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親の物忘れが進むと、銀行や施設から成年後見の利用をすすめられることがあります。そのとき気になるのが、子や兄弟姉妹など、家族が成年後見人になれるのかという点です。引き受けた後に何を求められ、実家がどう扱われるのかも、申し立てる前に知っておきたいところでしょう。
成年後見人に家族はなれる?なれない人の条件
成年後見人は、判断力が十分でない人に代わって、財産を管理したり契約をしたりする人です。法律では支えられる人を「本人」と呼びますが、ここでは「親」と書きます。
配偶者や子、兄弟姉妹などの家族も、成年後見人になれます(出典:厚生労働省 成年後見人等のみなさまへ。参照資料の一覧へ移ります)。特別な資格は要りません(出典:那覇家庭裁判所 手引。参照資料の一覧へ移ります)。求められるのは、法律でなれない人に当たらないことと、親の財産を正しく管理できることです。
分けて考えたいのは、「申し立てる人」と「後見人になる人」です。家族が申立てをしても、その家族が後見人になるとは決まっていません。また、家族であるというだけでは、親に代わって契約する権限は生まれません。
なお、法定後見には、親の判断力の程度に応じて後見・保佐・補助の3つがあります(出典:厚生労働省 法定後見制度とは。参照資料の一覧へ移ります)。この記事では、権限がいちばん広い「後見」を中心に説明します。保佐人や補助人が親に代わって契約できる範囲は、家庭裁判所が決めます。保佐人には、法律で定めた重要な契約について、同意したり取り消したりする権限もあります(出典:裁判所 家事事件Q&A。参照資料の一覧へ移ります)。
後見人になれない人
後見人になれない人の条件は、民法第847条(新しいタブで開きます)で決まっています。次の5つのどれかに当たる人です(出典:大阪家庭裁判所 陳述書。参照資料の一覧へ移ります)。
- 未成年者
- 家庭裁判所で、法定代理人・保佐人・補助人をやめさせられた人
- 破産者
- 親を相手に裁判をしている人、したことがある人と、その配偶者・直系血族
- 行方が分からない人
4つ目の直系血族は、親や子、祖父母や孫のように、縦につながる血縁の人です。ここでいう破産者は、復権(破産で受けた資格の制限が解かれること)をしていない人を指します(出典:裁判所 家事事件Q&A。参照資料の一覧へ移ります)。当てはまるか迷うときは、申し立てる家庭裁判所か弁護士に確かめてください。
誰が後見人になるかは、家庭裁判所が決める
成年後見人を選ぶのは、家庭裁判所です。後見を始める審判(裁判所の決定)をするときに、あわせて後見人を選ぶことが民法第843条(新しいタブで開きます)に定められています。
申立書には、後見人になってほしい人を「候補者」として書けます。ただし、候補者に書いた家族が、そのまま選ばれるとは限りません(出典:裁判所 家事事件Q&A。参照資料の一覧へ移ります)。家族が引き受けたいと希望していても、最後に決めるのは家庭裁判所です。
那覇家庭裁判所の手引では、選ぶときに次のような事情を見ると説明しています(出典:那覇家庭裁判所 手引。参照資料の一覧へ移ります)。
- 親の心身の状態と、暮らしや財産の状況
- 候補者の仕事や経歴
- 候補者と親の間に、お金などの利害のぶつかりがあるか
- 親自身の意見
もう1つ知っておきたいのが、申立ての取下げです。申立てが受け付けられた後は、家庭裁判所の許可がなければ取り下げられません(出典:大阪家庭裁判所 Q&A。参照資料の一覧へ移ります)。希望の候補者が選ばれそうにない、という理由での取下げは認められない、と大阪家庭裁判所は案内しています。
申立ての費用と、審判までの期間の目安は、認知症の親の口座と支払いの記事で説明しています。
家族がいても専門職が選ばれるのはどんなとき?
