相続した実家や土地を売りたくても、一緒に相続する人(共同相続人)の中に連絡が取れない人がいる場合、その人を外して遺産分割協議を進めたり、家全体を売却したりすることは法律上できません。遺産分割協議は、共同相続人の全員が参加して合意しなければ、法律上の効力を生じないためです。
連絡がつかないからといって、自分たちだけの判断で勝手に手続きを進めることはできません。まずは戸籍や公的書類をたどって、現在の住所や生きているかどうか(生死)、連絡を取る方法を確認します。できる限りの調査を行ってもなお居場所がわからない場合に限り、家庭裁判所に「不在者財産管理人」を選んでもらうよう申し立てるなど、法的な手続きへと進みます。
連絡不能の状況を5つに分類する
ひと口に「連絡が取れない」といっても、連絡先を知らないだけなのか、住所はわかるのに返事がないのか、それとも元の住所や居場所を離れて戻る見込みがないのかによって、検討すべき手続きは変わってきます。まずは今の状況を、次の5つに分類して整理してみましょう。
| 分類 | 現在の状況 | 次に取るべき対応 |
|---|---|---|
| 1. 連絡先を知らない(単なる疎遠) | 電話番号や現住所を知らないが、住民票上の住所が登録されている可能性がある | 戸籍の附票を取り寄せて登録上の住所を確認し、郵便等で連絡を試みる |
| 2. 返信がない(無回答・放置) | 郵便物の受領や居住実態が確認できるものの、返答が得られない | 話し合いが進まない場合は家庭裁判所へ遺産分割調停を申し立てる |
| 3. 所在不明(従来の住所等に不在) | 郵便が戻り、居住実態がなく従来の住所等を去った状況がうかがえる | 調査記録を整え、家庭裁判所に不在者財産管理人の選任申立てを検討する |
| 4. 長期生死不明 | 行方不明(生死不明7年間)や危難(1年間)により生死がわからない | 不在者財産管理人の活用を基本としつつ、事情に応じて失踪宣告の手続を検討する |
| 5. すでに死亡 | 連絡不能だった本人が過去に亡くなっていた | 本人の戸籍を集め、死亡時点の先後関係に応じて代襲相続人や数次相続人を確定する |
相手が実際にその住所で暮らしていて連絡も取れる状態であれば、単なる所在不明には当たらないため、不在者財産管理人を選んでもらう条件には当てはまりません。相手がわざと返事を拒んでいるのか、それとも本当に居場所がわからないのかを見極めることが、手続きを選ぶ出発点になります。
なお、相続人全員と連絡はつくものの売却方針で意見が合わないときは遺産分割で揉めて家を売れないときの対処法を、全員の合意のもとで共有不動産を売却する基本的な流れは共有名義の相続不動産を売却する手順で整理しています。
戸籍と戸籍附票で相続人と現住所を追う
家族や親族の記憶だけに頼らず、客観的な公的記録を取り寄せて、法律上の相続人と最後に登録された住所を確定します。
登記名義と法定相続人を戸籍で確定する
不動産の登記事項証明書と、被相続人(亡くなった方)の出生から死亡までつながった連続した戸籍謄本を取り寄せることで、把握していなかった相続人を含め、法律上の共同相続人を漏れなく確認できます。相続人の範囲と順位は、e-Gov法令検索「民法」(新しいタブで開きます)の相続に関する規定と照らして判断します。
まずは不動産の登記事項証明書を取得し、現在の登記上の名義人(所有権登記名義人)が亡くなった方本人であることを確認します。続いて、亡くなった方の出生から死亡までが途切れなく連続した戸籍謄本・除籍謄本・改製原戸籍(かいせいはんこせき)謄本を揃えます。これらをたどることで、認知した子どもや前の結婚で生まれた子ども、兄弟姉妹などがいるかどうかが明らかになり、正確な相続人の範囲が確定します。
連絡がつかない相続人の戸籍附票を取得する
共同相続人を確定できたら、連絡がつかない相続人の現在の「戸籍謄本(全部事項証明書)」と「戸籍の附票」を、その人の本籍地がある市区町村の窓口で取得します。
戸籍の附票には、その戸籍が作られてから現在までの住所の移転履歴(住民票の引越し履歴)がすべて記録されています。これを見ることで、最後に登録された住所地を特定できます。ただし、附票でわかるのはあくまで行政上に登録された住所であり、実際に本人が生活している場所(居所)と一致しているとは限らない点に注意が必要です。
