この記事の目次を開く(8項目)
親の家が借地に建っていた場合、相続の進め方は、土地も親のものだった家とは少し違います。相続するのが、建物と、土地を使う権利である借地権だからです。借地権の相続では、地主との関係、建物の登記、地代の支払いを分けて考えると、次にすることが見えてきます。
親の借地権は相続できる?地主の承諾は要る?
借地権とは、建物を持つために、他人の土地を使う権利のことです(出典:国税庁 No.4611。参照資料の一覧へ移ります)。親が亡くなると、借地権は建物と一緒に相続人が引き継ぎます(出典:山梨県司法書士会。参照資料の一覧へ移ります)。期間に限りのある定期借地権でも、相続で引き継ぐ点は変わりません。
相続で借地権を引き継ぐことは、借地権を人に譲ること(譲渡)には当たりません。そのため、地主の承諾は要らないと説明されています(出典:神奈川県司法書士会。参照資料の一覧へ移ります)。地主から「承諾していない」と言われても、まずは契約書と相続の事情を落ち着いて確かめましょう。
ただし、承諾が要らないのは、相続人が相続で引き継ぐ場面です。売るときや建て替えるときは、相続とは別に地主の承諾が問題になります(出典:東京地裁 借地非訟とは。参照資料の一覧へ移ります)。
| 場面 | 地主の承諾 |
|---|---|
| 相続人が相続で引き継ぐ | 一般に要らない |
| 建物と借地権を第三者に売る | 土地の賃借権なら、原則として要る |
| 建て替える、増改築する | 契約の承諾条項と、法律上の条件による |
| 相続人以外の人に遺言で渡す | 相続と同じとは限らない |
土地の賃借権(土地を借りる契約にもとづく権利)を人に移すには、原則として地主の承諾が必要です(出典:国土交通省 鑑定評価の検討資料。参照資料の一覧へ移ります)。地主が承諾しないときは、承諾に代わる許可を裁判所に求める手続き(借地非訟)もあります(出典:借地借家法。参照資料の一覧へ移ります)。ただし、申し立てれば許可されるとは限りません。売るときの手順は、借地権付きの家を売却する手順の記事で説明しています。
建て替えや増改築では、まず契約書の承諾についての条項を確かめます。あわせて、建物の種類の変更や建て直しについての法律上の決まりも関わります。工事を決める前に、契約書を持って弁護士に相談してください。
相続人以外の人に遺言で借地権を渡す(遺贈する)場合は、相続と同じに扱えるとは限りません。承諾が要るかどうかは、司法書士や弁護士に確かめてください。
詳しく:地上権と賃借権で扱いが違う
詳しい説明を開く
借地権には、地上権と土地の賃借権の2つの形があります。地上権は土地を使うための独立した権利で、賃借権とは譲渡の制限が違います(出典:国土交通省 鑑定評価の検討資料。参照資料の一覧へ移ります)。そのため、「借地権を売るには、いつも地主の承諾が要る」とひとまとめにはできません。
どちらの形かは、借地契約書の書き方と、土地の登記を見て見当を付けます。判断が難しいときは、契約書と登記事項証明書を持って、司法書士や弁護士に相談してください。
名義書換料や承諾料を求められたら?
相続のあとで、地主から名義書換料(名義を変えるときに地主に払うお金)を求められる場合があります。通常の相続で引き継ぐなら、名義書換料や譲渡の承諾料を払う必要はないと説明されています(出典:山梨県司法書士会。参照資料の一覧へ移ります)。払わないことだけを理由に、地主が契約を解除したり退去を求めたりできるとはされていません。
相続にあわせて借地の契約書を書き換えることも、法律上の手続きとしては求められていません(出典:神奈川県司法書士会。参照資料の一覧へ移ります)。一方で、借りている人をはっきりさせるために、新しい契約書を作ることはあります。その書面づくりに協力してもらう手数料として、お金を払うことはあり得るという説明もあります。
| 求められたお金 | 考え方 |
|---|---|
| 相続による名義書換料・承諾料 | 通常の相続では、払う必要はないと説明されている |
| 新しい契約書を作る手数料 | 書面づくりへの協力の対価として、払うことはあり得る |
| 更新料 | 相続とは別の話。契約と合意の内容による |
| 地代 | 相続のあとも払い続ける |
名目だけで判断せず、契約書の条項、何の作業に対するお金か、合意があるかを確かめます。契約書の特約が有効かどうかは、個別の判断になります。払うかどうか迷うときは、約束する前に弁護士に相談してください。
ここで払わなくてよいとされるのは、相続で引き継ぐ場面のお金です。売るときの承諾料には決まった割合がなく、話し合いで決まります。考え方は借地権付きの家を売却する手順の記事で説明しています。
借地権を相続したら、地主に何を伝える?