家族が候補者でも、弁護士・司法書士・社会福祉士などの専門職が選ばれることがあります(出典:厚生労働省 選任と役割。参照資料の一覧へ移ります)。公的な案内で挙げられているのは、次のような場合です。
- 親の暮らしや法律の面で、解決が必要な課題がある
- 管理する財産の中身が複雑で、管理が難しい
- 親の暮らしや財産の方針をめぐって、家族の意見が分かれている
3つ目は、那覇家庭裁判所が手引で挙げている例です(出典:那覇家庭裁判所 手引。参照資料の一覧へ移ります)。どれに当たるかは、家庭裁判所が親ごとに個別に判断します。兄弟姉妹の間で意見が割れているなら、それを隠さずに相談先へ伝えておくほうが、後の手戻りを減らせます。
家族と専門職が一緒に担当することもある
後見人は1人とは限りません。家族と専門職が、2人とも後見人に選ばれる組み合わせもあります(出典:岡山家庭裁判所 手引き。参照資料の一覧へ移ります)。
家族が後見人に選ばれ、別に成年後見監督人(後見人の仕事をチェックする人)が付くこともあります。監督人は、親や親族、後見人の請求か、家庭裁判所の判断で選ばれます。この決まりは民法第849条(新しいタブで開きます)にあります。
家族の後見人は、家庭裁判所の監督を受けます。監督人がいれば、監督人の監督も受けることになります(出典:静岡家庭裁判所 Q&A。参照資料の一覧へ移ります)。家族の後見人に監督人が付く割合は、最高裁判所の概況からは読み取れません。
家族が成年後見人に選ばれる割合は?
最高裁判所は、毎年、成年後見の申立てと選ばれた人の内訳を公表しています。2025年(令和7年)1〜12月の内訳は、次のとおりです。成年後見人だけでなく、保佐人と補助人も合わせた、開始時の集計です(出典:最高裁判所 概況 令和7年。参照資料の一覧へ移ります)。
| 選ばれた人 | 件数 | 割合 |
|---|---|---|
| 親族 | 7,014件 | 約16.4% |
| 親族以外 | 35,718件 | 約83.6% |
| 合計 | 42,732件 | 100% |
親族以外の中では、司法書士が11,966件、弁護士が8,903件、社会福祉士が7,280件でした。司法書士と弁護士の件数には、それぞれの法人も含まれます。親族以外には、このほかに市民後見人やその他の法人なども入っています。そのため、「専門職が83.6%」と読むのは正しくありません。
親族が選ばれた割合は、2024年が約17.1%、その前の2023年が約18.1%でした(出典:最高裁判所 概況 令和6年。参照資料の一覧へ移ります)。ここ3年は、少しずつ下がっています。
ただし、この割合は「家族を候補者に書いたら、何割が選ばれるか」という数字ではありません。親族の候補者を書かなかった申立ても、たくさん含まれているからです。家族が選ばれるかは親の財産や家族の事情で変わるので、数字だけで「家族は選ばれない」と考える必要はありません。
詳しく:統計の数え方
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この統計は、後見・保佐・補助が始まったときに、選ばれた人を本人との「関係別」に数えた件数です。1つの申立てで2人以上が選ばれることもあるため、合計は事件の数と一致しません。
2025年に認められた申立てのうち、申立書に親族の候補者が書かれていたのは約19.7%でした(出典:最高裁判所 概況 令和7年。参照資料の一覧へ移ります)。分母が違うので、16.4%と組み合わせて「候補者が選ばれる確率」を出すことはできません。
家族が後見人なら、施設に入った親の実家を売れる?
