当サイトはアフィリエイト広告を利用しています

相続人が認知症でも家を売れる?意思能力・成年後見・裁判所許可の確認

相続人・共有者に認知症があっても、診断名だけで契約できないとは決まりません。一方、家族というだけで本人の署名や実印を代行することもできません。売却や遺産分割を理解できる意思能力、代理権、後見等の類型、利益相反、居住用不動産の裁判所許可を順に確認します。

まだしないこと

本人の理解や権限・許可が未確認のまま、家族が署名・押印して契約を進めない

まずすべきこと
  1. 本人を相続人候補・共有者・単独所有者に分ける
  2. 委任状や後見・保佐・補助の資料の有無を確認する
  3. 利益相反と居住用不動産の可能性を相談先へ伝える

このページで決めること本人の意思能力、代理権、利益相反、裁判所許可の未確認点を分け、安全に再開できる条件を決められます。

認知症の相続人の権利を守りながら家の売却手続を確認する家族
公開日 2026年8月31日最終更新日 2026年9月14日法令・制度確認日 2026年8月31日執筆・編集 住まいのよりみち編集部読了目安 15

家族や親族であっても、本人の代理権を当たり前に持っているわけではありません。本人からの正当な委任や、意思表示のサポートを確認できないまま、家族が代わりに書類を書いたり(代筆)印鑑を押したり(押印)すると「無権代理(むけんだいり)」になります。その場合、不動産の売買契約や遺産分割協議は無効になったり、取り消されたりする対象になります。

無権代理によるトラブルを防ぎ、安全に手続きを進めるための全体像と、手続きをいったん止める判断基準は、下の表にある5段階で整理できます。

表:確認段階、主な確認事項、判断の分岐と停止条件
確認段階主な確認事項判断の分岐と停止条件
1. 意思能力本人が取引内容を理解・選択・説明できるか診断名だけで決めない。理解が不十分なら単独契約を止め、後見申立てを検討
2. 既存の代理権有効な委任状や任意後見契約があるか親族でも当然の代理権はない。任意後見は監督人選任前なら効力未発生
3. 権限の対象売却行為が代理権・同意権の範囲に含まれるか保佐・補助は代理権付与の審判が必要。範囲外なら売却不可
4. 利益相反本人と代理人(後見人)の利害が対立しないか共同相続人同士なら特別代理人(または後見監督人)の関与が必須
5. 居住用許可本人の自宅(過去の生活拠点・施設入所前の家を含む)か居住用不動産は家庭裁判所の処分許可が必須。無許可の売買契約は無効

本人の確かな意思や代理権の裏付けがないまま売却を進めると、法務局で名義変更(所有権の移転登記)を却下されたり、買い手から損害賠償を請求されたりする深刻なトラブルに発展します。本人の財産を守り、法的に安全な取引を完了させるための具体的な確認手順を、順番に見ていきましょう。

まず登記名義を確認し、遺産分割が必要か切り分ける

最初に行う大切な実務は、売りたい不動産が法的に誰の名義になっているかを確かめることです。現在の名義が誰になっているかによって、売却に必要な法的手続きが大きく分かれます。

その不動産を担当する法務局で「登記事項証明書(登記簿謄本)」を取得し、甲区(所有権に関する事項)に書かれている所有者を確認します。登記事項証明書の請求方法は、法務省「登記事項証明書等の請求にはオンラインでの手続が便利です」(新しいタブで開きます)でも確認できます。登記名義の状況は、主に次の3つに分かれます。

  • 亡くなった方(被相続人)の名義のまま残っている場合:遺言書などで誰が受け継ぐかが決まっている場合を除き、売却する前に相続人全員で遺産分割協議を行い、名義を変更する「相続登記」を完了させる必要があります。
  • すでに相続人全員の共有名義になっている場合:家を売るには、共有している全員の合意と、全員が売買契約に関わることが必要です。※相続人間で意見が分かれている場合は when-heirs-cannot-agree-on-property、共有不動産全体の売却手順は sell-jointly-owned-inherited-house を参照してください。
  • 認知症の疑いがある本人単独の名義になっている場合:本人の所有財産を処分する手続きとなります。本人の意思能力があるか、または後見人を立てて代理で売却するかを検討します。

不動産が亡くなった親の名義のままであれば、相続人全員の合意が欠かせません。この遺産分割の話し合いで、判断能力が十分でない相続人がいるときは、後見制度などの法的な手続きを経なければ話し合いを有効に成立させられません。