自分と同じ戸籍に入っていない共同相続人(兄弟姉妹など)の戸籍や戸籍附票を請求するときは、自己の権利を行使するためや、遺産分割協議を進めるためといった「正当な理由」が求められます。窓口で請求する際には、亡くなった方との関係を証明する戸籍謄本などの証拠書類(疎明資料)を提示します。状況によっては住民票の除票が必要になる場合もあり、自分で集めるのが難しいときは司法書士や弁護士への相談も検討してみましょう。手続きの詳しい内容は、各自治体の案内である大阪市「戸籍の附票の写しの交付請求」(新しいタブで開きます)や横浜市「戸籍の附票の写しを窓口で請求する」(新しいタブで開きます)でも確認できます。
違法な探索方法は絶対に避ける
相続人の住所を知りたいからといって、SNSで実名や写真を公開して情報提供を呼びかけたり、第三者から不正な手段で個人情報を買い取ったりしてはいけません。名誉毀損や個人情報保護法違反などの法的なトラブルに発展し、遺産分割や不動産売却の解決が大きく遠のいてしまいます。
適法な連絡の試行と返送郵便の保管
戸籍の附票に書かれた住所がわかったら、その住所宛てに手紙を送って連絡を試みます。
書面による丁寧な通知
いきなり「家を売るから実印を押してほしい」とだけ書いた書類を送ると、相手が警戒して受け取りを拒否したり、返信が途絶えたりしかねません。次のような内容を記載した丁寧な書面を用意し、特定記録郵便や簡易書留など、配達状況を追跡できる方法で送付します。
- 被相続人が亡くなった事実と、相続が始まったこと
- 不動産の現在の様子と、今後の管理や売却について相談したいこと
- 相手の考え(意向)を確認するための連絡先と、無理なく対応できる返信期限
返送郵便と調査記録の保管
送った郵便物が「あて所に尋ねあたりません」などの理由で戻ってきた場合は、封筒を開けずにそのまま保管します。家庭裁判所へ「本人が不在である事実」を説明する客観的な証拠(疎明資料)とするため、次の6項目をまとめた「探索ログ(調査記録)」を日付順に整理しておきます。
- 確認した住所資料:戸籍の附票や住民票の除票など、取り寄せた公的な記録
- 送付方法:特定記録郵便や簡易書留など、配達の追跡ができる送り方
- 返戻・配達状況:郵便が戻ってきた日や返送の理由(宛所不明など)、郵便追跡サービスの記録
- 連絡日時:書面を発送した日や、電話などで連絡を試みた具体的な日時
- 第三者照会:親族へ聞き取った内容、公道などから敷地に入らずに行った現地の確認(敷地の外から表札や郵便受けを確認した結果など)、警察へ行方不明者届を出しているかどうか
- 次の対応期限:相手に設定した返答の期日や、調停・不在者財産管理人の選任申し立てを判断する期限
こうした探索の記録や戻ってきた封筒は、のちに家庭裁判所へ「居場所がわからないこと」の客観的な証拠を提示する際に欠かせない資料となります。
住所に住んでいるが返答がない場合は「遺産分割調停」
戸籍の附票に書かれていた住所へ手紙が届き、実際にその場所で生活している実態が確認できる場合は、単なる所在不明には当たらないため、不在者財産管理人を選んでもらうことはできません。手紙を受け取っていたり実際に住んでいたりする様子がうかがえるのに返答が得られないときは、話し合いが進まない状態に対応する手続きを検討します。
住所や居場所が特定できている相手との話し合いが進まないときは、相手の住所地を管轄する家庭裁判所へ「遺産分割調停」を申し立てます。申し立ての方法や必要な書類の詳しい内容は、京都家庭裁判所「遺産分割調停」(新しいタブで開きます)や裁判所「家事事件Q&A」(新しいタブで開きます)に記載されています。
家庭裁判所から呼び出し状が届くことで、相手が話し合いに応じてくるケースもあります。万が一相手が期日に出席しなかった場合でも、調停を終わらせて(不成立として)「審判手続」に移行することがあります。審判手続では、裁判官が法律で定められた相続分(法定相続分)や財産の状況などを考慮して分け方を決めてくれるため、相手から自発的な返答が得られない場合でも、手続き上の解決を目指せます。
居場所がわからない場合は「不在者財産管理人」を選ぶ
公的な住所記録をたどり、法律に違反しない方法で現地の確認などを行っても住んでいる実態がなく、もともとの住所や居場所を離れて戻る見込みがない場合は、家庭裁判所に不在者財産管理人の選任申し立てを検討します。
不在者財産管理人は本人の財産保全を目的に家庭裁判所が選任する
不在者財産管理人とは、もともとの住所や居場所を離れ、簡単には戻る見込みのない人(不在者)が自分の財産を管理する人を置いていない場合に、その財産を管理するために家庭裁判所が選ぶ人のことです(民法25条)。家庭裁判所は、本人が実際に生活しているかどうかや、いなくなった経緯、財産の管理人がいるかどうかなどを確認したうえで、管理人を選ぶ必要があるかを判断します。
選任の条件や手続きの概要は、裁判所「不在者財産管理人選任」(新しいタブで開きます)で公開されています。