家族が後見人になっても、親の実家を家族の判断だけで売ることはできません。後見人は、親の財産を管理し、その財産について親に代わって契約する権限を持ちます(出典:高松家庭裁判所 後見事務の案内。参照資料の一覧へ移ります)。その権限は、親の意思を尊重し、親の暮らしに配慮して使うものです(出典:厚生労働省 選任と役割。参照資料の一覧へ移ります)。家族の希望だけで、財産の使い方を決める役ではありません。
親が住んでいた家は、家庭裁判所の許可が要る
親の住まいを売るには、後見人を選ぶ手続きとは別に、家庭裁判所の許可が要ります。この決まりは民法第859条の3(新しいタブで開きます)にあります。
対象になる家は、親がいま住んでいる家だけではありません。施設や病院に入る前に住んでいた家や、将来また住む可能性がある家も含まれます(出典:裁判所 居住用不動産の処分許可。参照資料の一覧へ移ります)。空き家になった実家でも、対象になることがあるわけです。
許可が要る処分は、売るときだけではありません(出典:岡山家庭裁判所 手引き。参照資料の一覧へ移ります)。
- 売る
- 抵当権(借金の担保)を付ける
- 人に貸す、または賃貸借(家の貸し借り)の契約を解除する
- 建物を取り壊す(売却などに準ずる処分の例)
許可を得ずにした処分は、無効になります(出典:熊本家庭裁判所 成年後見人になられる方へ。参照資料の一覧へ移ります)。片付けや取り壊しの予定を家族で決める前に、許可が要るかを家庭裁判所に確かめてください。
不動産会社に売り出しを頼む時期も、許可の見通しを聞いてから決めます。許可の申立てに添える資料や決済の順番は、認知症の相続人がいるときの売却の記事にまとめています。施設に入った親の家を残すか、貸すか、売るかの考え方は、親が施設に入った後の家の記事で比べられます。
売ったお金は、親の財産のまま
実家を売ったお金は、親の財産です。後見人になった家族のお金にはならず、親の財産と家族の財産は分けて管理します(出典:岡山家庭裁判所 手引き。参照資料の一覧へ移ります)。親の不利益になる贈与や貸し付けも、家族が自分のために使うことも認められません(出典:静岡家庭裁判所 Q&A。参照資料の一覧へ移ります)。使い道に迷う支出は、使う前に家庭裁判所か監督人に相談しましょう。
詳しく:親と後見人の家族が、どちらも相続人になるとき
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たとえば、母の後見人を長女が務めているときに、父が亡くなったとします(想定の例)。母と長女はどちらも相続人で、遺産の分け方では長女の取り分が増えると母の取り分が減ります。このように親と後見人の利害がぶつかることを、利益相反といいます。
この場合、長女は母に代わって話し合えず、家庭裁判所が選ぶ特別代理人が母を代理します(出典:裁判所 特別代理人等の選任。参照資料の一覧へ移ります)。監督人がいれば、監督人が母を代理するため、特別代理人は要りません。詳しい流れは、認知症の人が持ち主の家を売る記事で説明しています。
相続人が後見を受けているときの家の売却は、遠方の実家を売る記事でも触れています。
後見人になった家族がすること:記録・報告・報酬
家族が後見人に選ばれると、親のお金の管理は、家庭裁判所に説明できる形で続けることになります。親の財産を守るためのしくみなので、後見人が家族でも、同じ手続きで管理を続けます。
最初に財産の一覧を作り、その後は収支を記録する
選ばれたら、まず親の暮らしぶりと希望を確かめます。そのうえで財産目録(親の財産の一覧)と収支予定表(毎月の収入と支出の見込み)を作り、家庭裁判所に出します(出典:裁判所 家事事件Q&A。参照資料の一覧へ移ります)。
その後は、親のお金の出入りを日ごろから記録します。通帳や領収書などの裏付けも、捨てずに取っておきましょう(出典:静岡家庭裁判所 Q&A。参照資料の一覧へ移ります)。家庭裁判所への報告は、一般的には年に1回です(出典:厚生労働省 選任と役割。参照資料の一覧へ移ります)。いつ、どの資料を出すかは、家庭裁判所や監督人の指示に従ってください。
報酬は、家庭裁判所が決めた額だけ受け取れる
後見人が報酬を受け取るには、家庭裁判所に「報酬付与」を申し立てます。家庭裁判所が認めた額を、親の財産から受け取るしくみです(出典:裁判所 報酬の付与。参照資料の一覧へ移ります)。家族の後見人も、自分の判断で親の口座から報酬を引き出すことはできません。