認知症の診断名だけで決めない——意思能力を個別に確認する

「医師から認知症と診断されたから、もう一切の契約ができない」とは限りません。法律の世界で重視されるのは、契約を結ぶまさにその瞬間における「意思能力」があるかどうかです。

e-Gov法令検索「民法」(新しいタブで開きます)第3条の2では、「法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする」と定められています。

不動産売買における意思能力とは、「自分の不動産を、誰に、いくらで売り、代金を受け取る代わりに家の所有権を手放す」という取引の意味と結果を正しく理解できる能力を指します。日々の買い物ができる判断力があったとしても、数千万円規模の不動産売買契約を正しく理解できる能力とは求められる水準が異なります。

一方で、初期の認知症や軽度認知障害(MCI)の方であれば、日によって判断力がはっきりしている時間帯があり、売却の理由や条件を正しく理解して納得できる場合があります。意思能力があるかどうかは、行おうとする法律行為の内容に応じて個別に判断されます。現場の実務では、主治医の見解や診断内容と、契約や登記に関わる司法書士や弁護士が面談したときの様子を照らし合わせて、慎重に判断します。

  • 主治医への相談:単なる物忘れの程度だけでなく、財産の管理や今回の不動産売買について判断できる能力があるかどうか、主治医の見解を確認して診断書の作成を依頼します。
  • 専門職による面談:売買契約や登記申請を担当する司法書士や弁護士が本人と直接会い、売却したい理由、希望価格、代金の受け取り方法、これからの住まいなどを、本人が自分の言葉で理解して説明できるかを確かめます。

面談や診断の結果、「今回の売却について本人の意思能力に問題がない」と確認できれば、成年後見制度を使わずに本人の署名や押印で売買契約を進められる可能性があります。一方、受け答えが曖昧で取引の意味や結果を把握できていないと判断された場合は、本人を守るためにいったん契約手続きを控え、家庭裁判所の手続きへと進めます。

委任状の効力と任意後見契約の有無を調べる

本人の判断能力が落ちている場面では、「本人の委任状があれば家族が代理で売却できるのではないか」と考えがちです。しかし、これには法律上の厳しい制限があります。

意思能力がない状態の本人が署名や押印をした委任状は、法律上無効になります。また、過去に本人が作成した委任状がある場合でも、その書類を作ったときに有効な代理権が成り立っていたかの確認が必要です。売却行為が委任された内容に含まれているか、意思能力を失ったことで代理権が消えてしまっていないかも確かめなければなりません。有効な代理権を確認できない限り、たとえ家族であっても売却手続きを代わりに進めることはできません。

一方で、本人が健康だった時期に、将来に備えて公正証書で「任意後見契約」を結んでいた場合は、手続きの進め方が大きく変わります。

  • 任意後見契約の確認方法:本人の手元にある公正証書の控えを確認するほか、契約を作成した公証役場へ問い合わせたり、法務局で後見登記事項証明書の交付を請求して登記の有無を調べたりします(法務局で証明書を請求できる人の条件や窓口などの具体的な要件は、法務局や専門家へご確認ください)。
  • 任意後見の効力発生手順:任意後見契約を結んでいても、契約書があるだけですぐに代理権を使えるわけではありません。本人の判断能力が低下した段階で、家庭裁判所へ「任意後見監督人選任」の申立てを行い、監督人が選任されて初めて任意後見契約の効力が発生します(裁判所「家事事件Q&A」(新しいタブで開きます))。
  • 代理権の範囲の確認:任意後見契約の代理権目録を確認し、不動産の売却に関する代理権が含まれているかを確かめた上で、売却手続きを進めます。

任意後見契約を結んでいない場合は、家庭裁判所に後見人などを選んでもらう「法定後見制度」を利用します。

遺産分割協議が必要な場合の利益相反と特別代理人

売却対象の不動産が亡くなった被相続人の名義であり、遺言等で承継が定まっていない場合は、認知症の相続人を含めて遺産分割協議を行います。このとき後見人と本人がともに共同相続人となる場合は「利益相反(りえきそうはん)」が生じるため、後見人は協議を代理できず、特別代理人の選任または後見監督人の関与が必須となります。

遺産分割は共同相続人全員が参加して合意しなければ無効となります(京都家庭裁判所「遺産分割調停」(新しいタブで開きます))。判断能力の低下した相続人がいる場合、本人のために成年後見人等を選任して協議に参加させなければなりません。

利害の対立が生じる典型例が、父が亡くなり、相続人が長男と母(認知症)の2人であるケースです。長男が母の成年後見人に選任された場合、長男は「共同相続人の一人」であると同時に「母の代理人」という2つの立場を兼ねることになります。

