相続した実家や離れ、納屋などが「未登記かもしれない」と分かったときは、まず登記事項証明書などで建物の状態を確認することが大切です。「建物の登記記録自体が全くないのか」、それとも「表題部はあるが所有権の登記がないのか、あるいは昔の名義のままなのか」を区別しましょう。
毎年の固定資産税の納税通知書が届いていても、自治体の課税台帳への登録と法務局での登記は一致しません。建物が完全な未登記である場合は、建物の物理的な現況を登録する表題登記から順を追って確認する必要があります。
最初に未登記の種類を分ける
「未登記」と呼ばれる建物には、未登記と混同しやすい状態を含めて主に次の3つの状態があります。権利部まで登記が存在し名義だけが古い状態は、建物自体が未登記というわけではありません。どの状態に当てはまるかによって、必要な手続きや確認先が異なります。
不動産の登記記録は、「表題部」と「権利部(甲区・乙区)」で構成されています。表題部には建物の所在や構造、床面積などが記録され、権利部には所有権などの権利関係が記録されます(出典:法務省「不動産登記のABC」(新しいタブで開きます))。
| 建物の状態 | 表題部 | 権利部 | 主な状況と確認事項 |
|---|---|---|---|
| 1. 表題登記がない(完全な未登記) | なし | なし | 法務局に登記記録そのものが存在しない状態です。新たに表題登記を行う必要があります。 |
| 2. 表題部のみ登記されている | あり | なし | 建物の現況は記録されていますが、所有権の保存登記がされていない状態です。 |
| 3. 権利部の名義が古い(未相続登記) | あり | あり | 登記記録自体は存在しますが、被相続人や先々代の名義のまま変更されていない状態です(建物自体の未登記とは異なります)。 |
すべてを一括りに「未登記」と判断せず、まずは法務局に登記記録があるのか、どの部分の手続きが必要なのかを切り分けて把握することが出発点になります。
手元資料と法務局で確認する
固定資産税が課税されているからといって、登記が完了しているとは限りません。自治体の固定資産課税台帳に登録されて納税通知書が届いていても、税務上の課税対象として把握されているにすぎず、法務局に登記記録が存在する証拠にはならないためです。 また、課税明細書の家屋番号欄に記載された番号や「未登記」という表記だけで、登記の有無は確定できません。手元にある資料と法務局の記録を照らし合わせ、建物の所在地、構造、床面積などを突き合わせて確認します。
突き合わせに必要な資料の候補
- 固定資産税の納税通知書(課税明細書)や名寄帳:自治体が把握している建物の所在地、構造、床面積、課税上の番号などを確認します。
- 土地の登記事項証明書:建物が建っている敷地(土地)の登記を取得し、地番や所有者名義を確認します。
- 建物の登記事項証明書の有無:法務局で該当地番に建物の登記記録が存在するかを照会します。
- 建築当時の資料:建築確認済証、検査済証、工事完了引渡証明書、建築請負契約書など。これらは表題登記を申請する際、所有権や現況を確認するための資料候補となります(単独で直ちに所有権を証明できるとは限らず、複数の書類を組み合わせて確認することが一般的です)。
なお、自治体へ提出する「未登記家屋の所有者変更届」や、納税通知書の送付先などを指定する「相続人代表者の指定届」などは、課税台帳上の納税義務者や通知先を管理するための税務上の届出です。法的な登記手続きではありません。 また、未登記家屋の所有者変更届に必要な書類(遺産分割協議書や戸籍謄本など)は、相続や売買などの原因や自治体によって取り扱いが異なります。例えば、さいたま市や倉敷市などでも手続きや状況ごとに提出書類の案内が分かれているため、対象となる市区町村窓口で現行の手続きを確認してください。被相続人が亡くなった後の固定資産税の手続き全般については、亡くなった方の固定資産税の手続きも参考にしてください。
表題登記と権利の登記の順番
登記記録がない建物に権利関係を設定する場合、申請の順序が決まっています。
- 建物の表題登記(表示に関する登記):所在、種類、構造、床面積といった建物の物理的現況を初めて登記記録に登録します。これにより法務局に新しい登記記録が開設されます。
- 所有権保存登記(権利に関する登記):開設された登記記録の権利部(甲区)に、初めて所有権を記録します(出典:法務局「不動産登記申請手続」(新しいタブで開きます))。
未登記建物を相続した場合、表題登記を行った後、状況に応じて相続人名義で直接、所有権の保存登記を申請できます。亡くなった被相続人名義での保存登記と相続人への移転登記という二段階の手続きを必ず踏むわけではありません。この表題登記から相続人名義での所有権保存登記への順序については、東京法務局等「相続した建物が未登記であった」(新しいタブで開きます)でも案内されています。