承諾が要らないとしても、相続があったことは地主に伝えておきます。誰が地代を払い、誰が連絡を受けるのかが、地主には分からなくなるからです。
相続を知らせる方法や期限は、契約で決めている場合があります。たとえば鹿児島市の定期借地の契約書案には、相続人が速やかに書面で知らせるという条項があります(出典:鹿児島市 契約書案。参照資料の一覧へ移ります)。手元の契約書に、相続や通知についての定めがないかを先に確かめましょう。
地主への連絡では、次の項目を整理しておくとよいでしょう。
- 親が亡くなったことと、亡くなった日
- 当面の連絡役になる相続人の名前と連絡先
- 地代を、誰が、いつ、どの方法で払うか
- 借地権を継ぐ人(決まっていれば)
継ぐ人がまだ決まっていなくても、連絡役と地代の払い方は先に伝えられます。手紙やメールで伝えておくと、何をいつ伝えたかが記録に残ります。
連絡の前に、手元で確かめること
地主と話す前に、借地の条件を手元の書類で確かめておきます。借地権を調べるときの確認項目として、次のものが挙げられています(出典:国土交通省 鑑定評価の検討資料。参照資料の一覧へ移ります)。
- 地上権か、土地の賃借権か
- 契約期間(いつ始まり、いつ終わるか)
- 建ててよい建物の種類や構造
- 増改築や譲渡についての特約
- 契約書や登記があるか
- 定期借地権かどうか
あわせて、地代の額と払い方、最近の領収書や振込の記録も集めます。土地の賃借権にもとづく借地は、原則として有償です。相続で引き継ぐ契約の地代の条件も確かめておきます。契約書が見つからないときは、地主に控えの写しをもらえないか相談してみましょう。
建物の相続登記は、地主への連絡とは別に要る
地主に相続を伝えても、法務局にある建物の名義は親のままです。借地の上の建物を相続したら、建物について相続登記(相続人の名義に変える登記)が必要になります(出典:東京空き家ガイドブック。参照資料の一覧へ移ります)。地主との契約書の名義と、建物の登記は、別々の記録だと考えてください。
建物の登記には、もう1つの役目があります。借地権は、土地に登記がなくても、第三者に主張できる場合があります。原則として、建物が借地権者本人の名義で登記されているときです(出典:全日本不動産協会。参照資料の一覧へ移ります)。地主が土地を売って、土地の持ち主が変わったときなどに関わる仕組みです。
相続登記の申請は、2024年(令和6年)4月1日から義務になりました(出典:えびの市。参照資料の一覧へ移ります)。相続が始まったことと、その不動産を取得したことを知った日から、原則3年以内に申請します(出典:法務省。参照資料の一覧へ移ります)。義務化の前から相続と建物の取得を知っていた場合は、原則2027年(令和9年)3月31日までが期限です(出典:法務省 Q&A。参照資料の一覧へ移ります)。ただし、相続を知った時期などで期限は変わるため、自分の期限は相続登記の期限の記事で確かめてください。
登記のときには、登録免許税(登記をするときに国に納める税金)がかかります。建物の相続登記の税率は、原則0.4%です(出典:国税庁 No.7191。参照資料の一覧へ移ります)。計算に使う価格は、原則として固定資産課税台帳に載っている価格(市区町村が決めた評価額)です。
例として、建物の価格が500万円で、原則の税率を使う場合を考えます。500万円×0.4%で、登録免許税は20,000円です。司法書士に頼むときの報酬は、これとは別に見積もりで確かめます。
土地の持ち主は地主のままなので、土地の所有者の名義を変える登記はしません。ただし、土地に地上権や賃借権の登記があるときの扱いは、司法書士に確かめてください。申請の窓口や書類は、法務局か司法書士に確かめてください。
詳しく:親の名義のままの建物と借地権の主張
詳しい説明を開く
相続登記をしないまま、建物が親の名義だったらどうなるのでしょうか。古い最高裁判決は、相続登記が済んでいない建物と、はじめから借地人以外の名義で登記した建物を区別しています(出典:最高裁昭和41年判決。参照資料の一覧へ移ります)。そのため、親の名義が残っているだけで、すぐに借地権を主張できなくなるとは言い切れません。
ただし、この古い判決の考え方が、いまの個別の事案にそのまま当てはまるとは限りません。また、親の名義のままにしても、相続登記の義務は残ります(出典:えびの市。参照資料の一覧へ移ります)。相続登記は、期限までに済ませましょう。
地代・契約期間・更新料は、相続でどう変わる?