長男の取得分を多くすれば母の取得分が減り、母の取得分を多くすれば長男の取り分が減るため、両者の利害は真っ向から対立します。このような行為は法律上「利益相反行為」に該当します(民法第860条・第826条)。

利益相反が生じる場合、後見人は本人を代理して遺産分割協議を行えません。ただし、成年後見監督人が選任されている場合は、監督人が本人を代表するため特別代理人の選任は不要です。監督人がいない場合には、次の対応を進めます。

  • 特別代理人の選任申立て:家庭裁判所に対して、本人の代わりに遺産分割協議を行う「特別代理人」の選任を申し立てます。なお、保佐や補助の場合には、認められている代理権の範囲と利益相反の有無を確認し、必要に応じて臨時保佐人や臨時補助人の選任を申し立てます。
  • 候補者の選定:利害が対立しない他の親族や、弁護士・司法書士などの専門職を候補者として立てます。
  • 法定相続分の確保:特別代理人などは本人の財産を守る役目を負っています。そのため、原則として法律で定められた取り分(法定相続分。上記の例では母親の取り分である2分の1)を下回るような、一方的に長男へ財産を集める協議内容には同意しません。

遺産分割協議が無事にまとまったら、不動産を売却しやすい単独名義にするか、全員が合意した共有名義にする形で相続登記(名義変更)を完了させ、その後に実際の売却活動へ移ります。

法定後見制度の3類型(後見・保佐・補助)の判断基準

本人に十分な判断能力がなく、事前の任意後見契約もない場合は、家庭裁判所へ法定後見の開始を申し立てます。法定後見制度には、本人の判断能力の程度に応じて「後見」「保佐」「補助」の3類型が用意されています。物事の損得や結果を正しく理解する力(事理を弁識する能力)が著しく不十分な方や不十分な方についても、本人の自己決定を尊重しながら支援する枠組みが整えられています(裁判所「成年後見制度に関する審判」(新しいタブで開きます))。

各類型の特徴と、不動産売却における権限の違いは下の表の通りです。

表:類型、本人の判断能力の状態、不動産売却における代理権・同意権、本人の申立同意
類型本人の判断能力の状態不動産売却における代理権・同意権本人の申立同意
成年後見精神上の障害により事理を弁識する能力を「欠く常況」にある成年後見人が法律上当然に代理権を持つ(居住用不動産は別途裁判所許可が必要)不要
保佐精神上の障害により事理を弁識する能力が「著しく不十分」である保佐人に不動産売買の同意権・取消権がある。売却を代理するには別途「代理権付与の審判」が必要代理権付与には本人の同意が必要
補助精神上の障害により事理を弁識する能力が「不十分」である申立てにより特定の行為に同意権や代理権を付与。売却には「不動産売却の代理権(または同意権)付与の審判」が必要補助開始および代理権付与に本人の同意が必須

申立ての手順と必要書類は次の通りです。

  • 申立先:本人の住所地(実際に暮らしている居所を含みます)を管轄する家庭裁判所
  • 申立人:本人、配偶者、四親等内の親族など
  • 主な必要書類:申立書、本人の戸籍謄本、住民票、成年後見用の診断書(医師が作成する統一書式)、財産目録、収支状況報告書、登記されていないことの証明書(法務局発行)
  • 費用:申立手数料(収入印紙)、連絡用郵便切手、登記手数料など。家庭裁判所が判断能力の判定のために精神鑑定を必要と判断した場合は、裁判所の指示に基づき鑑定料(予納金)を納める必要があります(鑑定の要否や金額は事案ごとに裁判所が判断します)。

どの類型に当てはまるかは、主治医が記入した専用書式の診断書や鑑定結果などを参考に、家庭裁判所が審判によって最終判定を下します。なお、後見人などを選任する「後見開始の手続き」と、後述する「居住用不動産の処分許可の手続き」は、別の独立した手続きです。

後見制度を利用する前に知っておくべき注意点

成年後見制度は不動産売却を進めるための有効な手段ですが、「本人の権利と財産を守る」という制度本来の目的を理解しておく必要があります。申し立てた後に後悔しないために、次の3つの事実を把握しておきましょう。

1. 家族が成年後見人に選ばれるとは限らない

申立書には後見人候補者を記載する欄があり、親族の名前を書くことができます。しかし、実際に誰を後見人に選ぶかを決める権限は家庭裁判所にあります。

裁判所は、本人の財産額、親族間の利害対立の有無、不動産売却や遺産分割といった法的手続きの難易度などを総合的に考慮して判断します。管理すべき資産が高額な場合や不動産の売却を控えている事案では、弁護士や司法書士などの専門職が後見人に選ばれる傾向があります。また、親族が後見人に選ばれた場合でも、専門職の後見監督人があわせて選任されるケースは少なくありません。

