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越境がある家は売却できる?境界確認・合意書・告知の順番

越境があっても直ちに売却不能とは限りません。まず、屋根・塀・枝・配管など何がどちら側から出ているかを写真で記録し、境界の根拠資料と分けます。そのうえで、決済前の是正、合意書で現状を引き継ぐ方法、境界・権利の先行解決を比べます。

まだしないこと

境界や所有者を確認せず、隣地の物を切る・撤去する・移動する、口頭だけで将来是正を約束する行為をしない

まずすべきこと
  1. 越境らしい物を一つずつ番号付けし、向きと場所を撮影する
  2. 境界標、公図、測量図、過去の確認書・合意書を探す
  3. 資料の食い違いは土地家屋調査士へ、3つの売却案は不動産会社へ、権利義務の合意は弁護士へ相談する

このページで決めること越境の現況、境界根拠、是正条件を混同せず、買主へ引き継げる売却条件と必要な確認を決められます。

家の越境物と境界を測量図・現地写真で確認する所有者
公開日 2026年8月31日最終更新日 2026年9月14日法令・制度確認日 2026年8月31日執筆・編集 住まいのよりみち編集部読了目安 12

塀や屋根の軒先、庭木の枝、地中の配管などが境界線をまたいでいる家でも、適切な手順を踏めば売却できます。境界の確認、越境している物と向きの特定、隣地との合意や是正(直すこと)の検討、そして買主への正確な告知を、順序立てて進めることが大切です。越境の疑いがあるからといって、直ちに売却や住宅ローンの利用ができなくなるわけではありません。

ただし、見た目の印象だけで「自分の敷地に入り込まれている」「我が家が隣地にはみ出している」と決めつけてはいけません。境界標のずれや、ブロック塀が建っている位置についての思い違いも珍しくありません。公的な資料と現地の確認をせずに、法律上の越境だと決めつけるのは危険です。

隣地との境界トラブルを防ぎ、買主に安心して引き渡すためには、手順ごとのポイントを正確に押さえる必要があります。本記事では、公的な資料の集め方から隣地との話し合い、合意書の作成、売買契約時の告知や重要事項説明まで、安全に売却を進める実際の手順を解説します。

見た目で決めつけない:境界資料の収集と現況の確認

越境問題を解決する最初の作業は、思い込みを捨てて公的な図面と現地の状況を見比べることです。古い住宅地では、ブロック塀が必ずしも境界線の上に建っているとは限りません。敷地の内側に引っ込めて建てられていたり、お互いの共有物として境界の中心線上に建てられていたりするためです。

まず、法務局(登記所)で土地に関する基本的な資料を取得します。

* 登記事項証明書(土地・建物):所有者の名義、地目(土地の用途区分)、地積(登記簿上の面積)を確認します。 * 公図(地図または地図に準ずる図面):土地のおおまかな並びや、隣の土地との位置関係を把握します。 * 地積測量図:過去に土地を分けたり(分筆)、面積を正しく直したり(地積更正)したときに、法務局へ提出された測量図面です。境界標の位置や各辺の長さ、座標値が記録されているかを確認します。

資料がそろったら現地を確認し、公図や地積測量図に示された位置に、境界標が今も残っているかを探します。探す境界標には、コンクリート杭や金属標、金属鋲、刻みなどがあります。境界標が見つかったら、土や苔を取り除き、標にある矢印や刻みの向きと測量図面を見比べます。その際、境界標そのものを動かしてはいけません。境界標と、越境が疑われる構造物(塀、軒先、擁壁など)との位置関係を写真に収めます。写真は、敷地全体の位置関係が分かる広角写真と、境界標と対象物の位置関係がはっきりと分かる近接写真の両方を撮影して記録に残します。

越境の向きと対象物を特定する

境界線の位置が把握できたら、越境の「向き」と「対象物」を分類して整理します。向きによって、売主が取るべき法律上の対応や買主への影響が異なるためです。

越境の向きは、次の2つに分かれます。

* 自分の敷地から隣地へ出ている(自己越境):将来、隣地の所有者から撤去を求められるリスクがあります。売主側で解消(是正)するか、「将来解消する」という合意書を買主へ引き継ぐ必要があります。 * 隣地から自分の敷地に入っている(被越境):敷地をフルに利用できなくなるリスクがあります。買主が建て替えや増改築を行う際の邪魔になるため、事前に権利関係をはっきりさせておく必要があります。