報酬の額は、後見人の仕事の中身や親の財産などを見て、家庭裁判所が決めます(出典:裁判所 家事事件Q&A。参照資料の一覧へ移ります)。法律で決まった計算式はありません(出典:横浜家庭裁判所 報酬額のめやす。参照資料の一覧へ移ります)。監督人が付いた場合、監督人も報酬を受け取るには、家庭裁判所に報酬付与を申し立てます。認められた額は、親の財産から払います。
家族の後見人を支える地域の窓口もある
家族が後見人を務めるときに、地域の窓口が手伝う取組もあります。厚生労働省が紹介する宇和島地区権利擁護センター「ピット」では、家族の後見人の財産管理や書類作りを手伝っています(出典:厚生労働省 中核機関の取組事例。参照資料の一覧へ移ります)。申立てから関わった家族の後見人の相談にも、メールや電話で応じています。紹介は2023年時点の内容なので、親の住む地域に同じ支援があるかは、市区町村の窓口で確かめてください。
実家を売り終えたら、後見はやめられる?2026年の改正
今の制度では、実家の売却など、申し立てたきっかけの用事が済んでも、後見は終わりません。原則として、親が亡くなるか、判断力が戻って家庭裁判所が後見を取り消すまで続きます(出典:那覇家庭裁判所 手引。参照資料の一覧へ移ります)。
後見人になった家族は、病気などの正当な理由があれば、家庭裁判所の許可を得て辞められます(出典:裁判所 家事事件Q&A。参照資料の一覧へ移ります)。ただし、後見人が辞めても、親の後見そのものは続きます。後見人がいなくなるときは、代わりの後見人が選ばれます。
2026年に公布された改正法
成年後見制度を見直す改正法は、2026年(令和8年)6月17日に成立し、6月24日に公布されました(出典:参議院 議案審議情報。参照資料の一覧へ移ります)。改正では、後見と保佐をなくし、判断力が不十分な人を補助の制度で支える形に改めます。必要がなくなったと家庭裁判所が認めたときに、補助をやめられるしくみも盛り込まれています(出典:参議院 成立法律。参照資料の一覧へ移ります)。家族が自由に終わりを決められる制度ではない点は、変わりません。
施行は、公布から2年6か月以内に政令で定める日で、2026年10月7日に確かめた時点では、施行日は示されていません(出典:法務省 改正案内。参照資料の一覧へ移ります)。この記事は、施行前の今の制度をもとに書いています。申し立てる前に、日付が決まったかどうかなど最新の内容を、法務省や家庭裁判所の案内で確かめてください。施行前から続く後見の扱いも、施行が近づいたら家庭裁判所や法務省の案内で確かめてください。
申立ての前に相談できる窓口と、ほかの備え
後見を使うかどうかは、家族だけで抱え込まずに決めてかまいません。相談先は、親の住む市区町村や自治体が案内している地域の窓口です。中核機関(成年後見の相談を受ける窓口)や地域包括支援センター、社会福祉協議会などがあります(出典:厚生労働省 成年後見制度とは。参照資料の一覧へ移ります)。窓口の形や支援の中身は、地域によって違います。
国が2022年に定めた基本計画は、後見人にふさわしい身近な親族がいる場合の支え方を示しています。候補者に挙げるための助言や、選ばれた後の相談支援を進めるという方針です(出典:厚生労働省 第二期基本計画。参照資料の一覧へ移ります)。ただし、家族を必ず選ぶという決まりではありません。
相談では、次の点を聞いておくと、申し立てるかどうかを決めやすくなります。
- 親の状態だと、後見・保佐・補助のどれに当たりそうか
- 家族を候補者にしたとき、専門職や監督人が付く可能性はあるか
- 実家の売却や遺産分割など、控えている手続きに何が要るか
- 記録・報告・報酬など、家族が引き受ける負担の大きさ
この記事の内容は一般的な情報です。親の状況に当てはまるかは、家庭裁判所の手続案内や、弁護士・司法書士に個別に相談してください。
親にまだ契約の内容を理解する力があれば、任意後見という備え方があります(出典:厚生労働省 任意後見制度とは。参照資料の一覧へ移ります)。家族信託も、結ぶには親の意思能力が必要です(出典:清瀬市 空き家ガイドブック。参照資料の一覧へ移ります)。違いと選び方は、家族信託と任意後見を比べる記事にまとめています。親の口座からお金を払えずに困っているときは、親の口座が凍結されたときの記事を見てください。
後見を使うと決めても、使わないと決めても、親の暮らしと財産を守るための判断であることに変わりはありません。