2. 家を売却しても後見手続は終了しない

成年後見制度は、「家の売却」や「遺産分割」という一時的な目的を達成するための制度ではありません。この制度は、本人の権利と財産を生涯にわたって守り続ける仕組みです。

そのため、不動産の売却代金が入金されて目的の手続きが完了しても、後見手続きそのものは終了しません。本人の判断能力が回復するか本人が亡くなるまで支援は継続し、親族の都合で自由に取り下げることはできません。後見人の職務に関しては、正当な事由がある場合に限り家庭裁判所の許可を得て辞任できますが、「売却が終わった」という理由だけで任務を辞任・終了できるわけではありません。

3. 継続的な報酬と裁判所への定期報告が発生する

弁護士や司法書士などの専門職後見人(または後見監督人)が選任された場合、家庭裁判所の審判で決定された報酬が、本人の財産の中から定期的に支払われます。報酬額は、管理する財産の規模や職務の難しさなどに応じて裁判所が決定します。

また、後見人は本人の財産目録や日々の収支状況を記録し、家庭裁判所の指示に従って、事務や財産の状況を定期的に報告します。報告の時期や提出書類は裁判所ごとに案内があるため、選任後に届く指示と裁判所「成年後見制度に関する審判」(新しいタブで開きます)を確認してください。

本人の「居住用不動産」を売却する際の家庭裁判所許可

成年後見人が選任されても、後見人が本人の財産を何でも自由に処分できるわけではありません。売却対象が本人の「居住用不動産」である場合は、法律上極めて厳格な要件が課されています。後見開始の申立てとは別に、家庭裁判所に対して「居住用不動産の処分許可」を申し立て、許可審判を得なければなりません。

e-Gov法令検索「民法」(新しいタブで開きます)第859条の3では、「成年後見人は、成年被後見人に代わって、その居住の用に供する建物又はその敷地について、売却、賃貸、賃貸借の解除又は抵当権の設定その他これらに準ずる処分をするには、家庭裁判所の許可を得なければならない」と定められています。

保佐人や補助人が代理権を得て売却する場合も同様です。家庭裁判所の許可を得ずに行った売買契約は無効となり、法務局での所有権移転登記も受理されません。

「居住用不動産」に該当する範囲

ここでいう居住用不動産とは、現在本人が実際に生活している自宅だけにとどまりません。

  • 過去に生活しており、現在は病院に入院中や介護老人保健施設などに入所している家
  • 本人の心身の状態が回復した際に、将来再び戻って生活する可能性がある家
  • 建物を解体して更地にした敷地(土地)

施設に入所したことで現在は空き家になっていても、入所前に本人が住んでいた家は居住用不動産に含まれます。「将来戻る見込みはないだろう」と自己判断せず、解体後の敷地を含めて家庭裁判所へ許可の要否を確認してください。

家庭裁判所が売却を許可する判断基準

後見人が選任されて許可を申し立てても、自動的に売却許可が出るわけではありません(裁判所「成年被後見人等の居住用不動産処分許可」(新しいタブで開きます))。裁判所は本人の保護を最優先とし、主に次の項目を厳格に審査します。

  • 売却の必要性:本人の今後の生活費、施設入所費、医療費などを賄うための預貯金が不足しており、自宅を売却して現金化する合理的な理由があるか。
  • 売却条件の妥当性:売却価格が近隣の不動産相場などに照らして適正であるか(裁判所の指示に応じ、不動産の査定書など客観的な資料を提出して適正価格であることを確認します)。
  • 契約条項の安全性:本人に過大な修繕義務や不当に重い契約不適合責任を負わせるような、不利な特約が含まれていないか。
  • 本人の意向と生活環境:本人の判断能力の程度に応じて意向を確認し、売却によって本人の生活環境が著しく損なわれないか。

実務の流れとしては、まず買い手との間で「家庭裁判所の売却許可が得られることを停止条件とする」特約付きの売買契約書(案)を作成します。その契約書案を添えて家庭裁判所へ処分許可を申し立て、許可審判書が発行された後に残金決済と登記移転を実行します。

売却代金の管理と使途のルール

不動産を売却できた後、その売却代金の管理には厳格な法令遵守が求められます。

売却代金は本人の財産であるため、全額を本人名義の口座で管理し、後見人や家族個人の口座と混ぜてはいけません。預貯金の私的な流用は厳格に禁止されています。

ただし、家族に関わる支出のすべてが一律に禁じられるわけではありません。本人負担分の生活費や医療・介護費のほか、法律上の扶養義務に基づく費用や正当な立替金の精算などは、具体的な事実関係を確認した上で適切に処理されます。

