月1日をまたげば長期譲渡所得に切り替わる」という状況になることがあります。
税率が短期の約39パーセントから長期の約20パーセントへ下がることは大きな魅力ですが、税率の差だけを理由に売却時期を一律に遅らせるのは避けるべきです。次の各要因を比較したうえで、総合的に判断する必要があります。
- 売却価格の変動リスク:買い手の需要や市場相場は常に変動しています。翌年まで待った結果、買い手を逃してしまったり成約価格が下がってしまったりすると、税率の引き下げ分以上の損失が生じる恐れがあります。
- 保有コストの発生:年をまたぐことで、翌年度分の固定資産税や都市計画税が新たに課税されます。また、空き家の状態が延びるほど、火災保険料や庭木の伐採、建物の維持管理費用が追加でかかります。
- 建物の劣化と管理リスク:人が住んでいない建物は傷みが早く進みます。雨漏りや設備の破損が発生すると、修繕費用の負担や買い手からの値引き要求につながります。
- 期限のある特例控除への影響:
- 相続財産を譲渡した場合の取得費の加算の特例(国税庁 No.3267「相続財産を譲渡した場合の取得費の加算の特例」(新しいタブで開きます)):対象となる売却期間は、相続開始の日の翌日以後、相続税の申告期限(相続開始を知った日の翌日から10か月)の翌日以後3年を経過する日までです。相続税の申告期限前の売却であっても対象期間に含まれます。
- 被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例(国税庁 No.3306「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」(新しいタブで開きます)):相続日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却する必要があります。さらに、現行制度全体の適用期限(2027年12月31日まで)が定められているほか、相続人の数が3人以上である場合は特別控除額の上限が3,000万円から2,000万円へ引き下げられるなど、適用の条件が細かく規定されています。
- 売却を翌年へ遅らせた結果、これらの特例の適用期限を過ぎてしまうと、税負担が逆に重くなる危険があります。期限内であっても要件を満たさなければ適用できないため、特例を使えるかどうかを含めた事前の試算が欠かせません。
事前判定シートと専門家への相談準備
売却活動や税務相談へ進む前に、手元の資料から以下の項目を書き出して現状を整理しておきましょう。
所有期間の簡易判定シート
判定の基準は、国税庁「長期譲渡所得と短期譲渡所得の区分」(新しいタブで開きます)(確認日: 2026-09-19)と照合してください。
- 土地の取得時期(権利部甲区の原因日付や契約書など):
- 建物の新築または取得時期(表題部の新築日付、甲区の原因日付、請負契約書など):
- 今回の売却予定年:
- 譲渡の時期の基準(実際の引渡日または売買契約締結日):
- 売却予定年の1月1日時点での経過年数(土地):
- 売却予定年の1月1日時点での経過年数(建物):
- 想定される区分(長期譲渡所得/短期譲渡所得):
- 取得時期を裏付ける確認資料(登記事項証明書/売買契約書/請負契約書など):
税務署や税理士へ持参する資料
- 被相続人名義の登記事項証明書(土地は甲区、建物は表題部・甲区を確認できる全部事項証明書)
- 当時の売買契約書、建築請負契約書、工事引渡証明書、領収書(手元にある場合)
- 不動産会社から提示された査定書、または売買契約書案(契約日・引渡日・代金按分の確認用)
- 直近の固定資産税・都市計画税の納税通知書(課税明細書)、必要に応じて自治体窓口で取得した名寄帳
- 相続税の申告書控え(相続税を納付している場合)
相談窓口で確認する質問項目
相談前に、国税庁 No.3258「取得費が分からないとき」(新しいタブで開きます)と国税庁 No.3306「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」(新しいタブで開きます)(いずれも確認日: 2026-09-19)も確認しておくと、質問を整理しやすくなります。
- 「登記事項証明書の甲区や表題部に記載された日付をもとに、長期譲渡所得として申告できるか」
- 「土地と建物で取得時期や取得費が異なる場合、売却代金や譲渡費用の按分計算をどのように行うか」
- 「購入当時の契約書が見当たらない場合、どのような客観資料で実額の取得費を補強できるか(概算取得費を適用すべきか)」
- 「同一の家屋や敷地等について、空き家の3,000万円特別控除と取得費加算の特例は重ねて適用できないが、それぞれの要件や控除効果を比較した場合、どちらを選択するほうが有利か」
まとめ:取得履歴と1月1日基準で整理する
相続した家の所有期間判定は、「親の取得時期を引き継ぐ」ことと「売却年の1月1日時点で5年を超えるかを数える」ことの2点が基本です。
法務局で登記事項証明書を取得して手元の契約書類等と照合し、土地と建物の履歴を個別に整理することが、適正な申告と手戻りのない売却計画への第一歩となります。