相続しても、借地の契約はそのまま続きます。地代の額や払い方、契約期間は、親が結んでいた契約の内容を引き継ぐのが基本です。誰が払うかが決まるまでの間も、払い忘れが起きないよう、相続人の間で担当を決めておきましょう。
契約期間と更新の決まりは、借地がいつ始まったかで変わります。境目は、借地借家法が施行された1992年(平成4年)8月1日です(出典:奈良県。参照資料の一覧へ移ります)。種類ごとの期間と更新は、次のとおりです(出典:国土交通省 鑑定評価の検討資料。参照資料の一覧へ移ります)。
| 種類 | 対象の借地 | 期間と更新 |
|---|---|---|
| 旧法の借地権 | 1992年8月1日より前に設定 | 更新には、古い法律(借地法)の扱いが残る |
| 普通借地権 | 1992年8月1日以降に設定 | 当初30年、最初の更新20年、その後は10年が基本。長い定めがあればそれによる |
| 一般定期借地権 | 1992年8月1日以降に、50年以上の期間で設定 | 更新・建築による期間延長・建物買取請求をしない特約を設ける |
旧法の借地は、相続や更新をしただけで、新しい法律の期間に変わるわけではありません(出典:不動産流通推進センター。参照資料の一覧へ移ります)。古いルールを残す決まりは事項ごとに置かれていて、何でも旧法のままとは限りません。契約書が古くて種類がはっきりしないときは、弁護士や不動産会社に見てもらうと確かです。
一般定期借地権は、期間が終わっても更新されない借地です(出典:国土交通省 定期借地権の解説。参照資料の一覧へ移ります)。残りの期間が何年あるかで、住み続けるか手放すかの考え方も変わってきます。
更新料は払わなければならない?
更新料は、更新のときに当然払うものとして、一律には扱えません。契約書に支払いの定めがあるか、当事者の間で合意があるかが判断に関わります(出典:RETIO104 判例紹介。参照資料の一覧へ移ります)。更新料の支払いの合意や慣習を認めず、地主の請求を退けた裁判例も出ています。
金額についても決まった相場はなく、双方が納得する額で決めるという専門家団体の回答があります(出典:神奈川県不動産鑑定協同組合。参照資料の一覧へ移ります)。相続の名義書換料と更新料は、別の話です。更新料を求められたら、契約書の条項と過去に払った記録を確かめ、弁護士などに相談してください。
きょうだいで借地権を相続するときの注意
相続人が何人かいて遺産分割をしないと、相続した不動産は相続人の共有になります(出典:東京空き家ガイドブック。参照資料の一覧へ移ります)。借地の家でも、建物と借地権をきょうだいで共有する形になりえます。
共有にすると、地代を誰がどう払うかが問題になります。持分とは、共有している権利の割合のことです。契約によっては、共同で相続した人が、持分にかかわらず連帯して責任を負うという条項が置かれています(出典:鹿児島市 契約書案。参照資料の一覧へ移ります)。
この場合、自分の持分の割合を超えて、地代の支払いを求められることがあります。そのため、「自分の持分の地代だけ払えばよい」とは言い切れません。地主に対する責任と、きょうだいの間での費用の分け方は、分けて考える必要があります。
きょうだいの間では、次のことを早めに決めておくと、地主とのやり取りが落ち着きます。
- 地主との連絡役を誰にするか
- 地代と建物の固定資産税を、誰がいつ払うか
- 立て替えたお金を、あとでどう精算するか
- 住み続けるか、売るか、返すかの方針
遺産分割協議(相続人どうしの話し合い)で、建物と借地権を継ぐ人を1人に決める方法もあります。話し合いがまとまらないときは、弁護士に相談してください。共有のまま売るときの進め方は、共有名義の実家を売却する記事で確かめられます。
相続税では、借地権をどう評価する?