越境している物は、ある場所(空間)ごとに性質や影響が異なります。

表:空間区分、主な対象物、売却時・利用上の主な懸念点
空間区分主な対象物売却時・利用上の主な懸念点
上空屋根の軒先、雨樋、庇、ベランダ、テレビアンテナ雨水の落下、外壁塗装時の足場架設への干渉、将来の建て替え時の斜線制限への影響
地上ブロック塀、フェンス、物置、エアコン室外機、擁壁敷地の有効利用面積の減少、再建築時の配置制限、倒壊時の責任問題
地下上下水道管、ガス管、擁壁の基礎(底盤)配管引き直しに伴う多額の工事費用、道路からの引き込み可否、掘削制限
植生庭木の枝、敷地を越えて侵入した竹木の根落葉・日照阻害・害虫問題、基礎や配管の破損リスク

見た目だけでは判断が難しい境界や、高低差のある擁壁、複雑な軒先の越境については、国家資格者である土地家屋調査士に現在の状況の測量(現況測量)や境界確認を依頼するのが確実です。土地家屋調査士の業務範囲や法的な役割については、法務省「土地家屋調査士の業務」(新しいタブで開きます)で定められています。

越境物ごとの法令ルールと無断撤去の禁止

自分の敷地に越境されている側であっても、隣地から越境している工作物を勝手に壊したり撤去したりする行為(自力救済)は法律上認められていません。無断で解体や撤去を行うと、器物損壊罪に問われたり、民法上の不法行為として損害賠償責任を問われたりするおそれがあります。一方で、庭木の枝や根などの植物については、民法第233条によって切り取るルールが別に定められています。対象物の種類ごとに、法律上のルールを確認しておきましょう。

庭木の枝と根の切除ルール(民法第233条)

隣地の竹や木が境界を越えて侵入している場合、根と枝で法律上の扱いが異なります。

竹や木の根(地中)が境界を越えているときは、越境された側の土地所有者が自ら切り取ることができます(民法第233条第4項)。一方、枝(空間)が越境している場合は、原則として竹や木の所有者に切るよう求める必要があり、勝手に切り落とすことは認められていません。

ただし民法改正により、2023年4月1日以降は次のいずれかの条件を満たす場合に限り、越境された側の土地所有者が自ら枝を切り取れるようになりました(民法第233条第3項)。

* 竹や木の所有者に越境した枝を切るよう催告した(お願いした)にもかかわらず、相当な期間内に切除してくれないとき * 竹や木の所有者を知ることができず、またはその所在(どこにいるか)を知ることができないとき * 急迫の事情があるとき(倒木のおそれなど、急いで切る必要があるとき)

催告の条件に基づいて自ら枝を切る場合は、内容証明郵便などを使い、催告した客観的な記録を残す必要があります。あわせて、相手の所在が本当に分からないか、急迫の事情に当てはまるかどうかの確認や、作業する範囲、費用負担の取り扱いについても慎重に進めましょう。

塀・擁壁・構造物は自力解体せず協議で取り決める

ブロック塀やフェンス、建物の外壁などは個人の財産です。越境しているからといって、自分で勝手に解体することはできません。境界標の真上に建てられた「共有の塀」なのか、隣地の所有者が自分のお金で建てた「単独所有の塀」なのかを過去の工事記録や契約書で確認します。その上で、所有者と話し合って撤去するか、将来取り壊すかを取り決めます。

地下埋設管は勝手に切断せず合意や引き直しを検討する

古い住宅が密集した地域では、他人の敷地の下を通って公道から水道管や下水管を引き込んでいる事例(他人の敷地を通る配管)が見られます。民法第213条の2などが定める「相隣関係(お隣同士の関係)」の規定により、他の土地に設備を通さなければ継続して水道などを使えない場合は、一定の範囲で他人の土地に設備を設置したり使ったりする権利が認められています。しかし、勝手に配管を掘り起こして切断すると重大なトラブルを招きます。売却にあたっては、配管の埋まっている場所を示す図面(埋設管図面)を水道局などで取得し、隣地所有者との合意書や引き直し工事が必要かどうかを検討します。

隣地所有者との事実確認と協議の進め方

越境の事実や境界線が確認できたら、隣地所有者に連絡を取って事実関係を共有します。最初から「越境しているから撤去してほしい」「売却の邪魔になるから合意書にサインしてほしい」と要求すると、感情的な対立を招きやすくなります。

隣地への連絡では感情的なもつれを避け、客観的な事実に基づいて話を切り出す姿勢が基本となります。たとえば、「このたび自宅の売却を検討しており、境界と現況の確認を進めております。法務局の図面と現地の状況を突き合わせたところ、お互いの境界付近について共有しておきたい点がございます」と切り出します。その上で、集めた図面や写真を持参し、感情を交えずに事実を説明するのが適切です。