すでに表題部のみ存在し権利部がない建物の場合は、所有権の保存登記から手続きを進めます。また、すでに亡くなった方の名義で権利部まで登記されている建物の場合は、新設の保存登記ではなく、相続による所有権の移転登記(相続登記)を行います。
登記申請の義務と期限に関する注意
建物の登記手続きには、現況を登録する表題登記の義務と、権利の移転を記録する相続登記の義務があり、それぞれ根拠規定や期限が異なります。
- 表題登記の義務:建物を新築したときや、表題登記のない建物の所有権を取得したときは、その所有権を取得した日から1か月以内に表題登記を申請しなければならないと定められています(不動産登記法第47条第1項)。
- 相続登記の申請義務(権利部):不動産を取得した相続人に対し、相続登記の申請が義務化されています(出典:法務省「相続登記の申請義務化特設ページ」(新しいタブで開きます))。
- 基本の申請義務:自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、その不動産の所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記を申請しなければなりません。
- 遺産分割後の追加義務:遺産分割協議が成立したことによって不動産の所有権を取得した場合は、遺産分割が成立した日から3年以内にその登記を申請する義務が課されます。遺産分割がまとまっていない状態であっても、基本の申請義務がなくなるわけではありません。
- 法改正に伴う経過措置:制度の施行日(2024年4月1日)より前に相続が発生し、すでに取得を知っていた未了の相続登記については、原則として2027年3月31日までに申請する必要があります。施行後に取得を知った場合は、その知った時点から3年以内が期限となります。被相続人の死亡日が一律の起算日になるわけではありません。
所有権の保存登記は、所有権移転を伴う相続登記の「3年以内」という義務とは法律上の位置づけが異なります。実家などで長期間にわたり未登記のまま置かれていた建物について、発見した日から一律に1か月や3年と自己判断することは避けましょう。取得の経緯や現在の登記状態を踏まえて、法務局や土地家屋調査士、司法書士へ確認してください。相続登記の基本的な流れや義務化の詳細は、相続登記の手続きと期限でも解説しています。
相談先を分ける
登記や税務の手続きは、専門家の職能や窓口によって対応範囲が分かれています。窓口を混同しないように確認しましょう。
| 相談先 | 担当する業務・役割 | 主な相談内容 |
|---|---|---|
| 土地家屋調査士 | 表示に関する登記 | 建物の測量・調査、表題登記の新設、増改築による変更登記、建物滅失登記など |
| 司法書士・弁護士 | 権利に関する登記 | 所有権保存登記、相続による所有権移転登記(相続登記)、遺産分割協議書の作成など(紛争性がある場合は弁護士) |
| 自治体(市区町村窓口) | 固定資産税の課税台帳管理 | 納税通知書の送付先変更、課税明細や名寄帳の発行、未登記家屋所有者変更届の受付 |
完全な未登記建物の表題登記を依頼したい場合は土地家屋調査士、その後の権利の登記や相続登記、遺産分割に関する手続きは司法書士が主な相談先となります。
売却・解体・国庫帰属前の注意
未登記の建物を相続した後、処分や活用を検討する際には事前の確認が必要です。
- 売却する場合:未登記のままでも売買契約を結ぶこと自体は法的に不可能ではありませんが、通常の不動産取引では買主への所有権移転や買主側の住宅ローン利用に伴う抵当権設定が必要になります。そのため、表題登記や所有権保存登記をどの段階までに整えるかを買主、金融機関、司法書士などの専門家と調整しながら進めることが実務上の基本となります。具体的な進め方については、未登記の建物を売却する手順をご確認ください。
- 解体する場合:登記記録自体が存在しない建物を解体した場合は法務局での建物滅失登記は不要ですが、自治体に家屋の取り壊しを届け出る必要があります。届出を行わないと、翌年度以降も固定資産税が課税され続ける可能性があります。一方、登記記録がある建物を解体した場合は滅失登記が必要です。また、母屋は登記済みで増築部分や附属建物のみを取り壊すような場合は、表題部の変更登記などを確認する対象となります。
- 相続土地国庫帰属制度を検討する場合:相続した不要な土地を国に引き取ってもらう「相続土地国庫帰属制度」では、土地の上に建物が存在していると申請が却下されます。建物が未登記であっても、地上に存在している限り制度の対象外となります。また、建物を解体・撤去したとしても、境界の確定や担保権の有無、土壌汚染や崖の有無など、制度には他にも多数の却下事由や不承認要件が定められています。解体に着手する前に、土地全体が制度の引き取り要件を満たせるかを慎重に確認する必要があります。
未登記建物の扱いや権利関係の整理、税務上の判断は状況によって異なります。まずは手元資料を整理した上で、法務局や土地家屋調査士、司法書士などの専門家へ相談してください。