  • 原則として認められる支出:本人の介護施設費用、医療費、生活用品の購入費、入院費、後見人報酬、本人が所有する他の財産の維持管理費用、法律上の義務に基づく扶養費用、適正な立替精算など。
  • 認められない使途:後見人や他の家族の借金返済、子や孫への住宅資金贈与や教育費援助、根拠のない親族生活費の補填など。

親族が無断で本人の財産を引き出して私的に使用した場合、後見人の解任だけでなく、業務上横領罪などの刑事責任を問われるおそれがあります。使い道の判断に迷う支出は独断で処理せず、家庭裁判所や専門職へ事前に相談してください。後見人はすべての入出金履歴と領収書を保管し、定期報告時に裁判所へ提示します。

相談前に準備する資料と専門家への確認事項

認知症の相続人や所有者が関わる不動産売却では、不動産会社だけに相談しても手続きは進みません。登記を担う司法書士、法的な調整を担う弁護士、医学的な判断を行う主治医との連携が欠かせません。

相談を円滑に進めるため、事前に手元へそろえておく資料と、面談時に確認すべき質問項目をまとめました。

事前にそろえる書類

  • 不動産の登記事項証明書(登記簿謄本)、または最新の固定資産税納税通知書・名寄帳
  • 被相続人および相続人全員の戸籍謄本・住民票(家族関係が分かる親族関係図)
  • 本人の健康状態に関する資料(介護保険被保険者証、要介護認定等結果通知書、直近の主治医診断書)
  • 本人の財産状況が分かる資料(預貯金通帳のコピー、年金振込通知書、保有有価証券や借入金の明細)
  • 公正証書による任意後見契約書の控え(作成している場合)

専門家へ確認すべき質問事項

  • 「現在の本人の認知機能と会話の様子から見て、本人自身による売買契約や遺産分割協議は可能でしょうか」
  • 「法定後見を申し立てる場合、本人の症状から見て後見・保佐・補助のどの類型が適切でしょうか」
  • 「今回の遺産分割協議において、相続人と後見人候補者の間に利益相反が発生し、監督人の関与や特別代理人の選任が必要になりますか」
  • 「本人が現在入院・施設入所中である場合、この自宅は民法上の居住用不動産処分許可が必要な対象になりますか」
  • 「売却代金から捻出する今後の生活費・介護費用の計画として、裁判所に提出する収支計画案に無理はないでしょうか」

安全な手続で本人の権利を守りながら売却を完了させる

相続人や所有者が認知症である不動産の売却は、本人の生活と権利を守るための法的手続きとして進める必要があります。親族であることだけを理由に、本人の意思能力や正当な代理権の確認を怠ったまま代筆や押印を進めると、法律上の効力が否定され、家族や買い手を巻き込む重大なトラブルに発展します。

安全に進める要点は次の通りです。

  • 登記事項証明書で現在の権利関係を確認し、遺産分割が必要か単独所有かを切り分けます。
  • 診断名だけで判断せず、今回の売買行為における本人の意思能力を主治医や専門職とともに慎重に確認します。
  • 本人の判断能力が不十分な場合は任意後見契約の有無を確かめ、なければ家庭裁判所へ法定後見を申し立てます。
  • 共同相続人間で利益相反が生じる場合は、後見監督人の有無を確認し、必要に応じて特別代理人などの選任を申し立てて本人の法定相続分を確保します。
  • 本人の居住用不動産を売却する際は、後見開始とは別に売却の必要性と適正価格を示して家庭裁判所の処分許可を得ます。
  • 売却代金は本人の口座で厳格に管理し、本人の生活費や医療・介護費用、正当な扶養・精算等に適正に充当します。

後見申立てから処分許可の取得までには一定の期間(数か月程度)を要するため、売却を急ぐ場合でも手続きを省略することはできません。まずは登記関係書類と本人の医療情報をそろえ、成年後見実務に詳しい司法書士や弁護士へ相談し、安全な道筋を確定させましょう。

参照資料

e-Gov法令検索「民法」参照日 2026年8月31日裁判所「成年後見制度に関する審判」参照日 2026年8月31日裁判所「成年被後見人等の居住用不動産処分許可」参照日 2026年8月31日裁判所「家事事件Q&A」参照日 2026年8月31日京都家庭裁判所「遺産分割調停」参照日 2026年8月31日