話し合いの着地点は、状況に応じて次の3つから検討します。

* 引渡し前の現況是正:引き渡しまでに売主または隣地所有者の負担で撤去・切断・移設を行う方法です。庭木の枝の伐採やテレビアンテナの移設、簡単なフェンスの撤去など、少額かつ短期間で解決できる場合に向いています。 * 将来是正の合意:現時点で撤去することが建物の構造上または費用の面から難しい場合(屋根の軒先、擁壁、頑丈なブロック塀など)に、将来の建て替えや建物の解体時に越境を解消することを文書で取り決める方法です。 * 現状維持の合意:給排水管が隣地の地下を通っている場合などに、現状のまま利用を継続することを発面でお互いに確認する方法です。将来、地面を掘る工事を行うときの費用負担や敷地への立ち入り条件についても、あらかじめ取り決めておきます。

「越境に関する合意書(覚書)」に盛り込む必須条項

隣地の人と口頭で「お互い様だから気にしない」と確認しただけでは、第三者へ不動産を売却する際の法的な安心材料にはなりません。売主と隣地所有者との間で交わした合意は、原則として約束した本人同士だけを縛る約束(債権的な合意)にとどまり、新しい買主や、将来隣地を買った人に当然に引き継がれるわけではないためです。

そのため、「越境に関する合意書(または覚書)」を作成し、当事者間の取り決めや引き継ぐ義務を書面ではっきりとさせておく必要があります。

合意書に盛り込むべき重要項目は次の通りです。

* 越境の事実関係の特定:対象不動産の所在や地番、境界線の位置、越境している具体的な対象物(建物の軒先、ブロック塀など)、越境の程度(寸法や越境面積)を図面を添えて具体的に特定します。 * 所有関係と利用の経緯の確認:土地の所有関係、越境の位置や範囲、利用を承諾した経緯などを資料とともに記録します。他人の土地を自分のものだと主張できるようになる「取得時効」が成り立つかどうかは、占有の性質(どのように使っていたか)や期間などによって変わります。そのため、「将来、時効を主張しない」という一文を書くだけでは排除できるとは限りません。合意書の内容は事前に弁護士に確認します。 * 是正の時期と条件:「対象建物の建て替え、大規模修繕、または解体の際、越境物の所有者の責任と費用負担において越境状態を解消する」など、具体的に直す時期を定めます。 * 承継条項(約束を引き継ぐ条項):売買、贈与、相続などにより土地や越境物の所有権が第三者に移った場合、当事者がその新しい所有者(買主や相続人)に対して合意内容を引き継がせる義務を定めます。ただし、合意書の条項自体が将来の第三者を自動的に直接縛るわけではありません。そのため、家を売るときに買主へ合意内容を書面に明記して引き受けてもらうことや、隣地の所有者が変わった際に改めて確認を行うことなどを検討します。

合意書は同じ文面のものを2通作成し、売主と隣地所有者の双方が署名・押印(実印を推奨、印鑑証明書の添付が望ましいです)を行い、各自1通ずつ保管します。

告知・重要事項説明・売買契約書への反映

越境の事実や隣地との合意内容は、買主に対して正確に知らせる(告知する)義務があります。「合意書を作ったから告げなくてもよいだろう」と自分で勝手に判断して隠すと、重大な契約違反につながります。

告知書(物件状況等報告書)への記載

不動産の売買実務では、売主が買主に対して物件の現状や知っている履歴を知らせる「告知書(物件状況等報告書)」を取り交わすのが一般的です。国土交通省「既存住宅の告知書記入例」(新しいタブで開きます)として公表されている業界団体の参考例などでも、「境界・越境」の有無や状況を記録する項目が設けられています。

告知書には、次のような項目をありのままに記入します。

* 境界標の有無(全部ある、一部ない、全くない) * 越境物の有無(有・無) * 越境の向き(自分の敷地から隣地へ越境、隣地から自分の敷地へ越境) * 越境物の内容(屋根、雨樋、塀、樹木、上下水道管など) * 隣地との取り決め(越境に関する覚書や合意書の有無、将来解消する約束の内容)

重要事項説明書と売買契約書の特約条項

不動産会社(宅地建物取引業者)は、売主から提供された資料と現地調査に基づき、重要事項説明書に越境の事実と覚書の内容を明記して買主へ説明します。

また、売買契約書では必要に応じて「特約条項(容認事項)」の記載を検討します。

* 買主は越境物の存在を承知の上で買い受けること * 売主と隣地所有者との間で締結された合意書の内容を買主が引き継ぐこと * 越境物の現状に関して、買主は売主に対して契約不適合責任(契約内容と違うことについての責任)を追及しないこと