- 申立人(申し立てができる人):共同相続人やお金を貸している人(債権者)などの利害関係人、または検察官
- 管轄裁判所:不在者が以前住んでいた場所(従来の住所地または居所地)を管轄する家庭裁判所
- 申立費用:不在者1人につき収入印紙800円、連絡用の郵便切手、および裁判所が必要と認めた場合の予納金
- 必要書類:申立書、不在者の戸籍謄本・戸籍の附票、不在の事実を証明する資料(宛所不明で戻ってきた郵便物や現地確認報告書など)、財産に関する資料(登記事項証明書や固定資産評価証明書など)、申立人に利害関係があることを証明する資料
候補者と選任の実務
申し立ての際に候補者を挙げることもできます。しかし、遺産分割協議では申し立てた人と不在者の利害が対立します。そのため家庭裁判所は、中立な立場や事案の性質を考慮して、弁護士や司法書士などの専門職を管理人として選任するのが一般的です。
権限外行為許可を得て遺産分割と不動産売却を行う
管理人が選ばれただけでは、遺産分割を行ったり不動産を売却したりすることはできません。裁判所から「権限外行為許可(けんげんがいこういきょか)」をもらい、不在者本人の利益を保護する手続きを併せて経る必要があります。
管理人の日常的権限は「管理行為」に限られる
民法上、不在者財産管理人がふだん行える権限は、財産の現在の状態を維持する「保存行為」や、性質を変えない範囲で使う「利用・改良行為」といった管理行為に限られています(民法103条)。
遺産分割協議に同意することや不動産を売却することは、財産の現状を変更したり処分したりする行為に当たります。管理人は選任されただけではこれらの行為を行う権限がないため、あらかじめ家庭裁判所から権限外行為許可(民法28条)を得る必要があります。
不在者に不利な合意は認められない
不在者財産管理人は、申し立てた人の希望をかなえるための代理人ではなく、不在者本人の財産を守り管理する責任を負っています。そのため、「不在者の相続分をゼロにして、連絡のつく家族だけで不動産を手に入れる」といった、不在者に一方的に不利益な遺産分割案には同意しませんし、裁判所も許可を出しません。
不動産を売却して代金を分ける場合(換価分割)は、不動産を売却し、その代金から諸経費を差し引いた残りのうち、不在者の法律上の相続分(法定相続分)に相当するお金を管理人が保管する形をとるのが通例です。
また、不動産の売却が完了しても、管理人の仕事がすぐに終わるわけではありません。売却してお金に換えたもののうち、不在者が取得した分については、本人が現れるなどの事情が生じるまで、管理人がそのまま保管・管理を続ける点に注意が必要です。
失踪宣告との違い:短期売却に適さない理由
行方不明者を扱う法的な手続きには「失踪宣告」もありますが、不動産を早く売却したい場合には適していません。期間や死亡したものとみなす時点などの基本ルールは、e-Gov法令検索「民法」(新しいタブで開きます)第30条・第31条で確認できます。
| 項目 | 不在者財産管理人 | 失踪宣告 |
|---|---|---|
| 主な目的 | 不在者の財産を保護・管理し、遺産分割や処分を進める | 不在者を法律上死亡したものとみなし、婚姻や相続関係を整理する |
| 主な要件 | 従来の住所や居所を去り、容易に戻る見込みがないこと | 普通失踪は生死不明7年間、危難失踪は危難が去った後1年間 |
| 効果 | 裁判所の許可を得て管理人が遺産分割協議に参加する | 普通失踪は期間満了時、危難失踪は危難が去った時に死亡したものとみなされ相続が開始する |
| 売却への影響 | 選任と許可を得れば売却手続へ進める | 死亡とみなされる時点の先後によって代襲相続や数次相続が発生し、新たな相続人との協議が必要になる場合がある |
失踪宣告には、一般的な行方不明(普通失踪)なら生死がわからない状態が7年間、事故や災害などの危険に遭った場合(危難失踪)ならその危険が去ったあと1年間続いていることという、厳格な条件が定められています。さらに、申し立てをしてから官報に載せて知らせる期間(公告期間)を経て、審判が確定するまでにも相応の時間がかかります。
また、失踪宣告によって法律上「死亡した」とみなされる時期と、元の被相続人が亡くなった時期のどちらが先かによって、相続関係が大きく変わります。被相続人が先に亡くなっていた場合は、相続が重なる「数次相続」になります。元の被相続人より前に本人が亡くなったとみなされ、代襲相続の要件を満たす場合は子どもなどが代わりに相続(代襲相続)しますが、その人の配偶者が配偶者の立場で代襲相続人になるわけではありません。死亡とみなされる時期や権利関係がどう変わるのかを正確に確認したうえで、適切な手続きを選ぶ必要があります。