借地権は相続財産の1つなので、相続税を計算するときは評価額を出します。通常の借地権は、原則として自用地評価額(その土地を自分で使っている場合の評価額)に、借地権割合を掛けて求めます(出典:国税庁 No.4611。参照資料の一覧へ移ります)。定期借地権は、通常の借地権とは評価の方法が違います。
借地権割合は地域ごとに決まっていて、所在地の路線価図か評価倍率表で確かめます(出典:国税庁 路線価図の説明。参照資料の一覧へ移ります)。路線価図では、路線価の数字の右側にある記号で割合が示されています。
例として、通常の借地権で、土地の自用地評価額が2,000万円、借地権割合が60%の場合を考えます。借地権の評価額は、2,000万円×60%で1,200万円です。
この1,200万円は、相続税の計算に使う評価額です。相続税の額でも、借地権が売れる値段でもありません。相続税がかかるかどうかや評価のしかたは、税務署か税理士に相談し、売れる見込み額は不動産会社の査定で別に確かめます。
住み続ける・売る・地主に買い取ってもらう・返す、どう比べる?
借地の家をこれからどうするかは、いくつかの方向に分けて考えられます。専門家団体の相談回答でも、解体して返す以外に、第三者への売却や地主への買取りの相談が選択肢として示されています(出典:神奈川県不動産鑑定協同組合。参照資料の一覧へ移ります)。
| 選択肢 | 中身 | 確かめること |
|---|---|---|
| 住み続ける・持ち続ける | 相続人が住むか、空き家のまま持つ | 地代、残りの期間、更新料の定め、建物の傷み |
| 貸す | 建物を人に貸す | 契約の使い道の決まり、地域に借り手がいるか |
| 第三者に売る | 建物と借地権を売る | 賃借権なら地主の承諾。売れる値段は査定で |
| 地主に買い取ってもらう | 地主と話し合って売る | 買うかどうかも値段も、地主との協議しだい |
| 解体して返す | 契約を終えて土地を返す | 解体費、返し方の条件、建物を買い取ってもらえるか |
自分から契約をやめて返す場合について、建物の買取請求はできず、更地にして返すと回答された相談例があります。期間が満了したときの建物の買取請求とは場面が違うため、混同しないようにしましょう。地主に任意で買い取ってもらう話も、法律上の買取請求とは別のものです。
解体費と司法書士の報酬は、それぞれ見積もりで確かめます。売れる値段は不動産会社の査定、地主に売るときの値段は話し合いで確かめます。
売る前に、使えるかを調べた例
東京都が公表している相談事例に、父から相続した借地の空き家の例があります(出典:東京空き家ガイドブック。参照資料の一覧へ移ります)。相談者ははじめ売るつもりでしたが、買い手が見つかりませんでした。そこで地域の賃貸の需要と建物の状態を調べ、貸す方針に変えて、入居につながっています。
どの家でも貸せるわけではありませんが、売るか返すかを急いで決める前に、その家が使えるかを調べた例です。売ると決めたら、地主の承諾の取り方と売り方の比べ方を借地権付きの家を売却する手順の記事で確かめられます。借地権の扱いに慣れた買取業者を比べる点は、訳あり物件の買取業者の選び方の記事にまとめています。
相談先の使い分け
地主との契約の中身は一件ずつ違うので、ここは一般的な説明です。自分の借地の扱いは、内容に合う相談先で確認してください。
- 建物の相続登記:法務局、司法書士
- 地主との契約、求められたお金、きょうだいの話し合い:弁護士
- 相続税の評価と申告:税務署、税理士
- 売れる見込み額、借り手がいるか:不動産会社