ただし、「契約不適合責任を追及しない」という特約を定めても、売主が知りながら告げなかった事実については責任を免れません(民法第572条)。越境の事実を隠して売却すると、引き渡し後に買主から「知っていれば買わなかった」「建て替えができない」として契約不適合責任を追及される恐れがあります。その結果、損害賠償請求や契約解除に発展する重大な法的リスクを負うことになります。

住宅ローン審査への影響

「越境がある物件は住宅ローンが通らない」と誤解されがちですが、直ちに融資を断られるとは限りません。金融機関によっては、将来の是正に関する隣地との合意書が締結され、重要事項説明書で権利義務の引き継ぎが明確に記載されていることを前提に、融資を検討してくれる場合があります。ただし、合意書があれば必ず融資や売買の成立が保証されるわけではありません。

一方で、隣地との取り決めがない著しい越境や、建て替え時に建物の面積が大幅に削られて担保価値に影響を及ぼす恐れがある場合は、金融機関の審査が慎重になったり、融資が見送られたりする事例もあります。そのため、販売活動を進めるにあたっては、越境の状況を早期に確認し、必要な対応を準備しておくことが欠かせません。

話し合いが難航した場合の公的窓口と法的手段

隣地の所有者が合意書の署名を拒否したり、境界線の位置そのものをめぐって争いがあって協議が進まない場合は、当事者同士での直接交渉を避け、客観的な第三者機関や法的手続きを利用します。

主な公的窓口や制度の役割は次の通りです。

表:制度・機関名、主な役割と特徴、取り扱う問題
制度・機関名主な役割と特徴取り扱う問題
ADR境界問題相談センター土地家屋調査士と弁護士が共同して調停人となり、話し合いによる円満な解決を支援する法務大臣認証の民間紛争解決手続きです。境界の位置や越境物の是正に関する民事上のトラブル
筆界特定制度法務局の筆界特定登記官が、外部専門家(筆界調査委員)の意見を踏まえて土地が登記された当初の公法上の境界(筆界)を特定する制度です。公図や登記に基づく筆界の位置の特定
裁判所(境界確定訴訟・調停)裁判官が法的な判断を下す司法手続きです。筆界特定や話し合いで解決しない場合の最終的な解決手段となります。筆界確定、所有権の範囲確認、建物の収去・土地明渡請求

民間調停手続きの詳細は、日本土地家屋調査士会連合会「ADR境界問題相談センター」(新しいタブで開きます)で案内されています。また、境界線そのものの公法上の位置(筆界)を確かめたい場合は、法務省「筆界特定制度」(新しいタブで開きます)を利用することで、裁判を起こさずに行政手続きとして客観的な筆界を明らかにできます。ただし、筆界特定はあくまで公法上の境界を特定する制度であり、土地が誰のものかを確定したり、越境物の撤去を命じたりする効力はない点に注意が必要です。

相手方との対立が深まった場合や、長年の越境による時効取得・妨害排除請求権の行使が絡む場合は、個別の事案に応じた専門的な法的判断が必要です。トラブルが大きくなる前に、不動産問題に詳しい弁護士へ早めに相談してください。

境界と越境を資料で分けて確定する

越境がある家の売却を進める鍵は、「境界の確認」「越境している物の特定」「隣地との協議や合意の検討」「買主への正確な告知」を順番通りに着実に進めることです。

売却を円滑に進めるための実践的な手順は以下の通りです。

  1. 法務局で登記事項証明書、公図、地積測量図を取得する
  2. 現地で境界標を探し、疑わしい越境物とともに写真を撮影する
  3. 土地家屋調査士へ相談し、必要に応じて現況測量や筆界特定を検討する
  4. 過去の建築確認図面や境界確認書、配管図面などを手元で確認する
  5. 隣地所有者へ事情を説明し、今直すか、将来直すかの条件を協議する
  6. 必要に応じて承継条項を定めた「越境に関する合意書」を作成し、双方で取り交わす
  7. 不動産仲介会社へ資料をすべて提出し、告知書と重要事項説明書に正確に反映させる

越境問題を放置したまま売りに出すと、価格交渉での大幅な減額要求や契約直前の解約、引渡し後の損害賠償トラブルにつながりかねません。まずは手元の権利証や図面を揃え、不動産仲介会社や土地家屋調査士などの専門家に提示して、現地の境界確認から着手しましょう。

参照資料

国土交通省「既存住宅の告知書記入例」参照日 2026年8月31日法務省「筆界特定制度」参照日 2026年8月31日法務省「土地家屋調査士の業務」参照日 2026年8月31日日本土地家屋調査士会連合会「ADR境界問題相談センター」参照日 2026年8月31日