自分の共有持分だけの売却と全体売却の違い
連絡が取れない相続人がいる状況で、「自分の持分だけでも売却してしまいたい」と考える方もいます。しかし、持分だけの処分と不動産全体の売却は、はっきりと区別して判断しなければなりません。
- 不動産全体の売却:共同相続人の全員(または不在者財産管理人)の合意が必要です。買い手が完全な所有権を手に入れられるため、市場の相場に沿った価格での売却を目指しやすくなります。
- 自分の共有持分のみの売却:他の共有者の承諾がなくても、自分ひとりの判断で売却できます。ただし、買い手は不動産全体を自由に使えないため、通常の市場価格で売ることは難しくなる傾向があります。
遺産を分ける前の状態(遺産共有状態)において、持分を処分したあとに共有関係や遺産共有をどのように解消できるかについては、複雑な法律上の論点があり、通常の「共有物分割訴訟」を起こせばすぐに解決できるとは限りません。遺産分割の手続きとどのように関係するのかや、具体的な進め方については、事前に弁護士へ確認しておく必要があります。安易に持分だけの処分に踏み切るのではなく、適切な調査と裁判所の手続きを経て不動産全体の売却を目指すかどうかを、慎重に検討してください。
費用・期間・予納金の目安と専門家への相談準備
不在者財産管理人の申し立てから不動産の売却を完了するまでには、一定の費用と期間がかかります。
費用の目安と「予納金」の仕組み
申し立ての手数料は、不在者ひとりにつき収入印紙800円と連絡用の郵便切手です。最新の金額や必要書類は、申立先の案内と裁判所「不在者財産管理人選任」(新しいタブで開きます)で確認してください。実際の手続きで特に注意したいのが予納金です。
不在者の財産から管理人の報酬や管理費用を支払えない場合など、裁判所が必要だと判断したときには、申し立てた人が事前にお金(予納金)を納めなければなりません。予納金が必要かどうかやその金額は、事案の内容や不在者の財産状況などを考慮して裁判所が決めます。不動産の売却代金から不在者の持分に当たるお金が確保できれば、売却後に予納金の一部または全部が申し立てた人に返還される運用もあります。ただし、申し立ての段階でまとまった現金の納付を求められることがある点には注意が必要です。
期間についても、居場所の調査から申し立て、管理人の選任、権限外行為許可の取得、売買契約・代金決済に至るまで、事案の状況に応じて何か月もの期間がかかります。
専門家に相談する前に揃える書類と質問
手続きをスムーズに進めるため、弁護士や司法書士へ相談する際は、あらかじめ次の資料を手元に揃えておきます。
- 被相続人(亡くなった方)の出生から死亡までの戸籍謄本一式
- 連絡がつかない相続人の戸籍の附票、および返送されてきた封筒
- これまでの調査や連絡の経緯を日付順にまとめたメモ
- 不動産の登記事項証明書および固定資産税納税通知書(または評価証明書)
これらの資料を見せたうえで、専門家に次の点を確認しましょう。
- 現在揃っている資料で、家庭裁判所が「不在者」と判断してくれる見込みがあるか
- 予納金が必要かどうかや見込み金額、不動産の売却代金から精算できるかどうか
- 不動産を売却してお金で分ける方針(換価分割)で、裁判所の許可が得られそうか
- 遺産共有の状態において、共有物分割と遺産分割のどちらの手続きを選ぶべきかについて、どのような見通しがあるか
客観的な調査記録を揃えて適法な手順を踏む
相続人の中に連絡がつかない人がいる場合でも、法律に沿った手順を踏めば家を売却できます。自分たちだけの判断でその人を除外して手続きを進めたり、安易に共有持分だけを手放したりしないように注意してください。
本記事は一般情報として手続きの順番を示すもので、個別の事案で調停、不在者財産管理人、失踪宣告のどれを選ぶべきかを判定するものではありません。具体的な申立て方針は弁護士または管轄の家庭裁判所へ確認してください。
- 登記事項証明書と戸籍で、亡くなった方と法律上の相続人(法定相続人)を確定する
- 戸籍の附票を取得し、公的に登録された最後の住所を確認する
- 手紙を送り、探索ログや返送されてきた封筒を保管する
- 実際に住んでいて返答がない場合は調停、元の住所を離れて戻る見込みがない場合は不在者財産管理人の選任申し立てを検討する
- 管理人と協議し、裁判所の権限外行為許可を得て不動産全体を売却する
まずは手元にある戸籍や不動産の書類を確認し、これまでの調査や連絡の経緯をメモに書き出すことから始めてみてください。
